時夜見鶏の宴

猫宮乾

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―― 第一章:時夜見鶏 ――

SIDE:時夜見鶏(9)

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「人がいると嫌なのか?」
「……っ、そんなのあたりまえです……」
「……そうか」

 頷いた俺は、念話で全兵士に通達した。

「『朝まで、指揮官室には近づくな。これは、命令だ』」

 ふぅ。一人満足して頷いた俺の前で、驚いたように朝蝶が目を見開いている。

「これで、寝られるだろ」
「え、あ」
「……さっさと横になれ」

 きっと疲れてるだろうしね、朝蝶も。念話は朝蝶の耳にも入っているから、俺が人払いしたの分かっただろうし。

 俺は横になり、布団を被った。早く寝よう。明日も早いし。
 ああ、眠いなぁ。

「――って、え、ちょっと時夜見」

 すると狼狽えたような朝蝶の声がした。あああ、寝付けそうだったのに……!

「なんだ?」
「寝るって……睡眠?」
「? ああ」

 他に何かあるんだろうか。怪訝に思って眉を顰めた。

「僕、体の熱がおさまらないんですけど」
「大変だな」
「……っ……意地悪しないで下さい」

 は? 俺意地悪したかな? 食事を食べられなくなったのを、怒ってるのかな?
どうしよう。

「発作が起きたらもう、ッ、もう、貴方に抱いて貰うしかないんです」

 え、そうなの!? 潤んだ瞳で、抗議するように朝蝶が俺を見ている。
 いやでも、そんな事を言われても。

 困って朝蝶を見ていると、するりと着物を脱いだ。今日は下着を着けている。買ったのかな。そして俺が横たわっている寝台の上に乗ってきた。嘘……まじで? 本気? またヤるの? ヤだ。

「朝蝶……」

 頼むから落ち着いて、明日の朝も早いしさぁ。祈る気持ちで俺は朝蝶を見据えた。
 情けないほど眉が下がったのが自分でも分かるよ。

 慌てて半身をおこすと、朝蝶が俺の服を脱がせにかかった。
 呆然としていると、そのまま脱がせられちゃった。上も下も下着も。

 ぎゅっと朝蝶が俺に抱きついてきた。また全体重がかかって重たい。しかも肌と肌が密着しているから、なんか、変な感じ。思えば、こんなの初めての経験だ。この前俺、上は着てたし。嫌、そんな事を考えている場合じゃない。

「自分でやれ」

 うん。俺は、断らないと。

「っ、は、はい……自分で、解します」

 ん? アレ? 何か違っ、うええ? は? 待って!
 俺は慌てて、朝蝶の肩を、軽く両手で叩くようにして持った。

「……」

 しかし何て言えば良いんだろう?

 考えている俺の前で、二本の指を口に含んで濡らしてから、朝蝶が、膝立ちで後ろを解し始めた。始めちゃった! もう前は起ってるし……息づかい荒いし……えー。
険しい顔でじっと見てしまう。

「っ、恥ずかし……っふ、ア、僕……なんでこんな……」

 全くだよ! 恥ずかしいよ! 何でこんな事してるの!? 止めて!
 俺どうしよう。誰か助けて。

「ああっ、や……時夜見……シて……んぅ」

 苦しそうに、朝蝶が言った。ああ、発作がきついのかな……それ以外あり得ないよな。俺のこと嫌いそうだし。

 ――本気で苦しそうだし、何か顔が辛そう。この前は、顔見なかったから分からないけど、この前も辛そうだったのかな? 嫌なのに俺とヤらなきゃならないのか……可哀想だ。本当、戻り次第薬作ろう。

「仕方がないな」

 でしょ? だって、俺が中に出さないと収まらないんだよね。はぁ。

 っていうか、俺、起つかな? この前は、朝蝶にやって貰ったんだけど、今無理そうだし……。うーん。この前は確か、口でなめられて触られたんだっけ。なるほど、自分の手でもやれるかも知れない。俺は、なんか目を伏せ喘いでいる朝蝶には気づかれないように、静かにさっと自分のソレを撫でた。よし、ちょっと起った。頑張ろう。

 朝蝶が目を開ける度に、そっと手を隠し、再び目をつむると頑張って手を動かした。
 そして、起った! 後は、魔法で維持すればいい。

「んぁああっ」

 蝶々が一際大きな声を上げて、頽れそうになった。
 俺は慌てて腰を支える。

 するとこちらを潤んだ目で見て、小さく朝蝶が笑った。俺、朝蝶の笑い所がよく分からない。って。あ。気づいたら、そのまんま、俺のソレの上に、朝蝶が、ゆっくりと乗った。

 入っていく。わー、わー、わー!! きつい、熱い、ヤだ。けど――自分の手よりは、こっちの方が良い気がする。

「あ、怖い……ン」

 嫌、怖いの俺なんだけど……。

「自分で入れるの嫌ぁッ」

 えええ? それって、俺に入れろって事? いやもう、それしかないよな。俺は腰に支えた手を動かし、朝蝶の体を下へと持っていった。朝蝶の体が揺れる度、俺のが入っていく。

「あ、ン、ふ、深い……深いです、あ、時夜見ッ」

 涙をこぼしながら、朝蝶に名前を呼ばれた。なんだか本気で悪いことしてる気しかしないよ……可哀想すぎて、俺も辛い。嫌、辛いのは朝蝶の方だ。きっと発作で体が辛いんだ。やっぱり、けどでも、俺じゃなくて、自分でどうにかした方が良くない?

「嫌なら、自分で」
「あ、あ、あ」

 朝蝶の体が揺れる。なんか、朝蝶が俺の上で動き始めた……っ!? 前後に揺れる俺のアレ、朝蝶の腰! 待って、違う、俺の上でじゃなくて、自分のベッド行ってよ! 意味が違う。俺は、自分の手で処理してってつもりだったんだけど。

「うう、あ、ぁ、時夜見、も、もう僕、ああ」

 そう言って朝蝶が俺の肩に手を置いた。俺は引きつった笑みを浮かべてしまった。
 もう、もう、俺を許して!

「動いてぇ……あ、ン、ああっ、は、早く」

 朝蝶が掠れた声で呟いた。
 ああもう、しょうがないよな……! 気合い出せ、俺!
 俺は頑張って突き上げた。

「んぁあああああ、やぁああッ、は、深い、ンぅ、あ、ああっ」

 涙が朝蝶の上気した白い肌を濡らしていく。

 だけどその瞳が、何とも言えず……なんだろう、ちょっと気持ちよさそう(?)に見える。俺の勘違いかも知れないけど。まぁどうせヤるんだから、この前、気持ちよさそうだったところを刺激してみよう。

 何か朝蝶の前は、俺の腹と擦れてるから、弄らなくてよさそう。

「ひゃっ、ぅあ、そこは……ああっ」

 何処が気持ちいいか忘れちゃったけど、何かこの辺だった気がする場所を突いてみたら、声が上がった。多分、此処なんだろう。そこを重点的に突き上げる。

「ふぁっ、あ、や、い、イく」
「……」
「ああっんぅ、時夜見……ア」

 俺、何か声かけた方が良いのかなぁ? いやでも、なんて? ああ、気持ちいい場所、此処であってるか、とか?

「ここが良いか?」
「ふ、ぁ、ああっ、ンァああ」

 しかし回答は無かった。目を伏せ、朝蝶が体を震わせている。俺も動いているけど、それでも朝蝶も動くんだ。俺、動くの止めて良いかな。

「嫌っ、んア――深い、あ」

 急に動くのを止めたからか、朝蝶の腰が一気に降りてきた。

 どうしよう。
 どうしよう!?

 もう聞くしかないよね、これ。

「うう、時夜見、何で……」
「……どうして欲しい?」
「うあ、動いてよぉッ」

 なるほど。俺は頑張って、動きを再開した。

 朝蝶が、凄く声を上げる。本当、人払いしといて良かった。だって朝蝶、この前のこともなんだか恥ずかしくて嘘ついていたみたいだし。

「時夜見、あ、あ、僕、イく」

 良かった、やっと終わりそうだ。

「俺も出す」

 そう言って突き上げると、朝蝶が出した。俺の腹がべたべたする。それを感じながら、俺も出した。はぁ、なんだろうこの開放感――これで、朝蝶から解放されると思うと、体が弛緩してきた。

 ああもう無理、俺眠さが……。けど、この体勢じゃあ寝られない。イライラするなぁもう。また俺に全体重かけてるよこの人。

「退け」

 舌打ちしたい気分だよ、この温厚な俺が。全くもう。

「っ」

 するとぽろりと朝蝶が涙をこぼした。
 あ、言い過ぎちゃったかな、ゴメンね。

「悪かったな」

 謝っておかないとな。俺の言葉に、朝蝶が、切ない顔で笑った。

 頑張って朝蝶を上から退かせて、俺は横になる。もういいや、服着なくて。眠くて仕方がないよ。

「寝る」
「時夜見……」

 まだなんかあるのかなぁ、名前呼ばれたんだけど。

「僕のこと好き?」

 は? え? 何?

 俺は思わず横になったまま、朝蝶を見た。顔が強ばってしまう。強いて言うなら、好きでも嫌いでもない。どちらかと言えば、嫌いだ。だってさ、いきなりこんな、のっかってくるんだよ? だけど、嫌いとか、俺、小心者だから言えない。

「……別に」

 だから『嫌い』を全力で換言した。だってさ、向こうだって俺のこと嫌いなんだし。好きとか言われたら、きっとヤだよね。

「っ」

 よし、寝よう。朝蝶が何故なのか、息を飲んでるけど、もう知らない。
 そのまま俺は眠った。
 翌朝まで俺は熟睡した。

 そして――目が醒めてビックリした。なんで、朝蝶、隣で寝てるの?
 自分のベッドに行かなかったのかな? 疲れて寝ちゃったのかな?

「ん、ああ……起きたんですか」

 やばい、朝蝶も起きた。起こしちゃったのかなぁ、俺。悪いことしたな。まだ眠いかな?

「……平気か?」
「え」

 何で、朝蝶、驚いた顔してるんだろう。

「無理はするな」

 うん。睡眠は良く取った方が良い。

「あ……は、はい」

 何か、顔も朱い。まさかまた発作じゃないよね。仕事だからね、もうすぐ。しかも昨日の夜食べてないから、お腹も減ってるし。時間が無い。

 その時だった。
 ノックの音と同時に、部屋の扉が勢いよく開いた。

 俺と朝蝶は、揃ってそちらを見る。
 そこにはこちらを見て、笑顔のまま硬直した、兵士がいた。

「あ、そ、その……朝食の件で……」
「……ああ」

 なんか、顔ひきつってるよ、あの兵士。俺、そんなに怖がられてるのかな。

「立ち入ったことをお聞きしますが、どうしてお二人は……その、裸で……一つのベッドに?」

 兵士の言葉に俺は、考えた。朝蝶は、ビヤクの件を恥ずかしがっている。
 下手なことは言えないな。
 そう思って朝蝶を見ると――え、泣いてる!?

「何故、こんな事をするんですか?」

 朝蝶が涙混じりの声で言った。

「……」

 俺は眉間に皺を寄せて、朝蝶を凝視した。

「僕は、僕は、」
「……」

 何? どういう事? こんな事したのそっちじゃん。

「っ」

 息を飲んでから、朝蝶がシーツを握りしめた。

「僕、嫌だって言ったのに。無理矢理、犯すなんて……」

 俺は呆気にとられた。考えてみれば、確かに嫌って言ってたかも知れない。

 だけど犯すって――んー、朝蝶の中では、性交渉は全部『犯す』なのかな? 周囲がその言葉を、誤解してるとか? 俺は険しい顔をした後考え込んで、きっとソレだなと思ったら、なんだか笑えてきた。

「ううっ」

 しかしまだ泣き続けている朝蝶を見て顔を引き締める。

「――出て行け」

 とりあえず、兵士にそう言った。すると、何も言えない様子で、足早に姿を消した。朝蝶、見られたく無さそうだからな、この前も恥ずかしがってたし。それより俺、早く周囲の誤解とかないと。

「……ふふ」
「?」

 その時シーツに顔を埋めていた朝蝶が、笑みを口から零した。あれ、泣きやんでる。それにしても本当に笑い所分からない人だなぁ。

「これで貴方の評判は、またガタ落ちですね」
「?」

 何の話だろう。俺の評判なんて、昔から地の底なんだけどな。怖がられて嫌われてるし。

「ハハっ、貴方の苦痛に歪む顔、楽しみにしてます」

 朝蝶はそう言ってベッドから降りると、着替え始めた。
 昨日は、俺と朝蝶の体を、多分朝蝶が魔法で綺麗にしてくれた様子だ。

 何故なのか、シーツだけ精液で汚れてるけど。ちゃんと全部綺麗にした方が良いと思うんだけど……んー、何か意味あるのかも知れないし、まぁ、良いか。何か、自分が掃除したのに、人に掃除されなおすと、気分悪いよね。

 しかし俺の顔が苦痛に歪むのが楽しみって、やっぱりかなり嫌われてるなぁ。
 何か、ちょっと、寂しいなぁ。
 一体、どうして、こんな……。

「……どういうつもりだ?」

 分からない時は、聞くに限る。

「どういうつもりか? 分からないんですか?」

 全然分からない俺に向かって、朝蝶が、明らかに何か嫌な感じに笑った。笑顔なのに、可愛くなかった。暦猫みたいに、怖い。怖いよ!

「時夜見、貴方に強姦魔の汚名をきせて、排除するつもりなんです、僕。昨日の、発作なんて、嘘ですよ」
「……そうか」

 なーんだ、発作、嘘か。それなら、俺は薬作らなくて良いよね。
 それに俺とヤったのは、俺が強姦した風にして、俺を社会的に抹殺するって事か。
 最初から多分、そうだったんだろうな。
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