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―― 第一章:時夜見鶏 ――
SIDE:時夜見鶏(7)
しおりを挟む――聖龍暦:9500年(二千二百四十九年後)
やっと仕事が終わった。明日から、二日間お休みだ。早く帰って寝よう。
そんな事を考えながら、俺は<鎮魂歌>を出て、朝蝶を見てしまった。
無理無理。相変わらず鬼ごっこは続いている。
本当、面倒。それに今日疲れてるし、回避回避。
「あ、時夜見、飲みに行かない?」
遠回りだが土手を歩いていると、愛犬天使がいた。
「……ああ」
それもいいかもなぁ。明日お休みだし。そんな事を考えていた瞬間、横の壁の魔法陣が歪んだ。あ、何か嫌な予感。
恐る恐るそちらを見れば、そこにはやはり――破壊神がいた。
「おい、久しぶりだな」
しかも何か、顔が怒ってる。
愛犬天使がその迫力と威圧感に、後退ったのが分かった。
「死んでるかと思ったぜ」
破壊神はニヤリ笑ってそう言った。え、なんで? 俺前回会った時、死にそうな顔してたのかな?
首を傾げてよく見ると、破壊神の額から血が垂れていた。
「ちょっと来てくれ。頼みがあるんだ」
何処に? 頼み? 何で俺に?
よく分からないが、怪我の放置は良くない。
「……おい」
「説明している時間が惜しいんだ」
「飲め」
俺は魔法薬を渡した。すると破壊神が目を見開いた。
それから逡巡するような顔をした後、ニッと笑って一気に飲んだ。効果とか聞かれるかと思って成分を思い出していたんだけど、何も言われなかった。毒だったらどうする気だったのかな。
「なんだこれ、すごくいいな。体が楽になった。もう一本くれ」
そりゃあ回復薬兼傷薬だしな。俺はもう一本手渡した。そのまま五本くらい飲まれた。
酷い。結構作るの大変なんだよそれ。
「よし、行くぞ」
だから何処に? 俺泣きそう。明日お休みなのになぁ。でもコイツと戦う感じじゃないから、良いかな。それに急ぎらしいし、後で用件聞こう。
「……ああ」
魔法陣に潜った破壊神の後を追い、俺も入った。
空間魔法に似ていたので、破壊神の気配を探り、一緒の場所に転移する。
そこは空中だったので、着地の衝撃を魔法で和らげた。危ないなぁ、もう。
「……?」
そして俺は思わず眉を顰めた。正面には巨大なタコがいた。見上げる。何この大きさ。
俺が1とすると10000くらい大きい。
たこ焼きいくつ作れるかな。
「助っ人を連れてきた」
破壊神の声で我に返る。するとそこには、沢山の神々がいた。別世界の。
「おお若いの、心強い」
「さすがは俺の指揮下」
「頑張ってくれよ」
皆が破壊神を褒め、破壊神は俺を見ている。助っ人?
困惑していると、神の一人から、巨大な棒を渡された。先には巨大な鉄で出来た白い球体がくっついている。何これ。同じ物をみんな持っていた。見れば、タコに群がり、みんながそれでタコを叩いている。なんで?
「全ての世界の上位にある総合世界でも名だたる世界敵だ」
誰かが嗄れた声で言った。何、総合世界って。ニュアンス的に、全ての世界と繋がってる感じだったけど。それに、世界的? あのタコが? まぁあれだけ大きければな!
みんなに、世界的に知れ渡るかも知れない。俺知らないけど。
「倒すぞ、行こう」
キリッとした感じで破壊神が言った。
こうしてよく分からないまま、俺はタコ叩きを始めた。かなり木魚をぽこぽこ叩いている感じだが、タコは足で、たまに暴れる。俺は避けた。が、他の神々は大半が攻撃をまともにくらい、大体一撃か二撃で戦闘不能になり、後退して回復を待っている。
人(神)手は多いので、それでも叩く人(神)数は減らない。破壊神は、十回に一回くらいの打撃で、後退している。後退していないの俺だけ。辛い。もう三十時間は叩いてる。なんで? なんで!? なんで俺、タコ叩いてるの? 今日お休みなのに。誰か俺に説明して、状況を! そんな気持ちで、隣で俺の魔法薬を飲んでいる破壊神を見た。
欲しがられる度に渡すのが面倒で、時空魔術冷蔵庫を解放したため、ガツガツと瓶を手に取られ、飲まれている。あーあ。また魔法薬作らないと。
っていうか、タコ叩き飽きた。
なんか倒せば良いんだよね、これ。
「おい」
「ん?」
俺の声に、額から流れる血を拭い、破壊神がこちらを見た。
「埒があかない、倒すぞ」
「おぅ。俺も同じ心境だ」
同意を得たので俺は跳び、棒の丸くない方で、固いタコの皮膚を突き破り、それから正面にひいて、スイカを切るように、縦に切った。
俺が一瞥すると、待ちかまえていたように破壊神が、正面に出来た隙間に攻撃を打ち込んだ。
「≪ドドンパ≫」
何かよく分からないことを言っていたが、かなり強い衝撃波を伴う攻撃だった。
異世界の攻撃呪文だろう
多分200000打ちょっとの攻撃だった。強くなってる……!
結界、強化しないとなぁ。
二人で跳び、後ろを向いた。
崩れ行くタコが盛大に土埃を上げたからだ。
すると正面で回復していた神々が、こちらを見ていた。
「≪総合世界神称号――最強神:時を入手しました≫」
「≪総合世界神称号――最強神:破を入手しました≫」
その時、ピロリロリーン、みたいな音がした。
俺の右手に、謎の金メダルが現れた。俺と破壊神に一つずつだ。何これ、イラナイ。
とりあえず空間魔法で、適当に収納した。丁度一カ所、からの所があったのだ。
後で捨てよう。
「さすがだな」
破壊神が言う。
「……もう帰って良いか?」
良いよね? タコでしょう? 目的。
「うん、またな。今度、飲みにでも行くか」
また戦うのは嫌だが、飲みにくらい行っても良いかなぁ。
「……ああ」
ま、社交辞令かも知れないしと考えて、頷いてから俺は帰った。
驚いたことに、俺の世界では、三時間しか経っていなかった。
なるほど、別の世界だから、時間の流れも違うんだ。
よし、自宅に帰って寝よう。
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