時夜見鶏の宴

猫宮乾

文字の大きさ
上 下
11 / 22
―― 第一章:時夜見鶏 ――

SIDE:時夜見鶏(7)

しおりを挟む


 ――聖龍暦:9500年(二千二百四十九年後)


 やっと仕事が終わった。明日から、二日間お休みだ。早く帰って寝よう。

 そんな事を考えながら、俺は<鎮魂歌>を出て、朝蝶を見てしまった。
 無理無理。相変わらず鬼ごっこは続いている。
 本当、面倒。それに今日疲れてるし、回避回避。

「あ、時夜見、飲みに行かない?」

 遠回りだが土手を歩いていると、愛犬天使がいた。

「……ああ」

 それもいいかもなぁ。明日お休みだし。そんな事を考えていた瞬間、横の壁の魔法陣が歪んだ。あ、何か嫌な予感。

 恐る恐るそちらを見れば、そこにはやはり――破壊神がいた。

「おい、久しぶりだな」

 しかも何か、顔が怒ってる。
 愛犬天使がその迫力と威圧感に、後退ったのが分かった。

「死んでるかと思ったぜ」

 破壊神はニヤリ笑ってそう言った。え、なんで? 俺前回会った時、死にそうな顔してたのかな?

 首を傾げてよく見ると、破壊神の額から血が垂れていた。

「ちょっと来てくれ。頼みがあるんだ」

 何処に? 頼み? 何で俺に?
 よく分からないが、怪我の放置は良くない。

「……おい」
「説明している時間が惜しいんだ」
「飲め」

 俺は魔法薬を渡した。すると破壊神が目を見開いた。

 それから逡巡するような顔をした後、ニッと笑って一気に飲んだ。効果とか聞かれるかと思って成分を思い出していたんだけど、何も言われなかった。毒だったらどうする気だったのかな。

「なんだこれ、すごくいいな。体が楽になった。もう一本くれ」

 そりゃあ回復薬兼傷薬だしな。俺はもう一本手渡した。そのまま五本くらい飲まれた。
 酷い。結構作るの大変なんだよそれ。

「よし、行くぞ」

 だから何処に? 俺泣きそう。明日お休みなのになぁ。でもコイツと戦う感じじゃないから、良いかな。それに急ぎらしいし、後で用件聞こう。

「……ああ」

 魔法陣に潜った破壊神の後を追い、俺も入った。
 空間魔法に似ていたので、破壊神の気配を探り、一緒の場所に転移する。
 そこは空中だったので、着地の衝撃を魔法で和らげた。危ないなぁ、もう。

「……?」

 そして俺は思わず眉を顰めた。正面には巨大なタコがいた。見上げる。何この大きさ。
 俺が1とすると10000くらい大きい。
 たこ焼きいくつ作れるかな。

「助っ人を連れてきた」

 破壊神の声で我に返る。するとそこには、沢山の神々がいた。別世界の。

「おお若いの、心強い」
「さすがは俺の指揮下」
「頑張ってくれよ」

 皆が破壊神を褒め、破壊神は俺を見ている。助っ人?

 困惑していると、神の一人から、巨大な棒を渡された。先には巨大な鉄で出来た白い球体がくっついている。何これ。同じ物をみんな持っていた。見れば、タコに群がり、みんながそれでタコを叩いている。なんで?

「全ての世界の上位にある総合世界でも名だたる世界敵だ」

 誰かが嗄れた声で言った。何、総合世界って。ニュアンス的に、全ての世界と繋がってる感じだったけど。それに、世界的? あのタコが? まぁあれだけ大きければな!

 みんなに、世界的に知れ渡るかも知れない。俺知らないけど。

「倒すぞ、行こう」

 キリッとした感じで破壊神が言った。

 こうしてよく分からないまま、俺はタコ叩きを始めた。かなり木魚をぽこぽこ叩いている感じだが、タコは足で、たまに暴れる。俺は避けた。が、他の神々は大半が攻撃をまともにくらい、大体一撃か二撃で戦闘不能になり、後退して回復を待っている。

 人(神)手は多いので、それでも叩く人(神)数は減らない。破壊神は、十回に一回くらいの打撃で、後退している。後退していないの俺だけ。辛い。もう三十時間は叩いてる。なんで? なんで!? なんで俺、タコ叩いてるの? 今日お休みなのに。誰か俺に説明して、状況を! そんな気持ちで、隣で俺の魔法薬を飲んでいる破壊神を見た。

 欲しがられる度に渡すのが面倒で、時空魔術冷蔵庫を解放したため、ガツガツと瓶を手に取られ、飲まれている。あーあ。また魔法薬作らないと。

 っていうか、タコ叩き飽きた。
 なんか倒せば良いんだよね、これ。

「おい」
「ん?」

 俺の声に、額から流れる血を拭い、破壊神がこちらを見た。

「埒があかない、倒すぞ」
「おぅ。俺も同じ心境だ」

 同意を得たので俺は跳び、棒の丸くない方で、固いタコの皮膚を突き破り、それから正面にひいて、スイカを切るように、縦に切った。

 俺が一瞥すると、待ちかまえていたように破壊神が、正面に出来た隙間に攻撃を打ち込んだ。

「≪ドドンパ≫」

 何かよく分からないことを言っていたが、かなり強い衝撃波を伴う攻撃だった。
 異世界の攻撃呪文だろう
 多分200000打ちょっとの攻撃だった。強くなってる……!

 結界、強化しないとなぁ。
 二人で跳び、後ろを向いた。
 崩れ行くタコが盛大に土埃を上げたからだ。

 すると正面で回復していた神々が、こちらを見ていた。

「≪総合世界神称号――最強神:時を入手しました≫」
「≪総合世界神称号――最強神:破を入手しました≫」

 その時、ピロリロリーン、みたいな音がした。
 俺の右手に、謎の金メダルが現れた。俺と破壊神に一つずつだ。何これ、イラナイ。

 とりあえず空間魔法で、適当に収納した。丁度一カ所、からの所があったのだ。
 後で捨てよう。

「さすがだな」

 破壊神が言う。

「……もう帰って良いか?」

 良いよね? タコでしょう? 目的。

「うん、またな。今度、飲みにでも行くか」

 また戦うのは嫌だが、飲みにくらい行っても良いかなぁ。

「……ああ」

 ま、社交辞令かも知れないしと考えて、頷いてから俺は帰った。


 驚いたことに、俺の世界では、三時間しか経っていなかった。
 なるほど、別の世界だから、時間の流れも違うんだ。
 よし、自宅に帰って寝よう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

あなたが好きでした

オゾン層
BL
 私はあなたが好きでした。  ずっとずっと前から、あなたのことをお慕いしておりました。  これからもずっと、このままだと、その時の私は信じて止まなかったのです。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

処理中です...