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―― 第一章:時夜見鶏 ――
SIDE:時夜見鶏(6)
しおりを挟むその数日後のことだった。
もっのすごく機嫌が悪そうな声の聖龍に念話(心で考えたことが伝わる会話法)で呼び出され、俺は、休日だから寝ようと思っていたのに、<鎮魂歌>の宮殿に出向いた。
「何故呼び出されたかは分かっているだろうな?」
「……?」
全然見当もつかない。だって俺、真面目に仕事してるし。
憤怒に駆られるように沈黙してから、じろりと俺を睨み、聖龍が歩き出した。
俺も無言でついていく。
すると、応接間に辿り着いた。
中に入ると、悔しそうに泣きそうになっている蝶々と、沢山の空神がいた。
空の神々は、皆俺を怒りの形相で睨んでいる。え? なんで?
この前の戦で倒しすぎたとか?
それ以外思い当たることはない。
「うちの大切な朝蝶になんて事を……!」
外見は年老いている空神の一人が叫んだ。俺の方が絶対的に年上なんだけど、俺、もう暫く外見変わってないからなぁ。
「無理矢理犯すなんて!」
「それもビヤクを使って!」
「最低だ!」
そのまま凄い剣幕で糾弾された。
何事だかよく分からず聖龍を見ると、こちらも蔑むように俺を見ていた。
「擁護しかねるぞ。今回の行いは、最低だ」
何が?
俺、一体何をしたんだろう。
「……」
暫く考えた。朝蝶を見ると、目があった瞬間、怯えるような顔をされた。
「性交渉は、同意の下、双方が愛し合って行うべきだ」
聖龍の言葉に、虚を突かれて俺は小さく目を瞠った。
性交渉――……? あ、このまえの、アレか!
けど同意してたというか、いやぁ俺は同意した覚えないけど向こうが頼んできたんだし……またビヤクって単語出てきたけど、アレは朝蝶が誤飲したんだし……最低、は、勘違いだろうとして、犯すって、ああ、性交の事か。SEXって奴か。
けどこれじゃあ、何か俺が、無理矢理ヤったみたいじゃん? 聖龍も、擁護しかねるって言ってるんだから、俺がヤったと思ってるって事だよな。えええ。
困惑して朝蝶を再び見ると、哀しそうな顔をしていた。
そこで、ハッとした。
きっと、後ろでヤっちゃったのが、朝蝶は恥ずかしいんだろう。
それでこんな嘘を……! ちょっと笑っちゃった。
だとしたら、ばらしたら可哀想だ。
俺は、何も言わないことにしよう。そう決めた。
周囲は罵詈雑言の嵐だったが、暦猫の説教に日夜堪えている俺は、聞き流すことが得意だ。ぼんやりと、次はどんなアクセを作ろうかなぁなんて考える。
「何か言ったらどうだ?」
「……」
聖龍の言葉で一時意識が引き戻された。だけど何か言ったら、朝蝶が可哀想だし。
俺は何も聞こえないよう、風魔法をひっそりと使い(此処も本当は魔法禁止だし)、音声を遮断した。
「謝罪をしろ!」
また聖龍が何か言っていたが、もう俺には聞こえない。
そのまま一時間くらい俺は無言を貫き、やっと解放された。
なんだかよく分からないが、帰り際、すれ違う度に道行く兵士に険しい視線を向けられ、ひそひそされた。なんか居心地が悪かったので、さっさと俺は帰宅した。寝よう。
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