時夜見鶏の宴

猫宮乾

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―― 第一章:時夜見鶏 ――

SIDE:時夜見鶏(3)

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 ――聖龍暦:7751年(五百年後)

 そんなある日。
 歩いていたら、暦猫の声が響いてきた。

「っ、貴方は何者です?」
「んー、お前に用はないよ。俺は、時夜見鶏とか言う強そうな奴が引っかかったから、会いに来ただけ。倒しにな」

 朝蝶から逃げながら向かった先で、暦猫が、見たことのない男と会話していた。

 ――すごく、強そうだなぁ。
 だけど、あんな奴、いたっけ?

 俺は影から、茶色い髪の青年を観察した。目は赤味がかった茶色。記憶にない。

 でも、俺を指名している。引っかかったって、何にだろう。しかも俺、倒されんの?
え? 本当、誰アレ。

 けどなぁ……出て行った方が良いよな。あの暦猫が、引きつった顔をしてるんだし。

 勇気を出せ、俺。ん、え、いやでも、出て行ってどうすれば良いんだろう。
 そうだ、用件を聞こう。

「何か用か?」
「お」

 すると青年がこちらを向いた。明るい顔で笑っている。闘志に溢れた強い視線がこちらを見た。戦う気満々だ……嫌だなぁ。折角朝蝶から逃げてきたのに。俺しかも今日、疲れてるし。

「俺は破壊神。他の世界の、な」

 他の世界……?

 そう言えば確かに、この世界の外にも、少なくとも二つは世界があるみたいだ。

 俺よく、結界を張ってる。何か飛んでくるんだもん。で、確かに結界に、最近、妙にぶつかってくるものがあった。

 きっとコイツだ。

 あの結界で、他の世界から多分誤射で飛んでくる攻撃を防いでいたんだけど、それよりコイツの方が強いって事か。兵器より強いって……。

「相手してくれよ。なぁ?」

 何でこの人、こんなに楽しそうなの?

 けど、コイツが他の世界の標準の強さだとすれば、結界を張り直す時に、それより強力なのはれるから、ちょっと実力、見てみようかな。

「……ああ」

 俺が頷いた瞬間だった。
 容赦なく間合いを詰められ、近距離から攻撃された。

 慌てて交わして考える。威力は――50打って所かな。打というのは、この世界での攻撃による体力(HPと呼んでいる)消費率の事だ。ちなみに攻撃をこちらから放った時に使う体力(もしくは精神力?)もある(MPだ)。

 うーん、属性は、この世界で言う風魔法に近い。
 その後も同じくらいの威力の攻撃が、拳や蹴りから繰り出された。

「ふ」

 破壊神が笑った。唐突に、500打の攻撃がきた。

 俺は咄嗟に吸収結界を展開した。攻撃をそれで受け止める。吸収された攻撃は、時空魔法でどこかへ行った。今の、普通に当たってたら、この世界が揺らいだだろうなぁ。神々の攻撃で、あるいは喧嘩で、結構世界は傷つく。

「防戦一方かよ。手も足も出ないって?」

 俺は繰り出され続ける500打クラスの攻撃を、三秒に一回ずつくらいのペースで、結界で受け止めた。

 危ないよ、この人、この世界を滅ぼしに来たの?
 え、なんで? それは、さすがにちょっとなぁ。

「くっ」

 止めなきゃなと思って、俺は700打くらいの威力の魔法を宿し、相手の鳩尾に膝蹴りを喰らわせた。まともに喰らったのに、すぐに破壊神は距離を取った。

 どのくらいHPが減ったかというと、1くらいだった。うわぁ強いなぁ。しかも躊躇無く500打とか打ってくるんだから、もっと上なんだろう。ちょっと、探ってみよう。

 1000打の攻撃が来た瞬間、俺は回避してから間合いを詰めて、1100打の攻撃を放った。すると、1500打の攻撃が返ってきた。どうしよう、他の世界の神々って、これが平均なの? 襲われたら、この世界大変なことになるよ!

 強い結界はらないとなぁ。しかもまだ余裕そう。もうちょっと、観察しよっ。でも眠いから、早く実力探れるように、倍々で行こう。上があれば、その威力で攻撃が返ってくるだろう。俺はそう思い、3000打の攻撃を放った。お、俺の攻撃をかわしたぞ。

「危ねぇなぁ」

 でもこの人笑ってるよ……。けど交わしたんだから、当たると痛いんだろうな。そして5000打の攻撃がきた。吸収結界頑張ってくれ。ま、まだ余裕だけど、この結界なら。

 ふむ、10000打打ってみるか。打つと、10500打が返ってきた。11000打を放つ俺。12000打が返ってきた。15000打を打ってみよう――あ、やばい、まともに当たっちゃったよ。

「――さすがだな」

 破壊神のHPが四分の一ほど減った。あれで、四分の一か。この人、固いなぁ。固いというのは、HPが中々削れないことだ。

「俺もまだまだみたいだ。調子のってた。もっと強くなってから、出直すわ。またやろうぜ」

 絶対に嫌だ。二度と、やりたくない。し、とりあえず50000打に堪えられる結界はるから、きっとしばらくは大丈夫だろう。だってこれまでに貼ってあった10000打の結界壊すのに、この人一年くらい頑張ってたみたいだし。

「じゃあな」

 その時、ポンと、破壊神が近くの壁を叩いて、姿を消した。

 あ、まずい。転移用の魔法(?)じゃないな、これ。けど、なんらかの転移用の紋章刻まれちゃったよ、壁に。そこから、破壊神は帰って行った。確実にまた来る気だ。ペンキ塗り直したら、来ないかな?

「――時夜見鶏」

 暦猫の声で、我に返った。

「久しぶりに貴方の本気を見ました……やはり、強いですね」

 いや別に、そんな。本気じゃないけど。
 何て言ったら、イヤミになっちゃうかな?

「別に」

 顔を背けて、俺はそれ以上会話が続くのを回避した。
 それにしても、疲れたなぁ。早く帰って、寝よう。


 その後も、容赦なく鬼ごっこは続いた(なるべく避けてるんだけど)。
 俺は捕まえ続けた。続けたのだ! 頑張っていると思う。

 もう五百年だ。

 俺は、1000回数えた所で、もう回数は数えないことにした。
 あーあ。早く戦争終わらないかな。俺、血なまぐさいの、本当に嫌い。

 それに、気まずいんだよね、すごく。
 大抵無言の俺達。

「っ」

 時折、やっぱり朝蝶はピクンとする。俺が贈った着物をいつも着てくれている。良かった、と思うが、そろそろ新しい服、あげようかなぁ。でもほつれてないし、あげづらい。
ただ一応用意しておこう。作るのは勝手だよね、俺の。

 今度はどんな服にしようかなぁ。
 俺は、じっと朝蝶を眺めた。


 着物の試作品をいくつも作る内に、暫く経った。
 今日も、朝蝶が<鎮魂歌>の庭にいる。
 俺は最近、朝蝶を避けるために、きょろきょろしている。

「また朝蝶のこと探してるの?」

 愛犬天使にそう聞かれた。満面の笑みだ。

「ああ」

 逃げなきゃならないからな。

「好きなの? ずっと、目で追ってる」

 いや、目で追ってるのは、逃げるためだ。

「別に」

 俺の言葉に、愛犬が苦笑した。俺が苦笑したいよ。けど俺の表情筋、あんまり動かない。

 その日の午後、朝蝶と目が合ってしまった。もう、ヤだ俺。
 追いかけっこ開始。
 だらだらと俺は走る。本当、面倒くさい――ん?

 なんだか、今日の朝蝶は、顔色が悪いし、息が上がっている。
 具合、悪いのかな?
 え、鬼ごっこしてて大丈夫なの?

 俺がそう考えた瞬間、朝蝶が倒れた。

「おい」

 慌てて駆け寄り、とりあえず地面に激突するのを避けて、腕で受け止めた。
 こちらをぼんやりと見た後、朝蝶は意識を失った。

 捕まえたけど、捕まえたけどさ、これ、どうしよう? どうしよう!? 俺だって、病人を吊すほど、鬼じゃないよ? それに、休ませてあげた方が良いよね。確か朝蝶の部屋は、第二師団官舎にある。仮眠室もあるはずだ、俺の部屋と同じ造りなら。

 さすがに敵の拠点である空族の館まで運ぶのは、俺怖い。絶対殺されるよ! 袋だたき確実。俺は、時空魔法で移動した。本当は<鎮魂歌>の宮殿内は、魔法禁止だ。だけど、破った。緊急事態だし。

 それから俺は、寝台に朝蝶を横たえ、魔法薬を飲ませた。
 多分、風邪だな。
 って、あれ、吊すのどうしたらいいのかな?

 考えている内に五時間が経過し、俺はその間、ぬれタオルを当てたりしつつ、朝蝶を見ていた。

 六時間目が過ぎた頃、体調が良くなったのか、朝蝶が目をさました。

「っ」

 そして唖然とした様子で起き上がり、俺を見て目を見開いた。
 濡れたタオルが、ぽとりと床に落ちる。

 もう夕食の時間は終わっていたし、胃に優しい食べ物が良いだろうと思って、俺は時空魔法で、おかゆを用意した。

「食べろ」

 うん、絶対何か胃に入れた方が良いよね。

「……」

 暫しの間、俺とおかゆを交互に見た後、朝蝶が食べ始めた。
 それが終わったのを確認した時、朝蝶が困惑したように言った。

「あの……何故――吊さないんですか?」

 え?
 ええええ?
 今から吊すの? もうちょっと、休んだ方が良いと思うな、俺。

「……」

 休めと念じて、俺は朝蝶を見た。しかし続くのは無言。
 しかたがないので、俺は石室へと移動した。

 そして二時間吊して、帰った。


 その一週間後、朝蝶が俺に歩み寄ってきた。
 今は<鎮魂歌>内にいるので、追いかけっこはしなくて良い。

「あの……」

 が、話しかけられて困った。え、何急に。何話すの? 何の用?

「……」

 しかし朝蝶は、無言になってしまった。これって、俺が何か話し振るべき?
 俺話題とか持ってないよ。そこで思い出した。この前、風邪ひいてたな。

「……具合は?」

 大丈夫だろうけど。だってもう、一週間経つし。

「っ、平気です。その……」

 朝蝶が俯いて唇を噛んだ。苦しそうだ。なんだろう、本当はまだ風邪?
 俺は近づき、朝蝶の顔を見た。額触ってみようかな?
 そう思い、熱を確認しようと右手をあげた瞬間だった。

「<鎮魂歌>内での攻撃は禁止されている」

 聖龍の声だった。え、俺、攻撃してないけど? 何、俺の手が攻撃しているように見えちゃったとか? けど攻撃しちゃ駄目なのは分かってる。まずは、それを伝えてから、誤解を解こう。

「……そうだな」

 聖龍は険しい顔で俺を見た後、歩き去った。

「……」

 朝蝶は、俺を暫し見た後、やはり無言で歩き去った。
 残された俺。
 なんだか、よく分からない。何だったんだろう。

 だがその後も、時折朝蝶が歩み寄ってくるようになった。
 しかし話しはしなかった。

 何故なのか、朝蝶が口を開きかけるか、俺が口を開きかけるかする前に、険しい顔で空族の誰かがやってきて、朝蝶様に触るな! とか、朝蝶様に近づくな! と言うのだ。近づいてくるの、向こうなのに……。

 そんな日々が続き、暫くすると朝蝶も、以前同様すれ違っても無言になったし、俺に近寄らなくなった。まぁ、いいか。そうして前の通りの平穏(?)が、少なくとも<鎮魂歌>内では戻ってきた。


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