時夜見鶏の宴

猫宮乾

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―― 序:周囲に見えた現実 ――

SIDE:周囲に見えた現実(3)

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 ――聖龍暦:7751年(五百年後)

 その後も時夜見鶏の強さは、語り継がれていく。

 ある時は、別の世界からやってきた破壊神を本気で痛ぶったとも言われている。
 そして――目が会う度に、時夜見は朝蝶を追いかけては捕まえた。

「っ」

 空色の着物に着替えさせられ、壁に朝蝶は貼り付けられていた。
 石で出来た部屋だった。
 白い両掌には、長い針が打ち付けられている。

 杭というのが正しいのかも知れない。

 壁に並んで灯った赤い蝋燭の内一本が、左を向いて顔を背けている朝蝶の右の鎖骨へ、定期的に蝋を落とす。

 正面からそれをじっと眼を細め、時夜見は見ていた。
 ――何も言わずに。
 それがもう五百年ほど、繰り返されていた。

 そんなある時のことだった。

 いつものように追いかけていた時夜見鶏が、ラピスラズリの媚薬を飲ませて、朝蝶を犯したのだと言う。その媚薬は、後孔で出すまで、効果が消えない。

「早く、中を触って下さい」

 懇願するように、空巻朝蝶が言う。
 媚薬で熱くなった体が、もどかしそうに震えていた。

「……」

 裸で、後ろの双丘を時夜見鶏に向けている。桜色の菊門がひくついていた。
 白い肌は上気し、目は潤んでいる。
 それをじっと、いつもの通り時夜見鶏は見ていた。

 そして――たっぷりと沈黙を挟み、それから静かに言う。

「何処だ? ――何処を触って欲しいんだ?」
「……っ、ここ、です」

 羞恥を堪えるような赤らんだ表情で、朝蝶がか細い声で口にした。
 その時、時夜見の指が揶揄するようにゆっくりと、朝蝶の後孔に触れる。

「ぁ……もっと」
「……」

 朝蝶の反応に気をよくしたのか、時夜見が続けて指で表面を弄る。

「ここか?」
「うぅ……ぁっ、ン……はぁ」

 その刺激だけでも疼く体が辛くなり朝蝶が、嬌声が漏らす。涙が滲んででいた。

「早く中に……」
「ここに、何を出して欲しいんだ?」
「っひ、酷い……っは、じらさないで……時夜見の、精液っ」

 時夜見は羞恥に震える朝蝶を、じっと見る。
 見ていた。
 瞳はいつもの如く、残忍だ。眉間に皺が寄っている。

「早く……っ、ぁ……ああっ」

 快楽に喘いだ朝蝶に向かい、内心失笑でもしているかの如く、彼は言う。

「いつも、どうしてるんだ?」
「っ」

 息を飲み目を見開いた朝蝶が、快楽で震える喉を叱咤し、悔しそうに首を振る。
 後ろを暴かれたことなど、これまでにはない。

「ぼ、僕、そんな……いつもなんて……酷い」

 そんな朝蝶の様子を暫し堪能するように眺めた後、時夜見が言った。

「出して欲しいんなら、起たせてくれ。出来るだろ?」
「っく……と、時夜見ッ……わ、分かったから……ああっ」

 おずおずと振り返り、震える手で朝蝶が時夜見の下衣をおろす。

 それから巨大な陰茎に手を添え、苦しさすら覚える快楽から解放されたくて、それを口へと含んだ。小さな口が、苦しそうに男根を咥える。唾液が滴り、朝蝶が辛そうに涙した。それを淡々と時夜見は見おろしている。

「もう良い」

 普段と変わらぬ冷たい声だった。『下手くそ』とでも嘲笑うかのように、時夜見がゆっくりと瞬きをする。その姿に、朝蝶が恐怖からか息を飲む。

「っ」
「離せ」

 それだけ言うと、唐突に朝蝶の体を、元の通りにうつぶせで岩に押し付け、時夜見はいきなり指を菊門に差し入れた。魔法薬を指に垂らし、勢いよく第一関節まで入れた後は、中をゆっくりと探る。

「ん、ぁああっ」

 焦らすような指の動きだった。最早疼きが止まらない蝶々の体を楽しむように、指が緩慢に奥へと進む。

「ふっ、あ、いやッ」

 朝蝶が泣き叫ぶように声を上げると、静かに引き抜こうとした。
 その刺激にすら、体が快楽でおかしくなりそうで、朝蝶は哀願する。

「もっとぉっ」

 すると今度は、二本の指が入ってきた。

「ンあ――ひっ、うあ」
「これが望みか?」

 奥までつきいれ、ぐちゅぐちゅと朝蝶の秘部をかき混ぜながら、時夜見が言う。

「気持ちいいか?」
「は、はい……っ」

 快楽に屈しそうになり意識が朦朧としたのと、恐怖から、朝蝶には反論する術など無かった。ゾクゾクと快感の波が押し寄せる。気づけば白い太股が揺れていた。バラバラに動く指が、朝蝶の中を押し広げるように動く。
そして――最も感じる場所を突き上げた。

「あ!」

 思わず高い声が漏れた。口を塞ごうとして朝蝶は、己の手は岩についていて自分の体を支えているのだと気がついた。後ろを突き出すようにしているのだ。犬のような自身の体勢に苦しくなった。それ以上に、一度刺激されたため、媚薬の効果で熱い内部が、さらなる快楽を求め始めた。

「そ、そこは……っんぅ」
「ここか?」

 嬲るように再び突かれ、意識が飛びそうになる。

「はっ、ぁああっ。も、もう僕……んぅ、イっちゃう……っ」

 後ろを嬲られているだけなのに、前がおかしなぐらいに反応していた。
 たらたらとこぼれる先走りの蜜と、羞恥と快楽がもたらすもどかしさで震える。

「うあっ、ああっ、そ、そんな……っ、ああっ」

 もう、限界だった。朝蝶は、快楽に飲まれ、声を上げる。

「も、もう、中に入れてっ」

 すると待ちかまえていたかのように、奥まで一気に時夜見が体を進めた。

「ああっ! そんな急にっ」

 それからゆっくりと引き抜く。
 その衝撃で最早訳が分からなくなった朝蝶は、喘いだ。

「いやっ、ああっ、もっと奥を――ひっ」

 無我夢中で朝蝶が言うが、今度は意地悪く、ゆっくりと時夜見が腰を退く。

「う、ああああっ、や、いやだ、焦らさないでっ」

 そしてその声を合図に、今度は激しく抽送を開始した。動く度に卑猥な水音と、体がぶつかる音がした。奥まで一気に貫かれては、引き抜かれ、朝蝶があられもない声を上げる。

「あ、あ、っ、んぁ、や、ぅう」
「どうだ?」

 満足したのか動きを止め、暫く間をおいてから、時夜見が言った。
 しかし既に刺激を求めてやまない体に、朝蝶は堪えられない。
 それを見越してか、時夜見鶏は動きを止めたまま、朝蝶を見据えている。

「もっと突いてっ、ああっ、奥、あ、さっきの所ッ」

 その時、再び奥まで、一気に時夜見が貫いた。

 激しさを増した陰茎が、最奥を探すかのように深く進み、朝蝶の後孔の中で暴れた。

 逃げようと藻掻いた朝蝶の腰を、逃がさないというようにつかみ、泣き叫ぶ朝蝶には構わず、体を動かしている。

「あ、ああっん、ひゃっ、激しッ、ああっ」

 それから時夜見は、動きを再び止めた。
 震える朝蝶を一瞥し、それから、最も感じる箇所を突き上げた。

「ふぁああッ、ひ、あ、ア、駄目、駄目もう僕――で、出る」

 悦楽に震える朝蝶の上気した体を、淡々と時夜見が眺める。何も言わずに。
 それから急に、朝蝶の綺麗な色をした陰茎を掴んだ。
 垂れていた蜜をくちゅくちゅと撫で、片手を上下させる。

 中と外を同時に刺激され、酸素を求めて朝蝶が唇を開いた。熱い吐息と声が漏れた。
 それを時夜見鶏は眺めている。冷酷そうな瞳で。
 しかしそこには、冷酷さだけではなく、残忍さと、そして欲望が宿っていた。

「ああっ――ッ、ん、こ、こんな……あ」

 ゆるゆると時夜見が腰を動かす。緩急をつけたその動きに、朝蝶は最早抵抗する術を失い、ただ震えるしかできない。静かな絶望が、心を染めていく。

「ひァ……!」

 時夜見鶏が中をいっそう強く抉った瞬間、朝蝶の前を扱き上げた。
 短く声を上げ、朝蝶が達した瞬間、後ろに温かい白液が満ちた。

 そのおかげで、媚薬の効果は切れたものの、体力もまた限界だった。
 ぐったりと岩に体を預ける。

「もういいか?」

 ――それとも、まだするか?
 そんな声で、時夜見が言った。

「……は、はい……」

 答えた蝶々の声は儚く、消え入りそうだった。


 その行為に空神族は激怒したし、流石に<鎮魂歌>側でも、非難の声が上がった。
 しかし時夜見は何も言わずにそれを聴いているだけだったそうだ。

 ――淡々と聖龍が時夜見鶏に告げた。しかし正面から視線を受けた彼は、じっと見ているだけだ。いつもの通りの無表情で。

「何故呼び出されたかは分かっているだろうな?」
「…」

 何も言わず、冷酷な瞳で聖龍を見る。威圧感があった。いつも怖気がするほどの力の気配を撒き散らしているとはいえ、正直、創世神の聖龍ですら震えそうになる目をしていた。

「うちの大切な朝蝶になんて事を……!」
「無理矢理犯すなんて!」
「それも媚薬を使って!」
「最低だ!」

 怒りに声を上げる空神達。

 それにも何も言わず、ただ鬱陶しそうに眼を細めただけで、時夜見鶏は首を動かした。
 気怠そうにしながら、聖龍へと視線を向ける。

 その態度にも、神々を統べる者として、仮に相手が空族という敵であったとしても、聖龍は苛立った。純粋に、気分が悪くなった。

「擁護しかねるぞ。今回の行いは、最低だ」
「……」
「性交渉は、同意の下、双方が愛し合って行うべきだ」
「……」

 何も言わないまま、不意に時夜見鶏が意地の悪い顔でニヤリと笑った。
 思わず周囲が息を飲む。
 それから朝蝶を一瞥した時夜見鶏は、嘲笑しているようだった。

「何か言ったらどうだ?」
「……」
「謝罪をしろ!」

 結局謝罪することはなく、時夜見鶏はその日何も言わなかった。

 その冷酷さは即座に<鎮魂歌>中に伝わり、恐れと侮蔑の視線が時夜見鶏へと向けられたが、彼は余裕の表情で、いつもの通りに帰って行った。


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