ゼーレの御遣い

猫宮乾

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―― 本編 ――

2:御遣いとの交わり(★)

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 それからも徹底的にルカは、ラファエルを避け続けた。

 ラフは寧ろ、逃げまどうルカを楽しそうに眺めてすら居るようで、時折神出鬼没で顔を見せては驚かせている。
 そんな日常の中、ルカの逃亡技術はドンドン上がっていった。

 それでもコールが傷ついていると聞いたから、可能な限りルカは、コールとラフが二人で歩いている時は避けないようにしている。そういう時は、ラフの方もルカに声をかけないと、次第に気がつくようにもなった。そうした日々になれてきていたからなのか、最近では図書館にいる時などは、ルカも気を抜くようになっていた。

 魔術書が入っている第二図書館には、ほとんど人気がない。

 なにせこの学園の生徒の中で、魔術書を率先して読む生徒は、現在魔術科に所属している生徒二人だけだったし、その二人は決して熱心に本を読むタイプではなかったので、ほぼその場所はルカだけのものであるとも言えた。

 唯一神ゼーレを信仰する島だから、昔から魔術を学校で学ぶ者などほとんど居ない。
 魔術と錬金術は、世襲制が圧倒的に多い。
 何せ時折、悪魔とも手を結ぶ学問だからだ。

 御遣いよりは悪魔の方が人間にとっては身近な存在だったし、死ぬ間際に必ず現れる死神も、それなりに出会う可能性は高い。ただし死神は神とはいうものの、明らかに別の存在なのだ。

 ちなみに聖職者は、叡霊獣を基本的に使う。召喚した叡霊獣を扱う際には細い杖を、その他の神聖術を使う場合には十字架を手にするのだ。

 叡霊獣とは、時折現れ人間に害をなす狂霊獣と対をなす、召喚可能な獣である。死神と同じ天魔界に普段は両者とも生息している。契約し呼び出すことで、聖職者に協力してくれるのが叡霊獣だ。その中で、闇に浸蝕され理性を失ったモノが、狂霊獣と呼ばれるのである。

 ルカは、書架から五・六冊の本を抜き出して、振り返った。

「こんにちは」

 そして本を取り落とした。
 真正面にラファエルの顔があったからだ。

「な、んで……」
「コールはエルと食事をしています。今日はエルは休講だそうですね。全学科共通の総合講義があると聞いていますよ」
「……」

 唾液を嚥下しながら、呆然とルカがラファエルを見上げる。
 ラフがにこやかに笑いながら、ルカに手を伸ばした。

 綺麗な指先が近づいてくる。
 それだけで、ガクガクとルカは震えた。
 ラフの手が、ルカのフードをあっさりと取り去る。

 すると、紫色のルカの瞳と、ラファエルの紅い瞳が、真正面から重なった。
 冷や汗でルカの長めの黒髪が、こめかみに張り付く。

「こんなに綺麗な顔をしているのに、隠しているのはもったいないですね」
「……」
「私が怖いですか?」
「……出て行って」
「図書館は貴方だけのモノではないでしょう?」
「う……あ……」
「私に触られると気持ちが良いのでしょう?」
「近、寄る、な……っ、ふァ」

 ラフの端正な指先が、ルカの顎を持ち上げる。

「や、やめ……」

 恍惚とした表情で、欲望と涙に濡れた瞳で、ルカが呟く。
 体が熱くなり、正面から見つめられるだけで、ゾクゾクと快楽が這い上ってくる。

「一度でも御遣いと交われば、どうなるかは貴方が一番よく知っていますよね? ”オルカ・ヒルフェ”」
「っ」
「忘れる事なんて出来ないでしょう?」

 楽しそうにラフが笑う。
 嘗て――ルカは、別の名前を持っていた。

 その頃のある事件がきっかけで、ルカは御遣いに触られるだけで、欲情してしまうのである。率直に言えば、同じ場所にいるだけでも辛い。

 ドクンドクンと、心臓が早鐘を打ち始める。

「正直におなりなさい」
「っ、だ、誰が……っ、んぅ」

 力が抜けそうになる体と、最早快楽以外の感覚がない腰を、必死で叱咤し、ルカが後退ろうとする。その腰を意地悪く抱き留めて、ラフが触れるだけのキスをした。

「!」

 それだけで一度胸が高鳴り、ルカは思わず目を見開いた。

「ぁ、ぁ、ぁ」

 熱が自身へと集まり始める。

「んァッ!」

 瞬間、腰を押さえるのとは逆の手で、ローブの上から楔を撫でられた。

「や、やだ、いや、だ……っ」

 声が震えていた。溺れそうになる恐怖からでもあり、純粋なラフに対する恐怖からでもあり、そして何より快楽からだった。

「ぁ、ぅあ、ヤ、ぁっ、ッ」

 腰を強く押さえられていなければ、崩れ落ちていただろう。あっさりと下ろされた下衣の下から現れた白い太股が震えていた。直接ラフの手で握られた瞬間、それだけでルカは達してしまいそうになる。しかしラフは、それを許さなかった。意地の悪い笑みを浮かべ、クスクスと喉で笑う。

「貴方の泣き顔は、非常にそそりますね。”あいかわらず”」
「ひっ、ぁ」

 ガクガクと震えながら、腰から手が離れた瞬間、書架に背を当てたまま、ルカが座り込んだ。その太股を押し開き、ラフが唇を落とす。

「ひ!」

 そのまま咥えられ、ルカが目を見開いた。恐怖をどうしようもない快楽が塗りつぶしていく。生理的な涙がこぼれていき、ルカは理性を失った。混乱と恐怖は確かにあったが、今一番怖いのは、これから与えられるだろうさらなる快楽だ。

「あ、あ、あ――や、やだ、ァッ」

 太股を押し開かれ、口淫される。
 それだけで達してしまいそうだというのに、根本を押さえた手がそれを許してくれない。
 必死でラフの頭を押しながら、ルカがきつく目を伏せた。

「んぁッ、フ……うう……な、なんで……ぅあ――ッ、ひゃッ」

 ただでさえ、御遣いと居ることですら、本当に辛いというのに。なのにそれ以上にラフの舌使いが巧みすぎて、体が疼いてしかたがない。

「やだやだやだよッ、あ、あ」

 もう無我夢中でルカは涙をこぼした。最早限界だった。

「ぁあ、ッ、ふ、ヤ、だ、駄目だこんなの」

 先端を舌先で嬲られ、チカチカと目の奥が熱くなる。

「で、出る、ぁあ」
「構いませんよ」
「ああ! あ、あ……あ……ッ」

 そのままあっけなくルカは精を放った。ポタポタと白い液が、飛び散る。
 それを手に取り、ニヤリと笑ったラフが、舐め取った。

「好きなだけイかせて差し上げます」
「ひッ」

 ラフは精液を指で絡め取り、ルカの中へと指を二本押し込んだ。
 その刺激だけで再びイきそうになる。

 慣らされてなど居ないはずなのに、体は指を求めていて、すんなりとそこはラフの手を受け入れた。

「あ……ああ……や――っっ!」

 そして目を見開いた。

「うわッ、あ、あ」
「ココが良いんでしょう? 〝覚えて〟いますよ」

 愉悦まみれの表情で笑うと、ラフが、ルカの最も感じる場所を規則的に刺激した。

「うッ……――ア! 嘘、や、やだ、アアアッ」

 そのまま二度目の精を放つと、その姿を嘲笑するようにラフが見おろす。

「さぁ、もう一度」
「待っ、あ、ア――っ、ぁあ、んぅ、嫌、やだ、こんなッ」

 今度はじらすように角度を変え、ラフが指を蠢かす。
 そのたびに、ヌチャヌチャと卑猥な音が辺りに響く。

「や、あ、出ない……っ、も、もう……」
「では出さなくて構いません」

 根本を再び片手で押さえてから、ラフが刺激を強めた。

「!!!」

 酸素が喉へと凍り付き、ルカは目を見開いた。
 ゾクゾクと快楽が間断なく押し寄せてくると言うのに、達することが出来ない。

「うぁあ、や、止め、あ」

 体が震え、息が上がる。
 こみ上げてくる何かを知りたくなくて、ルカは涙をボロボロとこぼした。

「やだぁッ、あ、あ、嘘だ、駄目だ、僕はもうこんな――っンああああ!!」

 直後、快楽が沸点を超え、ガクリと一度大きくルカの体が震えた。

 空イキした彼は、焦点の合わない瞳のまま、ラフに抱きしめられるように倒れ込んだ。その顔には絶望と快楽がごちゃごちゃになって浮かんでいる。ラフはルカの耳元に唇を寄せると、舌を静かに差し入れた。

「あ、あ」

 その感覚だけでも辛いのに、ダラダラと先走りの液は止まらない。

「可愛いですね。〝あいかわらず〟」
「……くっ、ふ、ぁ……うあ、もう、なんでッ、なっ――!」

 再び中を刺激され、ルカは体を震わせた。もう限界だった。

「あ、ああッ、あ、あ」

 ルカの肩に顎をのせ、前と後ろに同時に刺激を与えられ、舌では耳を嬲られて――それが嫌なはずなのに、気持ちよくてしかたがなくて、涙で顔をぐちゃぐちゃにする。

「ふ、ぁ、あ」
「まだ出来るでしょう?」
「ゃぁ――ァ、あ、あ、!――っ」

 声すら上げられなくなり、再びルカは絶頂を迎えた。
 そのまま意識を失った。
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