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【八】

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 次の週末。
 僕は帰宅した。すると父上が僕を応接間に促した。きょろきょろと僕は、妹の姿を探したのだが、不在のようだ。メインは妹だろうに。

「フェルナ。まずはどういう事か説明してくれ」
「はい? 僕の方が説明を受けたいのですが?」
「――王宮から、ジャックロフト王太子殿下と婚約してほしいとの打診があった」
「それで、セリアーナはなんと?」
「セリアーナは祝福している」
「祝福?」
「ああ。ジャックロフト王太子殿下の長い片思いもやっと終わるのだなと、私もまったく同じ見解だが……そうなのか? どうなんだ、フェルナ」
「? お話が見えません。どうって?」
「ジャックロフト王太子殿下とお付き合いしているのではないのか?」
「え?」
「ジャックロフト王太子殿下は、フェルナとの結婚をご希望なさっておいでだが」

 唖然とし過ぎて僕は硬直した。何度か瞬きをしてみる。それは即ち、永続的なセフレになるという趣旨だろうか? え? でもセリアーナが婚約するはずでは? 僕と婚約した場合、僕が断罪されるのか? つまり婚約破棄は、僕がされるという事だろうか……?

 そんな思考もあったのだが――なんだか、純粋に嬉しい。
 やはり僕はジャック様が好きなようだ。永続的なセフレとしてであってもそばにいられるというのは魅力的だ。

「お引き受けするか?」
「……ええと……」

 しかし考えてみると、僕は男である。爵位の継承もある。

「……あの、ジャック様のお世継ぎが望めないのでは? あと、公爵家の方は……まぁそれは……」

 弟がいるから公爵家は大丈夫か。

「王家の血を引くお方の中から養子を取ることとなるだろう。王族は多いから、あまり気にすることはない」
「そうですか」
「気持ち的にはどうなんだ?」

 ……嬉しい。だが、僕が婚約破棄された場合でも、断罪される未来は変わらないのだろうか。いいや。僕がヒロインをいじめなければあるいは……? うん、いい案かもしれない。

「お引き受けしたいと思います」
「そうか。後悔はないな?」
「はい」

 僕は頷いた。しかしそんなに体の相性がいいのだろうか。ジャック様も同じ考えだったとは驚いた。

 こうして僕はすぐに寮へと戻った。
 すると翌日の新聞に、僕とジャック様の婚約発表記事が掲載された。
 なおその報道の後、僕とジャック様はまだ一度も会っていない。

 会わないままで二週間ほど経過した。
 この日僕は部屋にいた。まだ実感がわかない。そう考えていたら、ジャック様が訪れた。合鍵は、随分前に欲しがられて渡してあった。

「久しいな」
「そうですね」

 クラスも違うので、接触することはほぼない。

「――二週間と少しで、久しぶりと思ってもらえるだけ、俺も進歩したな」
「はい?」
「年単位だっただろう、昔は」
「はぁ……?」

 まぁ、確かに僕は王宮には近づかなかったし、その見解はあっているだろう。

「婚約者になれて、俺は嬉しい」
「……」
「嫌ではないと言ってくれた事も嬉しかった」

 それは誤解である。僕は妹とジャック様の結婚だと疑っていなかった。ただ、今となっては嫌ではない。一つ分からないのは、ジャック様の気持ちだ。

「どうして僕を婚約者に?」
「どうして、というのは?」
「というのは、といわれても……その……セリアーナでなかったのかと思って」
「……フェルナ。俺は……その……――伝わっていないのはよくわかった。ただ伝え方がわからない」
「何をですか?」
「……」

 深々と溜息をついて、ジャック様が黙ってしまった。
 ただ僕に歩み寄ってくると、不意に僕を抱きしめた。

「ジャック様?」
「もう少し考えさせてくれ、その……伝え方を」
「はぁ?」

 よくわからないので、僕は頷いておいた。この日も僕達は体を重ねた。

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