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【六】
しおりを挟むしかし、紺とアシェッドの見解は違った。
ならば、両者のどちらかから、その見解が伝わったのだろうか?
アシェッドだったら、もっと早く伝わるだろう。
なにより、紺とミレイユの家にいっているという話で……っ。
僕は思わず冷や汗をかいた。礼は、『家の方に行く』と、口にしていたのではなかったか。アシェッド名義の礼の家は、聞いた限りだと紺の家と方角が同じだ。まさか。そう思いながら、気づくとほぼ無意識に、僕は電話をかけていた。
「もしもし」
『なんだ柾仁? 研究、完成したにしては早いな』
「あのさぁ、礼に最近会った?」
『いいや。連絡もとってない。飲んだ日以来話してないな。どうして?』
「従兄の家に遊びに行ったりとかしないのかなと思ってね」
『ああ、一回ミレイユと春香と三人で食事に行ったみたいだな。家に来たことはないから俺は会ってないけど』
「紺はミレイユと、礼が迷惑だって話をした?」
『してない。して、間接的に伝えろっていう話か?』
「まさか。ちょっと聞いてみただけだよ。世話案悪くないかなとも思っただけ」
『やっと迷惑だと気づいたのか?』
「んー、どうかなぁ。もうちょっと考えてみるよ」
『ああ。本当に迷惑になったら言ってくれ。公務とかも大変だろうし』
「ありがとう。この国に来てくれて良かったよ。じゃあね」
気づくとそういい、電話を切っていた。
そして、自分が珍しく無表情になっていることに気づいた。
我ながら冷酷な目をしていたかもしれない。
「……」
その後帰宅すると、皆、お辞儀などはしてくれたが、一切僕に話しかけてこなかった。多分、相当怖かったと思う。自分でもわかっていたが、止められないくらい、なぜなのか苛立っていたのだ。しかも胸がズキズキと痛む。最悪の気分だ。
いつもどおり、僕は六時に研究室に出かけた。
結局、礼が来ようが来まいが、この時間に来ているし、帰宅時間も同じだ。
最初は心地いいと思ったはずのひとりきりの研究室が、今は無性に頭に来る。
ふと簡易キッチンを見た。
僕の我ながら美味しいけど、決して上手と褒めたたえられるほどではない、王室での食事に比べたら、まずいお味噌汁を、美味しい美味しいと喜んで飲んでくれた礼の顔が脳裏をよぎった。あの指の怪我は、おそらく料理時のものだ。そして紺の家にいないのだから、自宅に帰ってお料理をしているのだろう。なぜか?
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