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【67】もうフラグはどこにもないので、自分で立てていこうと思う。②
しおりを挟む冬から春になり、俺達は新しい薬草の種を蒔いた。
夏には芽吹いて、秋には最初の薬草を収穫できた。
肥料にこだわり、土を改良した。手のひらにすくった焦げ茶色の土の感触も匂いも、自然を感じさせた。毎日がゆったりしているというのに、季節の移り変わりを早く感じるようになり、一年がすぐに経ってしまった。俺は二十四歳になった。前世では、この先は幽閉されてからの処刑だったから、もう何が起きるかの記憶もない。そもそも、既に前世と現在は、全く別のものであると言える。ユーリスと二人で土をいじる日々なんて、前世には、影も形もなかったのだから。
始まったスローライフの中で、俺は何度もユーリスの横顔を見た。
そうすると大抵気づかれて、目が合う。
いつからか、恥ずかしくなって目をそらす自分に気づいていた。
――気づいたら、あとは後悔しないように行動するだけだ。
そんなことを考えながら目を覚ましたのは、自室でのことだった。
「起こしてしまいましたか?」
ユーリスが、ソファで眠っていた俺に、毛布をかけていた。その小さな衝撃で、俺は目を覚ましたのだ。開け放された窓の向こうには、夕焼けの空が見える。窓が空いているのは、ラクラスが出かけたからだろう。この領地の酒場は悪くないとラクラスは言っていた。
「大丈夫だ」
「そうですか。でしたら、ついでに寝台へどうぞ」
「ああ」
「まったく。無防備に寝ないでください、人の気も知らないで」
ユーリスがそう言ってため息をついたので、俺は首を傾げた。
「知ってるぞ」
「え?」
「知ってる」
「……」
俺の言葉にユーリスが沈黙した。そして、じっと俺を見た。
俺も見返した。もう、視線を逸らす気はない。
正面から見つめ合い――そのまま俺は、ユーリスの唇が近づくのを見ていた。
あと少しで触れるというところで、ユーリスが動きを止めた。
いつものことだった。大切な主人の体に手を出してはならないと思っているらしい。
――だから、俺は目を伏せて、自分から顔を近づけた。
「!」
最初は、息を呑む気配がした。
だが、すぐに頭に手を回された。そして深々と唇を貪られた。
深く深く口を重ねてから、俺は顔を離して、肩で息をした。
ユーリスがどこか焦燥感に駆られたような瞳で俺を見ていた。
俺の肩に置かれているユーリスの手が、少し震えている気がした。
「お前が俺を好きなことくらい前世から知ってる」
「一度もお伝えしたことはありませんが」
「じゃあ今改めて言ってくれ」
「お慕いしています。手を出すのが恐れ多いくらい」
「そうか。それなら離せ」
「すいません、俺もう止まりません」
俺は、そのままソファに押し倒された。
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