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【65】前世ではスルーしたお見合い写真の山を見てみる。②

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 そうして二十二歳になったが、前世のような継承権争いは、どこにもない。

 しいていうなら、最近俺は、弟のトール殿下の即位を推しているため、「兄上がやれ」と言われて困っている。王位の押し付け合いだ。そういう意味での継承権争いならばある。

 しかし俺は、弟に押し切られたりはせず、着々と話を進めていった。
 その後二十三歳になった時、俺は、国王代行を今年限りで終えると宣言した。
 トールを新国王として即位させることを、周囲に納得させたのである。

 父と王妃様の御子息であるという点を強調した。
 ただ王妃様も、トールを可愛がっていたが、最後まで「フェルでは、どうしてだめなの?」と、俺を即位させようとしていた。だが俺は笑顔を作って、首を振り続けた。

 この一年は、仕事の譲渡などをした。
 魔族の大量襲来はなかったが、なぜなのか俺には求婚者が大量襲来している。
 平和になった証拠だろうか?
 だんだん落ち着いてきた王国に、俺は自室のソファで薬草茶を飲みながら一息ついた。
 時刻は夜の八時だ。茶を持ってきたユーリスが扉を閉めた。

「もうご覧になりましたか?」

 ユーリスは、俺の机の上を一瞥した。
 視線を追いかけて、俺は苦笑した。

 そこにはお見合い写真の山がある。前世でも、二十三歳の時にたくさんのお見合い話が来たのだが、あの時は、俺はスルーした。

「今から見てみる、こちらへ持ってきてくれ」
「御意」

 俺の言葉に、ユーリスが机に歩み寄った。昼間そこに置いたのもユーリスだ。
 目の前に再度築かれた山に、俺はお茶を飲みながら手を伸ばした。
 そして一番上の釣書を手に取り、まじまじと眺めた。

 ――帝国皇帝陛下、ハロルドの写真である。

 以前持ち上がった婚姻の話は立ち消えたが、実は今でも俺は求愛されている。
 写真を閉じて、俺は頬杖をつきながらユーリスを見た。
 こちらを笑顔で見ているユーリスのおすすめもまた、ハロルドであるのは知っている。

「なんでも隣国のハロルド陛下は、想い人がおられるとして婚姻の勧めを断っているだとか」
「そうか」
「もうすぐ外遊でこの王国にいらっしゃいますよ」
「そうだったな」
「久しぶりに会えますね」
「まぁな」
「――どうするんですか?」

 ユーリスが声のトーンを変えた。真剣に見合いを促しているのが分かる。
  俺は呆れながらため息をついた。

「外遊中に見合いをセッティングする必要はないからな」
「そうですか。では、きっぱりとお断りしておきましょうか?」
「なぜもっと早くにそうしてくれなかったんだ?」
「それは、その……今後好きになる可能性があるとうかがっていたので」
「可能性だけならば、誰にだってあるだろう」

 俺があからさまに息を吐くと、ユーリスが苦笑した。

「まぁそうですね。なるほど、それなら、俺にもチャンスはありますね。じゃあこの山の中に、俺の釣書もおいていいですか?」
「最初から入れておけ」
「っ、え、あ……はい。写真の撮影から始めようと思います」

 ユーリスが照れたのを見て、俺は少し気分が良くなった。
 今回は、真面目にお見合い写真を見てみるのも楽しいかも知れない。
 そう考えていると、窓がいきなり開いた。ラクラスが訪れたのだった。

 ユーリスが出て行ったのを見送りながら、俺はラクラスに紅茶を淹れた。
 俺の隣に座ったラクラスは、膝を組むと、お見合い写真の山を見た。

「結婚するのか?」
「どうだろうな」
「仮にお前が結婚したとしても、結婚なんていう人間の制度は俺には関係がない。だからこれからもずっと一緒にいる――ただな、お前の隣に俺以外もいることになると思うと苛立つんだ」

 ラクラスはそう言うと、俺の手を引いた。
 そして俺をギュッと抱きしめた。俺はこのぬくもりが嫌いじゃない。
 ラクラスは、俺にとって本当に大切な相手だ。


 その年の暮れ、俺はトール殿下を即位させて、国王代行をやめた。
 リタイアしたのである。
 王宮からのドロップアウトの準備も完璧で、即位式の夜、パーティが終わってすぐに、俺は城を出た。共に夜空の下を歩くのは、ラクラスだった。

 しばし歩いていくと、壁に背を預けた賢者が立っていた。

「やっぱり僕、今の君の生き方が好きだよ」
「ああ」
「元気でね」
「ワイズもな」

 手を振った賢者に見送られて、俺はその日、王都を出た。



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