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【59】巻き戻しの言葉。③
しおりを挟むそれから俺達は、王宮に戻った。
すぐにライネルがやってきたので、最後の一体であるエクエスを借りるため、俺はハロルドの所へと向かった。かつては父が座っていた玉座で、ハロルドは忙しなく部下に指示を飛ばしていた。こういった皇帝らしい姿を見たのは初めてだった。
俺は、どこまで話すか迷った。
だが、俺が口を開く前に、ハロルドが俺に聖剣を渡した。
「行くのか? 行くという表現が適切かはわからないが」
「――ああ。それでエクエスを貸してほしいんだ」
「わかった。粗方のことは聞いた。良い未来を期待する――後のことは任せろ。召喚解除がなされた場合には、ラクラスも保護するから、いつでも来てくれ」
「感謝する」
受け取った聖剣を一瞥してから、俺はハロルドに対して、大きく頷いた。
「ただし、俺の告白だけは、無かったことにはしないで欲しい」
「――ああ」
俺が頷いて苦笑すると、ハロルドが優しく微笑んだ。
彼のこの表情が、俺は好きみたいだった。
また、ラクラスを保護してくれるという暖かい言葉に、ホッとしていた。
こうして俺達は、父が没した病室へと向かった。
兄が始祖王だったとすれば、ユーリスが刺した相手はなんだったのかと疑問に思ったら、心臓を保護していた人形だとエクエスが教えてくれた。始祖王の一番目の召喚獣だったエクエスは、より多くのことを知っていたらしい。今は、一般的な馬と同じくらいの大きさになっている。
俺はエクエスに教えてもらい、床に時空魔術用の魔法円を描いていった。
それがひと段落したところで、エクエスが俺に言った。
「巻き戻しワードは?」
「うん?」
「前世から今世において用いた言葉だ。何度か耳にしているはずだ。最後のそれを耳にした時間の前後十分のポイントに戻ることを勧める。そして以後は、もう『戻った』のではなく、それのみが一本の道に変わる。そちらとは違うこちらの道筋は泡沫のように消えるが、我ら三体の召喚獣とその主――この場合は、お前とハロルドに、記憶が残存する」
その言葉に、俺は腕を組んだ。巻き戻しワードを発していたのはユーリスだ。
だが、一体どれが、巻き戻しワードだったのだろう。
「巻き戻しワードには、なにか特徴はないのか?」
「強い思いが込められていると言う特徴がある」
「具体的に」
「命をかけても良いほどの思いだ。さらにその言葉を放つのは、実際に死の場面に遭遇した時でなければならない。巻き戻る形式の転生において、言葉(ワード)によって記憶保持の維持を行う場合、最初の生で死ぬ間際に聞くことが多い。ただしその言葉は、一番初めには本心から、それ以前に聞いていたはずであり、今世でもその言葉は、自然の流れで魔法鍵の管理者が放つ状況になったはずだ」
「抽象的すぎてわからない――死ぬ間際……死ぬ間際――っ」
思案していた俺は、ハッとした。
今世で生まれ直した時から、二度目に聞くまでずっと頭にこびりついていた言葉がひとつあるではないか。
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