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【55】第一王子殿下を幽閉した罪で投獄される!?②

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「兄上?」
「なんだ?」
「今のは一体どういう意味――」
「意味?」

 俺は気づいた。兄の首元の宝石の色が――緑ではないことに。そこにあったのは、翠玉ではなく紅玉だったのだ。父の、始祖王の亡骸にはまっていたはずの品だ。ただあの最期の時に、病床の衣に着替えていた父が宝石を身につけていたかどうかの記憶はない。

 改めて兄の顔を見た。兄上は、いつもどおりに見えた。
 ――いつもどおり、父上と瓜二つの顔だ。
 だがこれは、兄じゃない。兄のふりをしている父――いいや、始祖王だ。
 ゾクっとした。体に怖気が走った。

「……いつから入れ替わっていたんだ? いつ心臓を? ユーリスがトドメを刺したはずだ」
「入れ替わってなどいない。初めから俺は俺だ」
「……」
「精神の転換はこの宝石で既になされていた。あとは、病死を持ってして、始祖王の心臓を手に入れて、この体を完全なものにするだけだった。塔に置いたこの体に、一時的に入れておいた前王の精神が泣き叫んで困ったが」
「俺の体を狙っていたんじゃ――」
「『前世』ではな。ただし、今は、お前が欲しくて仕方がない。そのためには、こちらの体のほうが、都合が良い」
「……」

 牢屋の扉が開いた。硬直した俺に、兄――いいや、始祖王が迫ってきた。
 軽く肩をおされただけだというのに、緊張と混乱で動けなかった俺は、寝台の上に押し倒された。

「兄上じゃないんだな……」
「確かに俺は、お前の兄でもある。精神は、新しい体の成長に合わせて、再び成長していくからな。幼子の気分を再体験し、そして再び、お前が欲しくなった。いいや、ずっと欲しかったのかもしれない、『今回』は。まさかお前が巻き戻しの術をもってして、俺を葬ろうとしているとは思ってもいなかったが」

 そういった始祖王の手が、俺の鎖骨をなぞった。
 乱暴にシャツを引き裂かれ、それから脇腹をなぞられる。
 瞳が――全く違うように見えた。いつか森で見たものと同じに見えた。
 そうだ、あれも、始祖王だったのだ。父ではなかったのだ。
 兄の中にいた、始祖王だったのだろう。
 艶かしい赤い舌で、頬を舐められた。絶望感に支配された俺の肌を、ゆっくりと始祖王が指で撫でる。無力感に打ちひしがれ、言葉を失った俺の脇腹を手でなぞり、始祖王が体重をかけてきた。そこでわれに返って、俺は抵抗を試みた。だが結果は鎖が泣くだけに終わった。手が動かない。両足の間には始祖王の体があり、そこから上に乗られているため、身動きが封じられていた。

「ずっとお前を抱きたかったんだ。安心しろ、きちんと愛しているから」
「や、め――……」
「王位を狙って、父王と継承権を持つ兄を殺害しようとした件で、お前は今後、ここに幽閉される。それは、つまりどういうことか、わかるだろう?」
「……」
「俺の下で啼き続けるということだ」
「!」

 始祖王が俺の首に噛み付いた。喰い破られるかと思うほど強く吸われた。
 鬱血痕が残ったとわかった瞬間に、乳首を乱暴につままれた。
 無我夢中でもがく俺を、兄だと思っていた相手が、嘲笑するように見下ろしてくる。
 俺には抵抗する術がない――ああ……――こんなのは、嫌だ。
 誰か助けてくれと、俺は泣き叫びそうになった。

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