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【51】俺以外に、墓標を作る人間は思いつかない。②
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その後俺は、ラクラスに自室へと連れて行かれた。
ひと段落したのか、夜になってライネルが戻ってきた。
「我が主は、自分が死しても、フェル殿下をお守りするようにと俺に言いました。前世でも今世においても――その望み、近衛として殿下のそばにいることで、叶えさせて頂けませんか?」
俺はライネルの声に静かに頷いた。思い出した前世の抜け落ちていた記憶と、今世での、つい先程までのユーリスの記憶が混じり、気づくと俺は涙を浮かべていた。自分がこんなに涙脆いとは知らなかった。【始祖王の呪いの槍】を壁に立てかけたライネルに、そばにいて良いと許可するのが精一杯だった。
こうしてその翌日には、崩御の報せが国中に走ったのだが――宰相が落命したという話は、大陸新聞の片隅にすら載っていなかった。落ち着いてから、一つ一つ確認したところ、宰相位は長らく空席であり、将来有望な若者を以前から求めている、そんな記憶を人々が持っていた。どの仕事書類を見ても、ユーリスの名前はおろか、達筆な彼の文字すらない。内容は同じであっても、誰か別の人間の仕事ということになっていた。ユーリスの死は、多くが悲しむ事柄ではなかった。そもそも、ユーリスという存在の軌跡が、呪いで消えてしまったからである。悲しみの後から、俺に押し寄せてきたのは、空虚感だった。
国葬が行われるから、王宮が慌ただしい。
その最中――さらなる混乱が王宮を襲った。
急変した事態で、俺もすっかり忘れていたのだが、兄の姿がどこにもなかったのである。いつからいなかった? どこへ行った? 捜索隊が組まれて、俺も探しに出た。無気力に絡め取られそうになる体を、必死に制した。ユーリスが繋いでくれた命だ、一時も無駄にはできない。
兄は――以前噂で聞いた、塔にいたそうだ。
悲鳴が聞こえる塔の怪談を思い出しながら、まさかなと踏み込んだ人々が、そこで拘束されている兄を発見したのだという。これまで噂で囁かれていた悲鳴は、兄のものだったらしい。ただの怖い話ではなく、現実だったそうだ。
見つかった兄は憔悴しているそうで、まだ意識が戻らないという。
医療塔で集中的に治療を受けていて、一度顔を出してきたが、命に別状はないとのことだった。安心したものである。
ひと段落したのか、夜になってライネルが戻ってきた。
「我が主は、自分が死しても、フェル殿下をお守りするようにと俺に言いました。前世でも今世においても――その望み、近衛として殿下のそばにいることで、叶えさせて頂けませんか?」
俺はライネルの声に静かに頷いた。思い出した前世の抜け落ちていた記憶と、今世での、つい先程までのユーリスの記憶が混じり、気づくと俺は涙を浮かべていた。自分がこんなに涙脆いとは知らなかった。【始祖王の呪いの槍】を壁に立てかけたライネルに、そばにいて良いと許可するのが精一杯だった。
こうしてその翌日には、崩御の報せが国中に走ったのだが――宰相が落命したという話は、大陸新聞の片隅にすら載っていなかった。落ち着いてから、一つ一つ確認したところ、宰相位は長らく空席であり、将来有望な若者を以前から求めている、そんな記憶を人々が持っていた。どの仕事書類を見ても、ユーリスの名前はおろか、達筆な彼の文字すらない。内容は同じであっても、誰か別の人間の仕事ということになっていた。ユーリスの死は、多くが悲しむ事柄ではなかった。そもそも、ユーリスという存在の軌跡が、呪いで消えてしまったからである。悲しみの後から、俺に押し寄せてきたのは、空虚感だった。
国葬が行われるから、王宮が慌ただしい。
その最中――さらなる混乱が王宮を襲った。
急変した事態で、俺もすっかり忘れていたのだが、兄の姿がどこにもなかったのである。いつからいなかった? どこへ行った? 捜索隊が組まれて、俺も探しに出た。無気力に絡め取られそうになる体を、必死に制した。ユーリスが繋いでくれた命だ、一時も無駄にはできない。
兄は――以前噂で聞いた、塔にいたそうだ。
悲鳴が聞こえる塔の怪談を思い出しながら、まさかなと踏み込んだ人々が、そこで拘束されている兄を発見したのだという。これまで噂で囁かれていた悲鳴は、兄のものだったらしい。ただの怖い話ではなく、現実だったそうだ。
見つかった兄は憔悴しているそうで、まだ意識が戻らないという。
医療塔で集中的に治療を受けていて、一度顔を出してきたが、命に別状はないとのことだった。安心したものである。
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