上 下
45 / 68

【45】始祖王について色々と学んで聖なる剣を手に入れる。⑤

しおりを挟む

「そうか。仮にそんな日が来たら、忘れない努力をするし、忘れたとしても何度でも、俺はお前を喚び出す努力をするだろう」

 そこへ咳払いが聞こえた。ユーリスだった。

「それで、くだんの【新月黒曜の聖剣】ですが、それは、今ラクラスが持っているもので良いんですね?」

 ラクラスの代わりに、大きくユーピルテが頷き、ライネルもまた静かに同意した。

「ラクラスは、味方で良いんですよね? 愚問でしょうが」
「味方? フェルに限ってならば、そう呼ばれて悪い気はしない」
「――その聖剣で、始祖王を葬るおつもりですか?」

 ユーリスの声に、ラクラスが目を細めた。

「フェルに害なすようならば、俺はどこの誰であっても排除をするつもりだ」

 その言葉を聞いて、俺は父上の顔を思い出していた。
 ユーピルテの言葉を聞く限り、兄上の心臓が狙われていて、ここまでの話からするに、始祖王は父上である。というか、父上の心臓は始祖王から代々受け継がれてきたものであり、今度は始祖王は、兄の体を乗っ取ろうとしているということなのだと思う。

 父上は非常に良い国王だ。だから、どうしても俺には、父上が始祖王だという実感はないし、俺の中での始祖王はやはり神話の存在だ。だが……仮に事実ならば、俺は、兄に死んで欲しくない。ならば父は死んでも良いのかといえば、それにも答えは出せない。

 ラクラスの持つ聖剣を一瞥した。
 始祖王の狙いは兄のはずだが、心臓の転換は、俺とハロルドと、聞けなかったがライネルの主人にも可能であるはずだ。だから、仮に始祖王が俺の心臓を狙った場合、それを排除するというのが、ラクラスの想定なのだろうと思う。そして俺は死にたくない。ならば防衛策としては、俺はその剣を手に入れておきたい。ラクラスにあずけておくのではなく、自分の手で持ちたい。

 そんなことを考えていると、ラクラスと目があった。

「フェル――もしもお前がこの剣を必要としているなら……」
「ああ」
「欲しいならやる」

 響いた声に、俺は短く息を飲んだ。
 受け取れば、どう考えてもドロップアウトから遠のくように思ったのだ。
 だが、命には代えられない。

「もらっておく」

 すると頷いて、ラクラスが俺に剣を渡した。そしてユーリスを見た。

「これならばお前も文句がないだろう?」
「ええ。フェル様は魔族側の人間ではありえないですからね」

 二人の声を聞きつつ――俺は一つの重大な事柄を思い出していた。
 来年、俺は二十歳になる。
 前世で、父が病床に伏した年だ。これまでは薬を作って、崩御を止めることばかり考えてきたのだが、もしも父が始祖王ならば、病気のまま見殺しにすれば、ひとつの騒動が収まるのではないのか? まず最初にそう考えた。続いて、逆に病気になったからこそ、父が新しい体を求めるのかもしれないと思った。その方がしっくりきた。ならばやはり、老父に病を治す薬を渡したならば、心臓の転換なんていう恐ろしい儀式は起きないかもしれない。俺はその考えに、一人満足した。

 とにかく、病の流行自体は、父の件を関係なしにしても、由々しき事態である。だから、国民のために薬を用意しておかなければならないし、それにはそろそろ時間がなくなってきているのだ。俺は、今すぐにでも薬作りを本格化しようと考えた。

 ――受け取った聖剣を背中にかけて、帰路に着きながら、俺はこれからくる未来が、少しでも明るいものであることを祈った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BLゲームのメンヘラオメガ令息に転生したら腹黒ドS王子に激重感情を向けられています

松原硝子
BL
小学校の給食調理員として働くアラサーの独身男、吉田有司。考案したメニューはどんな子どもの好き嫌いもなくしてしまうと評判の敏腕調理員だった。そんな彼の趣味は18禁BLのゲーム実況をすること。だがある日ユーツーブのチャンネルが垢バンされてしまい、泥酔した挙げ句に歩道橋から落下してしまう。 目が覚めた有司は死ぬ前に最後にクリアしたオメガバースの18禁BLゲーム『アルティメットラバー』の世界だという事に気がつく。 しかも、有司はゲームきっての悪役、攻略対象では一番人気の美形アルファ、ジェラルド王子の婚約者であるメンヘラオメガのユージン・ジェニングスに転生していた。 気に入らないことがあると自殺未遂を繰り返す彼は、ジェラルドにも嫌われている上に、ゲームのラストで主人公に壮絶な嫌がらせをしていたことがばれ、婚約破棄された上に島流しにされてしまうのだ。 だが転生時の年齢は14歳。断罪されるのは23歳のはず。せっかく大富豪の次男に転生したのに、断罪されるなんて絶対に嫌だ! 今度こそ好きに生ききりたい! 用意周到に婚約破棄の準備を進めるユージン。ジェラルド王子も婚約破棄に乗り気で、二人は着々と来るべき日に向けて準備を進めているはずだった。 だが、ジェラルド王子は突然、婚約破棄はしないでこのまま結婚すると言い出す。 王弟の息子であるウォルターや義弟のエドワードを巻き込んで、ユージンの人生を賭けた運命のとの戦いが始まる――!? 腹黒、執着強め美形王子(銀髪25歳)×前世は敏腕給食調理員だった恋愛至上主義のメンヘラ悪役令息(金髪23歳)のBL(の予定)です。

悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

遠間千早
BL
 ※8/26 第三部完結しました。  12歳で受けた選定の儀で俺が思い出したのは、この世界が前世で流行った乙女ゲームの世界だということだった。深夜アニメ化までされた人気作品だったはずだけど、よりによって俺はそのゲームの中でも悪役の公爵令息レイナルド・リモナに生まれ変わってしまったのだ。  さらに最悪なことに、俺はそのゲームの中身を全く知らない。乙女ゲームやったことなかったし、これから俺の周りで一体何が起こるのか全然わからないんですけど……。  内容は知らなくとも、一時期SNSでトレンド入りして流れてきた不穏なワードは多少なりとも覚えている。 「ダメナルド安定の裏切り」 「約束された末路」  って……怖!  俺何やらかすの!?  せっかく素敵なファンタジーの世界なのに急に将来が怖い!  俺は世界の平和と己の平穏のために、公爵家の次男としてのほのぼの生活を手にするべく堅実に生きようと固く決心した……はずだったのに気が付いたら同級生の天才魔法使いの秘密をうっかり知ってしまうし、悪魔召喚を企てる怪しい陰謀にすっかり巻き込まれてるんですけど?!  無事約束された末路まで一直線の予感!?  いやいや俺は退場させてもらいますから。何がなんでもシナリオから途中退場して世界も平和で俺も平和なハッピーエンドをこの手で掴むんだ……!  悪役になりたくない公爵令息がジタバタする物語。(徐々にBLです。ご注意ください)  第11回BL小説大賞をいただきました。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

BL r-18 短編つめ 無理矢理・バッドエンド多め

白川いより
BL
無理矢理、かわいそう系多いです(´・ω・)

高嶺の花と思われがちですが、ただの外面です。

猫宮乾
BL
 周囲に高嶺の花だと思われている僕(グレイ)であるが、それは無論外面で、中身は高尚でもなんでもない。しかも貴族だが貧乏だ。夢は玉の輿にのること。そんなある日、国王陛下が宣言した。第二王子がいっこうに結婚する気がないので、その心を射止めた者の願いを、できる範囲のことならなんでも一つ叶える、と。よぉーし! 第二王子殿下を射止めるぞー!

「霊感がある」

やなぎ怜
ホラー
「わたし霊感があるんだ」――中学時代についたささいな嘘がきっかけとなり、元同級生からオカルトな相談を受けたフリーターの主人公。霊感なんてないし、オカルトなんて信じてない。それでもどこかで見たお祓いの真似ごとをしたところ、元同級生の悩みを解決してしまう。以来、ぽつぽつとその手の相談ごとを持ち込まれるようになり、いつの間にやら霊能力者として知られるように。謝礼金に目がくらみ、霊能力者の真似ごとをし続けていた主人公だったが、ある依頼でひと目見て「ヤバイ」と感じる事態に直面し――。 ※性的表現あり。習作。荒唐無稽なエロ小説です。潮吹き、小スカ/失禁、淫語あり(その他の要素はタグをご覧ください)。なぜか丸く収まってハピエン(主人公視点)に着地します。 ※他投稿サイトにも掲載。

離縁しようぜ旦那様

たなぱ
BL
『お前を愛することは無い』 羞恥を忍んで迎えた初夜に、旦那様となる相手が放った言葉に現実を放棄した どこのざまぁ小説の導入台詞だよ?旦那様…おれじゃなかったら泣いてるよきっと? これは、始まる冷遇新婚生活にため息しか出ないさっさと離縁したいおれと、何故か離縁したくない旦那様の不毛な戦いである

幼稚園の便器やってます。おしっこ飲みます。うんちも食べます。ゲロの処理もさせられます。

明日兎
恋愛
鏡の前で適当な舞を全裸で踊ってふざけていたら、高次元的な存在の気に触れてしまったらしく、罰として100年間幼稚園の便器をさせられることになる話。 幼女のおしっこ飲まされます。 幼女のうんち食べさせられます。 体調不良になった幼女のゲロを食べさせられます。 そんな日常です。 ちなみに100年間、不思議な力で主人公は歳も取らないし死ねないので安心です!やったね!!

天使のローブ

茉莉花 香乃
BL
アルシャント国には幼少期に読み聴かせる誰もが知っている物語がある。 それは勇者の物語。 昔々、闇黒がこの国を支配していた。太陽の光は届かず大地は荒れ果て、人々は飢えと寒さに耐えていた。その時五人の勇者が立ち上がった。 闇黒に立ち向かい封印に成功した勇者たちはこの国を治めた。闇黒から解き放たれた人々は歓喜した。 その話は悠遠の昔のこと…しかし、今も続く勇者の物語。 ファンタジーです 他サイトにも公開しています

処理中です...