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【36】気まぐれな召喚獣の話を兄としながら気配を探った生誕祭。②

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「フェル、俺がついてる。俺はお前を呪わせたりしない」
「答えになっていない。そもそも――お前が仕えていたと言うんだから過去に始祖王は存在しただろうが、不死なんて人間にはありえない。実在するのか?」
「何も考えるな。俺がそばにいる」

 ラクラスはそう言うと、一人満足気に頷いた。
 そして、それ以上は何も言わなかった。これ以上は聞いても教えてくれないだろうと俺は悟った。だから嵐が外を過ぎ去るまでの間は、久しぶりにラクラスの腕の中で眠った。ラクラスに腕枕をされると、安心して眠れるから不思議だ。


 兄の生誕祭があったのは、その数日後のことである。
 実は兄との冷戦であるが――終結していた。まだ昔ほど仲が良いというまでには戻っていないのだが、兄の態度が軟化したのである。兄も大人になったのだろう。後宮をもつことはかたくなに拒否しているらしいが、ある日俺に、「お前と話ができないのがこんなに辛いとは思わなかった」と話しかけてきたのである。なんだかんだで、兄は良い奴だ。前世の兄であれば、自分から折れるなど考えられなかったが、今世の兄は違う。それとも、前世でももっと話をして、関係を深めていたら、こういった関係になっていたのだろうか? 俺にはよくわからない。

「誕生日おめでとうございます、兄上」
「フェル……! 会いたかったぞ!」

 兄は、より一層父上に似てきた。遠目からなら、見分けが付かないかもしれない。なにせ俺達の父上は若いのだ。十歳は若く見える。どことなく年齢不詳にも思えるほどだ。白い首元の布を片手で撫でながら、シャンパングラスを一瞥している。俺はひとつとって兄に手渡した。

 首元の布の上には、金色の留め具の鎖が垂れていて、その奥に、白金色の細工に縁どられた緑色の宝石が見える。これは、王家の直系長子に受け継がれる【永輪の翠玉】である。必ずしも王位継承者に渡されるわけではないが、ここまでの歴史では、結果的にそうなってきたようだ。なお、国王陛下の持ち物として、色違いの【遠廻の紅玉】というルビーがある。これを持ったものが国王となるので、現在は父が所有しているのだが、王に即位しこれを受け取った場合は、翠玉の方は一時的に第二王位継承者に渡されるらしい。前世で兄の即位を推していた勢力は、この翠玉の保持を挙げていたなとふと思い出した。だが今も昔も、俺は宝石に興味はない。

「そういえば、留守にしてた召喚獣が戻ってきたらしいな」
「ええ。ホッとしています」
「――実は……俺のユーピルテも、嵐の日から行方がわからないんだ。喚び出しても通じなくてな」
「え?」
「召喚獣とは気ままな存在だな」

 兄上はそう言って苦笑したのだが、明らかに心配しているのがわかった。
 気持ちは痛いほどわかる。だから俺は、気休めかもしれないが、慰めることにした。

「きっと帰ってきます」
「……そうだな。そうだよな! フェルが言うなら間違いない!」

 すると仕切りなおしたように、兄が明るく言った。
 頷きながら、俺は、ユーピルテの無事を祈ったものである。


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