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【32】苦手な下ネタは自分から突っ込めば、こちら側には深入りされないかもしれない。②

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 ――さて、俺と賢者がともに帝国へと旅立ったのは、それから半年後の事だった。
 賢者の予想通り、即位式典に招かれたのである。
 交友関係があったからだろうが、俺が呼ばれた。

 ……有力国であるから、本来は、王位継承者が招かれる。ここで王位継承権争いが起きたらどうしようかと悩んだが、その日程が、王妃様の生誕祭とかぶったため、招待状が俺当てでなかったとしても、兄ではなく俺が行く事になっていただろうから、安堵した。宮廷では、帝国皇帝が事前に、次期王位継承者の母である王妃様に配慮したのだとして、感動の声が上がっていたものである。

 馬車で十日かけて、その後水路を二日行き、再び馬車に一日半ほど乗って、やっと帝国の宮殿へと到着した。帝都ワイゼルブルクである。巨大な宮殿は、俺の国のものとは違って、屋根が丸い。建築様式が違うのだ。帝国の方が、少し新しいのである。歴史の長さは、俺の国の方が優っているのだ。なにせ、最初に大陸に入って国を作った人間である始祖王の末裔が、俺達なのである。だからなのか、武勇伝的な神話しか聞かずに育ったので、以前聞いた恐ろしい神話は予想外だった。

「久しぶりだな、フェル」

 王宮に着くと、すぐにハロルドにそう言われた。
 俺は、玉座の間で、ハロルドと再会した。俺の右側にはラクラス、賢者は左側にいる。一歩後ろには、外交官役も兼ねているユーリスと護衛のライネルがいる。

 ハロルドは、俺がくるのを待っていたらしい。満面の笑みだ。
 温かく迎えられると、こちらも気分が良い。

「ああ、久しぶりだな。皇帝就任おめでとう」
「不可抗力だけどな。俺は皇帝というガラじゃない。ただ、まぁ――頑張ろうとは思ってる」
「応援してる」

 本音である。より良い国を作り、俺が亡命した際には、過ごしやすい環境にしておいて欲しいと願った。俺も笑顔を浮かべていると、玉座から立ち上がって、ハロルドが階段を下りてきた。見守っていると、俺の正面で立ち止まり、少し屈んだ。骨ばった指先が、俺の頬に触れた。なんだろう? そう思っていると、覗き込まれた。唇が触れそうなほどに近い。

「――すごく会いたかったみたいだ」
「?」
「なんだろうな。用件もないのに、会いたいと思ったのは初めてかも知れない。いいや、まぁ、用件はなくはないんだけどな」
「ハロルド?」

 あんまりにも距離が近くて、俺はうろたえた。ドキッとしてしまう。
 真剣な瞳に、目が釘付けになった。何を言われているのか、うまく飲み込めない。
 すると――右側から腕を引かれた。ラクラスが俺を引っ張ったのである。
 俺を抱きすくめながら、ラクラスが目を細めた。

「フェルに近づくな」
「ここは俺の宮殿だ。召喚獣に命令される覚えはない」
「黙れ」

 ハロルドがスっと目を細めた。ラクラスの方は、明らかに睨んでいる。
 どういう状況なのかよく分からず、俺は困惑するしかない。
 一応主人としては、ラクラスを止めるべきなのだが、ラクラスは俺に不都合になるような行動はしないと思うから、これには何か意味があるのかもしれない。ならば止めてはいけないようにも思うが、ハロルドの宮殿であるのは間違いない。ぐるぐるとそんなことを考えた。すると、左側で吹き出す気配がした。

「まぁまぁ、フェルが困ってるよ。奪い合いは、謁見時には相応しくないんじゃないかな」

 賢者の言葉に、ハロルドがバツが悪そうに顔を背けた。
 ラクラスは、俺を離さず、ワイズを一瞥した。

「人間の決めた規則なんぞ知らん。俺には無関係だ」
「けど、召喚獣を召喚しているのは、人間の決めた規則通りの召喚円だよ」

 笑顔の賢者の言葉に、ラクラスが黙った。そして珍しいことにため息をつくと、俺から手を離した。俺は腕を組んで、ワイズを見た。

「やり手ですね」

 後ろでそんな事を言ってユーリスが笑っていたから、なんとなく脱力してしまった。
 ユーリスとワイズは、直感的に気が合いそうだなと感じた。


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