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【31】苦手な下ネタは自分から突っ込めば、こちら側には深入りされないかもしれない。①
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俺は十八歳になった。飲酒が解禁されたのである。
前世からの禁酒というわけではないが、今世で初めて飲んだ時は、開放感があった。
今も賢者――こと、ワイズと共に酒を飲んでいる。”いつもの”店だ。
現在では、確かにこの店が、いつもの場所になっている。
なんの変哲もない大衆酒場であり、カウンター席と個別卓がある。
俺とワイズは、大抵入口脇の個別卓に陣取っている。
意外とこの位置は、人目につかないのだ。
なお、昔と違って、夢を語り合うことはない。
「魔族の活性化が止まらないんだ」
非常に現実的な話をすることが多い。ただ、今のこの話題に限っては、前世と同じだと判断できた。前世でも、俺が十八の年に、確かにこの話題を聞いたのだ。
「僕がこの国に滞在している間だけでも、二十は国が無くなったみたいだよ」
「そんなにか?」
「まぁ防衛策を持たない小国が大半だし、魔族だけが原因とは限らないけどね」
「どういう意味だ?」
「例えば、混乱に乗じて帝国は国土を広げているし」
俺は静かに頷いた。ジョッキを傾ける。
ハロルドの即位はまだだ。記憶が正しければ、ハロルドの前の皇帝は、非常に残虐だったように思う。それをハロルドがクーデターを起こして倒したのではなかっただろうか。
「ところで、フェル」
「なんだ?」
「閨の講義は始まったの?」
思わず咽せた。実は、十八歳からは、婚姻に備えて、閨の講義があるのである。本来は、貴族の未亡人を相手にするのだが――少し前に法改正があった。そのため、男性との実践経験も持たなければならないと聞いた。正直俺はそれがやりたくないため、女性も含めて、講義をそれとなく拒否しているのだ。半分酔っ払っているワイズは、ニヤニヤしながら俺を見ている。ため息をついてから、俺は頬杖をついた。
「どうだっていいだろう?」
「えー、興味ある。フェルって肉食獣っぽいけど、案外ストイックな気もするから、どっちなのかなぁって」
「試してみるか?」
俺がそう言うと、ワイズが酒を吹いた。大きく咳き込んでいる。顔が赤いのは、酔いのせいではないだろう。
「何赤くなってるんだ。何を想像したんだ?」
「え、いや」
「賢者様ともあろう人が、随分と初心だな」
「っ、げほ」
少しの間、俺はワイズをからかって遊んだ。とはいえ、俺も人のことは言えないだろう――実を言えば、下ネタはあまり得意ではないのだから。
「そ、そういえばさ」
「話を変えたな」
「……っ、あー、その、あれ! あれだよ、あれ!」
「なんだ? お前の初体験の話なんて、大昔過ぎるだろうから聞かなくて良いからな」
「ち、違うから!」
だからこそ、自分から振るのだ。そうすれば、こちら側には深く突っ込まれない。
「――真面目な話だよ」
「それこそなんだ?」
「『巻き戻しワード』は、見つかった?」
その言葉に、俺は首を傾げた。初めて聞く言葉だった。
「どういう意味だ?」
「分からないならいいよ。見つかっていないということだから」
「待ってくれ、具体的に話してくれ。言葉(ワード)?」
「フェルは、ほら、二回目でしょう?」
何が、とは聞かなかったし、俺はもう、ワイズが俺について知っていると考えている。
俺が生まれ直したことを、賢者は見抜いていると思うのだ。
そして、彼は今の俺とも友人でいてくれることを、誇りに思っている。
「戻る契機になる言葉があるはずなんだ。特定他者の命懸けの言葉。それは未来かも知れないし過去かもしれないけれど、必ず耳にしているはずなんだ」
「そう言われてもな」
「最初と今回で、共通している誰かの言葉はない?」
「お前がさっき言った『魔族の活性化』という言葉を含め、多数ある」
「そ、そっかぁ……困ったなぁ」
「何が?」
「それを見つければ、最初と今回で変更可能な未来もあるんだ」
「! つまり、変更不可能な未来もあるのか?」
「これ以上は僕の口からは何も言えな――」
賢者がそう言った時だった。勢いよく、店の扉が開いた。
「聞いたか!? 隣国でクーデターだとさ!」
店内がざわついた。
――今日だったのか。俺は漠然とそう思った。
目の前では、ワイズがジョッキを傾けている。
「こういうね、歴史の流れだとか、変わらないものはあるよね」
「なるほどな」
「帝国は代がわりがあると、即位式典が行われるから、忙しくなるなぁ――そうだ、この国にも招待状が届くだろうし、僕は必ず招かれるから、一緒に帝国に行こうか?」
「悪くないな」
俺は頷いた。なにせ帝国は、亡命先の有力候補でもある。
一度くらいは実際にこの目で見ておきたい。
それに、久しぶりにハロルドにも会いたかった。
前世からの禁酒というわけではないが、今世で初めて飲んだ時は、開放感があった。
今も賢者――こと、ワイズと共に酒を飲んでいる。”いつもの”店だ。
現在では、確かにこの店が、いつもの場所になっている。
なんの変哲もない大衆酒場であり、カウンター席と個別卓がある。
俺とワイズは、大抵入口脇の個別卓に陣取っている。
意外とこの位置は、人目につかないのだ。
なお、昔と違って、夢を語り合うことはない。
「魔族の活性化が止まらないんだ」
非常に現実的な話をすることが多い。ただ、今のこの話題に限っては、前世と同じだと判断できた。前世でも、俺が十八の年に、確かにこの話題を聞いたのだ。
「僕がこの国に滞在している間だけでも、二十は国が無くなったみたいだよ」
「そんなにか?」
「まぁ防衛策を持たない小国が大半だし、魔族だけが原因とは限らないけどね」
「どういう意味だ?」
「例えば、混乱に乗じて帝国は国土を広げているし」
俺は静かに頷いた。ジョッキを傾ける。
ハロルドの即位はまだだ。記憶が正しければ、ハロルドの前の皇帝は、非常に残虐だったように思う。それをハロルドがクーデターを起こして倒したのではなかっただろうか。
「ところで、フェル」
「なんだ?」
「閨の講義は始まったの?」
思わず咽せた。実は、十八歳からは、婚姻に備えて、閨の講義があるのである。本来は、貴族の未亡人を相手にするのだが――少し前に法改正があった。そのため、男性との実践経験も持たなければならないと聞いた。正直俺はそれがやりたくないため、女性も含めて、講義をそれとなく拒否しているのだ。半分酔っ払っているワイズは、ニヤニヤしながら俺を見ている。ため息をついてから、俺は頬杖をついた。
「どうだっていいだろう?」
「えー、興味ある。フェルって肉食獣っぽいけど、案外ストイックな気もするから、どっちなのかなぁって」
「試してみるか?」
俺がそう言うと、ワイズが酒を吹いた。大きく咳き込んでいる。顔が赤いのは、酔いのせいではないだろう。
「何赤くなってるんだ。何を想像したんだ?」
「え、いや」
「賢者様ともあろう人が、随分と初心だな」
「っ、げほ」
少しの間、俺はワイズをからかって遊んだ。とはいえ、俺も人のことは言えないだろう――実を言えば、下ネタはあまり得意ではないのだから。
「そ、そういえばさ」
「話を変えたな」
「……っ、あー、その、あれ! あれだよ、あれ!」
「なんだ? お前の初体験の話なんて、大昔過ぎるだろうから聞かなくて良いからな」
「ち、違うから!」
だからこそ、自分から振るのだ。そうすれば、こちら側には深く突っ込まれない。
「――真面目な話だよ」
「それこそなんだ?」
「『巻き戻しワード』は、見つかった?」
その言葉に、俺は首を傾げた。初めて聞く言葉だった。
「どういう意味だ?」
「分からないならいいよ。見つかっていないということだから」
「待ってくれ、具体的に話してくれ。言葉(ワード)?」
「フェルは、ほら、二回目でしょう?」
何が、とは聞かなかったし、俺はもう、ワイズが俺について知っていると考えている。
俺が生まれ直したことを、賢者は見抜いていると思うのだ。
そして、彼は今の俺とも友人でいてくれることを、誇りに思っている。
「戻る契機になる言葉があるはずなんだ。特定他者の命懸けの言葉。それは未来かも知れないし過去かもしれないけれど、必ず耳にしているはずなんだ」
「そう言われてもな」
「最初と今回で、共通している誰かの言葉はない?」
「お前がさっき言った『魔族の活性化』という言葉を含め、多数ある」
「そ、そっかぁ……困ったなぁ」
「何が?」
「それを見つければ、最初と今回で変更可能な未来もあるんだ」
「! つまり、変更不可能な未来もあるのか?」
「これ以上は僕の口からは何も言えな――」
賢者がそう言った時だった。勢いよく、店の扉が開いた。
「聞いたか!? 隣国でクーデターだとさ!」
店内がざわついた。
――今日だったのか。俺は漠然とそう思った。
目の前では、ワイズがジョッキを傾けている。
「こういうね、歴史の流れだとか、変わらないものはあるよね」
「なるほどな」
「帝国は代がわりがあると、即位式典が行われるから、忙しくなるなぁ――そうだ、この国にも招待状が届くだろうし、僕は必ず招かれるから、一緒に帝国に行こうか?」
「悪くないな」
俺は頷いた。なにせ帝国は、亡命先の有力候補でもある。
一度くらいは実際にこの目で見ておきたい。
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