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【29】お祖父様の家で二番目の召喚獣を手に入れようと考えた。①

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 視察後、俺は悩んだ。
 今後も魔族の襲撃はあるかもしれない。そして常に助けが入るとは限らないのだ。なんとかドロップアウトを目指すにしろ、遭遇してしまった際に、それとなく撃退しても他者に気づかれない方法――いいや、気づかれても問題視されない方法は無いものかと、考えているのである。別に俺には正義感があるわけではない。単純に目の前で人が死ぬのが嫌だという利己的な考えからである。

「フェル殿下」
「なんだ?」

 そんなある日、ユーリスが言った。

「召喚獣をきちんと召喚なさってはいかがですか?」

 その言葉に俺は顔を上げた。
 実は同じことを、俺も考えていたからである。
 既にラクラスを従えている以上、時期の前後は問題にはならないだろう。
 だから最低限の強さを誇る、日常的に使える召喚獣を、一匹持っても良い気がしたのだ。
 それならば、今後魔族が襲ってきても安心である。

「考えてみる。お祖父様に滞在の許可を取っておいてくれ」
「かしこまりました」

 ユーリスは微笑すると出て行った。
 召喚の儀式は、自分の血縁関係の中で、もっとも影響がある館で行う。
 ただしこれは、母方と決まっているから、宮廷の儀式円では行わない決まりだ。

 その条件だと、俺は母上の生家のお祖父様の家で召喚を行うことになっている。
 前世では、ラクラスの洞窟にあった魔法円で自然と行ったわけであるが、今度は違う。
 ――お祖父様の家に行って、そのまま居着いてしまおうかな。

 そんなことを考えながら、俺は旅立ちの日を迎えた。
 ついでに、ラクラスの魔法円も見ておきたかった。
 明らかに俺以外の誰かの手が加わっていると考えられるからである。
 少なくとも前回見たときは、そう感じた。

 到着した初日は、祖父と談笑して、食事を楽しんだ。
 魔法円を見に行ったのは、翌日である。
 鬱蒼とした森を進んでいき、俺は獣道にそれた。近衛のライネルが、焦ったように俺を探しているのを、木陰から一瞥した。申し訳ないが、一人で行かなければならない。ラクラスの洞窟は、秘匿しておかなければならないのだ。

 嘆息して、少し歩いた。
 そして――ざわりと嫌な風を感じた。同時に、枝を踏む音を聞いた。
 硬直して、俺は木の陰に隠れた。咄嗟の行動だった。
 何か嫌な感覚がして、全身が総毛立つ。
 一度目を閉じてから、俺は視線を動かした。
 するとそこには――……?


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