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【18】夜会と視察がフラグでないことを祈る。②
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視察に行って欲しいと再び頼み込まれたのは、その数日後のことだった。
お風呂に入りながら俺は考えた。
前世では魔族を倒しまくっていたため、視察になど行ったことはない。だから一回くらいは経験として行ってみようかと、思わないこともないのだ。フラグになりそうで怖いのだが、もし今後父や兄の手伝いをして国を支えるとすると未経験も辛い。多分、一生ひきこもっているわけにはいかないからだ……。三年に一回くらいはどこかに行ったほうがいい気もする。
そんなことを考えていたら、俺はのぼせた。
「殿下! フェル様!」
うっすらと目を開けると、近衛のライネルが、裸の俺を抱きかかえてソファに降ろしてくれたところだった。うあ、天井がグルグルする。濡れタオルを当ててもらい、俺はその日はそのまま休んだ。そばでライネルがずっと護衛してくれていたのだった。
さて、その一週間後。季節は真夏。
俺は結局視察をすることになった。ライネルと、あとは俺が体調を壊した場合及び参拝先での手続きのためにユーリスが来た。初めてのおつかいみたいなものだと説得されて、俺は視察に来た。今回は三人だけである。
向かった先は、王都の外れ、北の森の中間にある始祖王の塔だ。
視察というよりお参りである。
「フェル様」
その時ライネルが立ち止まり、俺の前に腕を出した。
何事かと思った時、俺は塔の正面に倒れている人物を視界にとらえた。
待て……俺はこいつを見たことがある。誰だ?
倒れている人物に歩み寄ろうとした。
茂みが揺れたのはその時だった。
ライネルが剣を抜いたのを見た時には、俺はユーリスに抱きしめて庇われていた。
……魔族だった。
出てきたのは一体だけで、ライネルの敵ではなかった。
しかし、俺は思わず首をひねった。
この辺りには、遺跡群が多いため、魔族の侵入を防ぐ結界があったはずだ。
一体どうしてこんなところに魔族が……?
「その者をどうしますか? 魔族に襲われた以上、早めに帰還すべきだと思いますが」
ユーリスに聞かれたので、俺は腕を組んだ。ライネルは剣をしまっている。
確かに他にもいるかもしれないから帰ったほうがいいだろう。
そこで俺は再び倒れている青年へと視線を戻した。肩幅が広く焦茶色の髪をしている。意識はない様子だった。ヒゲも髪もボサボサである。
「……連れて帰ろう」
「このような不審者をですか? ライネルも同意見ですか?」
「それをフェル様が望むのならば」
「しかたありませんね……」
このようにして俺たちは青年を拾い、森から出た。
それにしても誰だったかな。おそらく会ったのは前世だ。前世を知るのはラクラスだけだが、ラクラスは人間の顔をあまり覚えていないから期待できない。
賢者ならば知っているだろうか? ああ、でも俺、あいつの居場所を知らないな。
帰還後、客室で俺は、眠っている青年を見ていた。
彼が目を覚ましたのはその時だった。
「……った」
「目が覚めたのか?」
「腹が減った」
とりあえず腹ごしらえかと思った。空腹が何よりも辛いことを俺はよく知っている。幽閉された当初など餓死を覚悟したものだ。
食べ物を運ばせると、起き上がった青年がガツガツと食べ始めた。
すごい勢いだったが、意外なことに、華麗なるフォークとナイフさばきだった。身なりからは想像もつかないが、貴族以上の階級だろうと判断できる。
その後俺は、侍従たちに風呂と身支度の世話を頼んで自室へと戻った。
そして翌朝また出向いた。
結果、あっけにとられた。そこにはこれまでの人生で見たことがないほどのイケメンが立っていたのだ。ポカンとした。
「昨日は助けてくれたこと感謝する」
響いた声に、えっ、と思った。昨日拾った青年か、これ! 本当に?
目を疑った。
と、同時に俺は相手のことを思い出した。金色の瞳を見て確信する。
こいつ……隣国の皇帝だ。いや、前世で就任したてだったから、今はまだ皇帝ではないだろうが。残念ながら、俺は外交知識がほとんどないのだ。たまたま父の葬儀で見かけただけだ。
……ここで仲良くなっておいたら、最悪の事態が来た場合、亡命させてくれたりしないだろうか……。
「俺はハロルド。旅人だ」
「フェルだ」
しかしどうしてこいつはあんなところにいたんだ?
あそこは観光名所でもなんでもない。
第一魔族がいたのも気になる。
とりあえず、ハロルドとは少し話をしてみようと思ったのだった。
お風呂に入りながら俺は考えた。
前世では魔族を倒しまくっていたため、視察になど行ったことはない。だから一回くらいは経験として行ってみようかと、思わないこともないのだ。フラグになりそうで怖いのだが、もし今後父や兄の手伝いをして国を支えるとすると未経験も辛い。多分、一生ひきこもっているわけにはいかないからだ……。三年に一回くらいはどこかに行ったほうがいい気もする。
そんなことを考えていたら、俺はのぼせた。
「殿下! フェル様!」
うっすらと目を開けると、近衛のライネルが、裸の俺を抱きかかえてソファに降ろしてくれたところだった。うあ、天井がグルグルする。濡れタオルを当ててもらい、俺はその日はそのまま休んだ。そばでライネルがずっと護衛してくれていたのだった。
さて、その一週間後。季節は真夏。
俺は結局視察をすることになった。ライネルと、あとは俺が体調を壊した場合及び参拝先での手続きのためにユーリスが来た。初めてのおつかいみたいなものだと説得されて、俺は視察に来た。今回は三人だけである。
向かった先は、王都の外れ、北の森の中間にある始祖王の塔だ。
視察というよりお参りである。
「フェル様」
その時ライネルが立ち止まり、俺の前に腕を出した。
何事かと思った時、俺は塔の正面に倒れている人物を視界にとらえた。
待て……俺はこいつを見たことがある。誰だ?
倒れている人物に歩み寄ろうとした。
茂みが揺れたのはその時だった。
ライネルが剣を抜いたのを見た時には、俺はユーリスに抱きしめて庇われていた。
……魔族だった。
出てきたのは一体だけで、ライネルの敵ではなかった。
しかし、俺は思わず首をひねった。
この辺りには、遺跡群が多いため、魔族の侵入を防ぐ結界があったはずだ。
一体どうしてこんなところに魔族が……?
「その者をどうしますか? 魔族に襲われた以上、早めに帰還すべきだと思いますが」
ユーリスに聞かれたので、俺は腕を組んだ。ライネルは剣をしまっている。
確かに他にもいるかもしれないから帰ったほうがいいだろう。
そこで俺は再び倒れている青年へと視線を戻した。肩幅が広く焦茶色の髪をしている。意識はない様子だった。ヒゲも髪もボサボサである。
「……連れて帰ろう」
「このような不審者をですか? ライネルも同意見ですか?」
「それをフェル様が望むのならば」
「しかたありませんね……」
このようにして俺たちは青年を拾い、森から出た。
それにしても誰だったかな。おそらく会ったのは前世だ。前世を知るのはラクラスだけだが、ラクラスは人間の顔をあまり覚えていないから期待できない。
賢者ならば知っているだろうか? ああ、でも俺、あいつの居場所を知らないな。
帰還後、客室で俺は、眠っている青年を見ていた。
彼が目を覚ましたのはその時だった。
「……った」
「目が覚めたのか?」
「腹が減った」
とりあえず腹ごしらえかと思った。空腹が何よりも辛いことを俺はよく知っている。幽閉された当初など餓死を覚悟したものだ。
食べ物を運ばせると、起き上がった青年がガツガツと食べ始めた。
すごい勢いだったが、意外なことに、華麗なるフォークとナイフさばきだった。身なりからは想像もつかないが、貴族以上の階級だろうと判断できる。
その後俺は、侍従たちに風呂と身支度の世話を頼んで自室へと戻った。
そして翌朝また出向いた。
結果、あっけにとられた。そこにはこれまでの人生で見たことがないほどのイケメンが立っていたのだ。ポカンとした。
「昨日は助けてくれたこと感謝する」
響いた声に、えっ、と思った。昨日拾った青年か、これ! 本当に?
目を疑った。
と、同時に俺は相手のことを思い出した。金色の瞳を見て確信する。
こいつ……隣国の皇帝だ。いや、前世で就任したてだったから、今はまだ皇帝ではないだろうが。残念ながら、俺は外交知識がほとんどないのだ。たまたま父の葬儀で見かけただけだ。
……ここで仲良くなっておいたら、最悪の事態が来た場合、亡命させてくれたりしないだろうか……。
「俺はハロルド。旅人だ」
「フェルだ」
しかしどうしてこいつはあんなところにいたんだ?
あそこは観光名所でもなんでもない。
第一魔族がいたのも気になる。
とりあえず、ハロルドとは少し話をしてみようと思ったのだった。
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