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【11】気を遣ってグレながら(将来の)宰相と渡り合っていたら忘れていた。④

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「良かったのか?」
「ん? なにがだ? それよりもありがとう」
「みんな見てるぞ」
「!」
「お前って昔っから変なところでお人好しだよなー」

 ラクラスはそういうと、不意に俺を抱きしめた。その腕の中で硬直してから、慌てて俺は帰還を命じた。「じゃあ飲みにでも行ってくるわ」と口にし、ラクラスはそのまま姿を消した。それから……俺は恐る恐る周囲を見渡した。引きつった笑みを浮かべてしまった。そこでは皆があっけに取られたようにこちらを見ていた。

「良くやったね、フェル」

 沈黙を最初に破ったのは父だった。その声は穏やかで、まずは俺を褒めてくれた。俺はどうしたらいいのかわからないままそれを聞いていた。

「……だけど今の召喚獣は、王家の言い伝えに残る伝説的な召喚獣ラクラスだね」
「……」
「その上、それを制御しきった魔力。フェル、一体どういうことだい?」

 父の口調が少し強いものへと変わった。俺はうるさい鼓動を抑えながら必死で考えた。どうする? どうすればいい? 俺は、一体どうすれば……!

 そして一人で静かに頷き、満面の笑みを浮かべることにした。

「俺、なにが起きたのか全然わかりません! あれ、え? 俺が何かしたんですか? 俺、俺、魔族が襲ってきたところまでしか覚えてないけど、助かったんですよね?」

 うん。知らんぷりで押し通そう。

「フェル。正直に言いなさい」
「父上……俺、俺、本当になにもわからなくて」

 だめ押しに俺は泣いた。嘘泣きで頑張った。しかし周囲は明らかに俺を怪訝そうに見ている。うわああ、どうやって切り抜けよう……! そう悩んでいた時だった。

「国王陛下、僭越ながら、この一件はフェル第二王子殿下の潜在能力の高さによるものだと思われます」

 ユーリスがそんなことを言った。

「おそらくお身体が弱く耐えられないため、普段は発揮しない機制になっているのでしょう。ですが、実際には強い力をお持ちで、それは無意識に最強の召喚獣をも喚び出してしまうほどのお力だったのだと考えられます。フェル殿下が嘘をついているとは俺には思えません」

 実に自然で、納得できる言葉の数々だった。ユーリスの声に、父が頷いた。

「なるほど、そうか。兎角この度は助かった。フェルは英雄だ」

 やばいやばいやばい、丸く収まった風だが英雄フラグはいらない。

「俺が英雄? やった! これで兄上の力になれるぞ!」

 俺はそう付け足すことを忘れなかった。

 このようにして、王都と俺の危機は去った……かに見えた。
 しかし、部屋へと戻った時、本日も律儀にお茶を持ってきたユーリスが、後手に扉を閉めると吹き出した。

「フェル殿下、今回の件は貸しですよ」
「……え?」
「ラクラスほどの高名な召喚獣を瞬間的に召喚するなど始祖王でも不可能だ。魔法円の術式を見た限りでも、あれは相応の時間がかかっているはずだ。古代のものに手を加えた形跡があったからね。そもそも、一応当家は薬師や医術師を多く輩出しているから殿下の仮病が見抜けないほど愚かではないです。ですから、先ほど俺が陛下をうまく納得させたのは、貸しです。必ず返してもらいますよ」
「な、なんの話かわからない……」
「俺は実力主義者だから子供だと言って容赦はしません。わからないというのであればそれも結構。じきにわからせて差し上げますよ。それまでじっくりと考えることだ。俺の手を取るか否かを、な」

 ユーリスはそういうと部屋を出て行った。残された俺は、呆然とするしかなかったのだった。少なくとも前世では、ユーリスにこうした形で腹黒い助けられ方をしたことはなかった。ただ今回は実際、助けられたのは間違いない。しかし、しかしだ。

「誰が手なんか……」

 そもそも諸悪の根源はあやつだ。ただそれ以後、俺はぐるぐると悩むことになったのだった。

 同時に……流石に、魔力に関しては皆の前で披露してしまったから、強制的に家庭教師を復活させられた。召喚術もだ。俺のグレる計画も、なんと頓挫してしまったのである。

 ちなみに第三案として、失踪も検討中なのだが、まだ実行に移す勇気はない。

 そうして勉学の日々を送り、俺は13歳になった。
 最近では予習復習をバッチリさせられるため、辟易しながら俺は部屋で、風の初級魔術を使っていた。時間を忘れていて、我に返ったのはユーリスが来た時だった。

「入れ」

 一方の手のひらの上に小さな竜巻を起こしながら俺は言った。
 すると、入ってきたユーリスが息を飲んだ。

「初級とはいえ……その練度……流石ですね」
「褒めても何も出ないぞ。さっさと茶をよこせ」
「……フェル殿下」

 その時ユーリスがまじまじと俺を見た。そして口角を持ち上げた。

「さすがは第二王子殿下だ。そのお力、もっと民草のためにお使いになってはいかがですか?」

 来た。そうしてきたのがこのセリフである。
 ある種、ここから俺の真の戦いは始まった。


 俺は、真のスローライフを目指す!


 言葉を探しながら、俺は唾を飲み込んだのだった。




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