11 / 68
【11】気を遣ってグレながら(将来の)宰相と渡り合っていたら忘れていた。④
しおりを挟む「良かったのか?」
「ん? なにがだ? それよりもありがとう」
「みんな見てるぞ」
「!」
「お前って昔っから変なところでお人好しだよなー」
ラクラスはそういうと、不意に俺を抱きしめた。その腕の中で硬直してから、慌てて俺は帰還を命じた。「じゃあ飲みにでも行ってくるわ」と口にし、ラクラスはそのまま姿を消した。それから……俺は恐る恐る周囲を見渡した。引きつった笑みを浮かべてしまった。そこでは皆があっけに取られたようにこちらを見ていた。
「良くやったね、フェル」
沈黙を最初に破ったのは父だった。その声は穏やかで、まずは俺を褒めてくれた。俺はどうしたらいいのかわからないままそれを聞いていた。
「……だけど今の召喚獣は、王家の言い伝えに残る伝説的な召喚獣ラクラスだね」
「……」
「その上、それを制御しきった魔力。フェル、一体どういうことだい?」
父の口調が少し強いものへと変わった。俺はうるさい鼓動を抑えながら必死で考えた。どうする? どうすればいい? 俺は、一体どうすれば……!
そして一人で静かに頷き、満面の笑みを浮かべることにした。
「俺、なにが起きたのか全然わかりません! あれ、え? 俺が何かしたんですか? 俺、俺、魔族が襲ってきたところまでしか覚えてないけど、助かったんですよね?」
うん。知らんぷりで押し通そう。
「フェル。正直に言いなさい」
「父上……俺、俺、本当になにもわからなくて」
だめ押しに俺は泣いた。嘘泣きで頑張った。しかし周囲は明らかに俺を怪訝そうに見ている。うわああ、どうやって切り抜けよう……! そう悩んでいた時だった。
「国王陛下、僭越ながら、この一件はフェル第二王子殿下の潜在能力の高さによるものだと思われます」
ユーリスがそんなことを言った。
「おそらくお身体が弱く耐えられないため、普段は発揮しない機制になっているのでしょう。ですが、実際には強い力をお持ちで、それは無意識に最強の召喚獣をも喚び出してしまうほどのお力だったのだと考えられます。フェル殿下が嘘をついているとは俺には思えません」
実に自然で、納得できる言葉の数々だった。ユーリスの声に、父が頷いた。
「なるほど、そうか。兎角この度は助かった。フェルは英雄だ」
やばいやばいやばい、丸く収まった風だが英雄フラグはいらない。
「俺が英雄? やった! これで兄上の力になれるぞ!」
俺はそう付け足すことを忘れなかった。
このようにして、王都と俺の危機は去った……かに見えた。
しかし、部屋へと戻った時、本日も律儀にお茶を持ってきたユーリスが、後手に扉を閉めると吹き出した。
「フェル殿下、今回の件は貸しですよ」
「……え?」
「ラクラスほどの高名な召喚獣を瞬間的に召喚するなど始祖王でも不可能だ。魔法円の術式を見た限りでも、あれは相応の時間がかかっているはずだ。古代のものに手を加えた形跡があったからね。そもそも、一応当家は薬師や医術師を多く輩出しているから殿下の仮病が見抜けないほど愚かではないです。ですから、先ほど俺が陛下をうまく納得させたのは、貸しです。必ず返してもらいますよ」
「な、なんの話かわからない……」
「俺は実力主義者だから子供だと言って容赦はしません。わからないというのであればそれも結構。じきにわからせて差し上げますよ。それまでじっくりと考えることだ。俺の手を取るか否かを、な」
ユーリスはそういうと部屋を出て行った。残された俺は、呆然とするしかなかったのだった。少なくとも前世では、ユーリスにこうした形で腹黒い助けられ方をしたことはなかった。ただ今回は実際、助けられたのは間違いない。しかし、しかしだ。
「誰が手なんか……」
そもそも諸悪の根源はあやつだ。ただそれ以後、俺はぐるぐると悩むことになったのだった。
同時に……流石に、魔力に関しては皆の前で披露してしまったから、強制的に家庭教師を復活させられた。召喚術もだ。俺のグレる計画も、なんと頓挫してしまったのである。
ちなみに第三案として、失踪も検討中なのだが、まだ実行に移す勇気はない。
そうして勉学の日々を送り、俺は13歳になった。
最近では予習復習をバッチリさせられるため、辟易しながら俺は部屋で、風の初級魔術を使っていた。時間を忘れていて、我に返ったのはユーリスが来た時だった。
「入れ」
一方の手のひらの上に小さな竜巻を起こしながら俺は言った。
すると、入ってきたユーリスが息を飲んだ。
「初級とはいえ……その練度……流石ですね」
「褒めても何も出ないぞ。さっさと茶をよこせ」
「……フェル殿下」
その時ユーリスがまじまじと俺を見た。そして口角を持ち上げた。
「さすがは第二王子殿下だ。そのお力、もっと民草のためにお使いになってはいかがですか?」
来た。そうしてきたのがこのセリフである。
ある種、ここから俺の真の戦いは始まった。
俺は、真のスローライフを目指す!
言葉を探しながら、俺は唾を飲み込んだのだった。
19
お気に入りに追加
1,837
あなたにおすすめの小説
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
冤罪で投獄された異世界で、脱獄からスローライフを手に入れろ!
風早 るう
BL
ある日突然異世界へ転移した25歳の青年学人(マナト)は、無実の罪で投獄されてしまう。
物騒な囚人達に囲まれた監獄生活は、平和な日本でサラリーマンをしていたマナトにとって当然過酷だった。
異世界転移したとはいえ、何の魔力もなく、標準的な日本人男性の体格しかないマナトは、囚人達から揶揄われ、性的な嫌がらせまで受ける始末。
失意のどん底に落ちた時、新しい囚人がやって来る。
その飛び抜けて綺麗な顔をした青年、グレイを見た他の囚人達は色めき立ち、彼をモノにしようとちょっかいをかけにいくが、彼はとんでもなく強かった。
とある罪で投獄されたが、仲間思いで弱い者を守ろうとするグレイに助けられ、マナトは急速に彼に惹かれていく。
しかし監獄の外では魔王が復活してしまい、マナトに隠された神秘の力が必要に…。
脱獄から魔王討伐し、異世界でスローライフを目指すお話です。
*異世界もの初挑戦で、かなりのご都合展開です。
*性描写はライトです。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる