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【10】気を遣ってグレながら(将来の)宰相と渡り合っていたら忘れていた。③

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 俺はわがままの限りを尽くした。そして兄は遠方への視察などの行事以外では必ず6時ごろやってくる。ユーリスは8時に訪れる。定期的な茶会には一応出ている。とりあえず俺は勉強だけドロップアウトし、あとは変な話だが、気を使ってグレながら過ごした。

 そして、12歳になった。前世ではこの頃はすでに一個師団を任されて、魔族討伐に出かけていた記憶がある。俺が指揮していた師団は、決して王都への魔族の襲撃を許さず、事前に殲滅していた。

 だから……まさか、王都に大量の魔族が襲来するなどということは想定していなかった。だって、だってだ。前世では事前に壊滅させていたから、襲来するなんていう事件はなかったのだ。


 その日、火の海となった王都は、阿鼻叫喚地獄絵図と化した。

「フェル!」

 燃えさかる城下町を、城の自室で俺が呆然と見ていた時、扉が開いた。
 入ってきた兄のウィズは、強く両手を俺の肩においた。

「逃げるぞ! いいや、俺はこの王都を守るために残るけどな、お前は絶対に無事に逃がす!」

 そう言ってウィズは強引に俺の手首を握ると走り出した。
 途中で俺は、父である国王陛下と、母上をはじめとした後宮の人々の元の連れて行かれた。宰相府の人々も一緒である。その頃には、王宮にまで魔族は侵入を果たしていて、斜め前方で天井が崩れ落ちた。あ。まずい。俺は、王都に溢れかえっている嫌な魔力の気配と血の匂いに、思わず片手で唇を覆った。このままでは、被害は広がる。ただではすまない。

 そもそも父の召喚獣は癒しの力を持つものだから戦闘には向かない。
 兄の召喚獣は、消火には役立つだろうが、水系の攻撃を使えば王都には洪水が巻き起こる。他の貴族たちの召喚獣を前世の記憶から呼び起こしてみるが、召喚獣とは本当に契約できるだけで特別な存在だから、戦闘に向いているものは少ない。

 ああ、駄目だ。

 このままでは被害が広がり、多くの人が死んでしまうかもしれない。
 俺は唾液を嚥下した。下ろしたままの手をきつく握る。駄目だ、本当に駄目だ、駄目なのに……俺は、こんなことは見過ごせない。

 右手を上げて、ぎゅっと首から下げている指輪を握った。

 魔力を込める。すると俺を中心に、その場に光で構築された召喚魔法円が出現した。
 全身で強い力を受け止めながら、俺は呟いた。

「我が名の下に交わした契約に応じよ、ラクラス」

 気がつけばそう呟いていた。
 瞬きをした次の瞬間には、俺の隣に人型をとったラクラスが立っていた。
 一瞥して俺は命じた。

「魔族を全て消せ」

 すると喉で笑ったラクラスが、指を鳴らした。パチンと、その音がやんだ時には、王都に溢れかえっていた嫌な魔力は全て消えた。

「時間軸に干渉し、火を滅し家屋の復元を」

 続けて言うと、今度はラクラスが指をくるくると回した。その瞬間、王都全域が復興した。心地の良い疲労感に襲われて、久々に全力を出した自分に気づいた。片手で汗を拭う。するとラクラスがこちらを見た。


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