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【3】召喚獣と契約したり第一王子(異母兄)に会ったりフラグだらけの中を生き抜く。①

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 さて、父が母と俺を視察旅行に誘ったのは、俺が5歳になった初夏のことだった。
 俺はこの時の前世のことをはっきりと覚えている。
 視察先は、王都直轄地ハーデスだった。

 俺の前世の記憶の通りならば、俺は森ではぐれるのだ。そして一定の魔力量がなければ入り口さえ見えない洞窟に足を踏み入れる。当時は誰にでも見えると思っていたが、前世で研究した限りそれは間違いだったのだ。俺は、俺以外にその洞窟の入り口を見たという者を知らない。

 この洞窟の中に、古代に築かれたと思しき、召喚魔法円が存在していたのだ。

 はじめはそうとは知らず、俺は何とはなしに魔法円の上に立ったものである。
 この世界には、召喚獣と呼ばれる存在がいる。
 基本的に王族と、過去に王家と血縁関係にあった貴族以外は、召喚できない。
 王の証であり、貴族の証。
 同時に強い力を持ち、人々をサポートしてくれる存在だと言える。
 人間の持つ魔術ともまた違った力だ。使い方によっては兵器となる。
 それを喚ぶために、召喚魔法円と呼ばれるものが必要なのだ。

 洞窟に刻まれていた魔法円は、神話にも名前が出てくるラクラスのものだったのだ。
 ラクラスは、始祖王の三匹目の召喚獣だったと伝わっている。
 史上最強の攻撃力を持ち、魔族の大群すら指先一つで灰燼に帰すことができると記録されていた。当時の俺はもちろんそんなことは全く知らなかった。その上、魔法円は俺の魔力に勝手に反応した。

 そうして伝説の召喚獣ラクラスをわずか5歳で手に入れた俺の評価は盤石となったのだ。これも確実にフラグだ。

「スルーすべきか……」

 今世において森に入った瞬間、俺は呟いた。
 正直迷う。前世を振り返ってみると、信用できるのはラクラスだけなのだ。召喚獣は主人には決して嘘をつかない。わざと黙秘することはあっても、決して嘘はつかないのだ。若干気まぐれなところもあるラクラスだが、俺にとっては良い相棒だったようにも思う。軟禁される直前に強制的に契約を解消して逃がしてから会っていない。元気にしているだろうか。それも気になった。まぁ向こうは俺を覚えていないのだろうが。

 やっぱり。

 これはいくらフラグを立ててしまうかもしれないとはいえ、ちょっとスルーできない。 それくらい俺にとってはラクラスは大切なのだ。
 そこで俺は、今世では意図的に森ではぐれた。
 洞窟を無事に見つけてホッとした。中へと入れば、召喚魔法円がある。
 しかし少し不思議なことがあった。前世で俺は独自の研究成果で何度か魔法円の術式を書き換えて刻み直したのだが、その修正した状態の円陣が広がっていたのだ。誰かが俺と同じ解を導出し、すでに契約したのか?

 疑問に思いつつも、俺は自然と魔法円の上に立っていた。すると淡い光が溢れた。

「やっと来たのか」
「……ラクラス」

 一切変わらない姿とやる気が感じられない声。懐かしくなって思わず頬が持ち上がる。
 って、向こうは俺を覚えていないんだから……

「忘れるはずがねぇだろ。お前みたいな特徴的な主人を」
「勝手に人心理解の術を使うなと何度言わせれば……え」

 昔のくせで言いかけてから、驚いて俺は顔を上げた。
 忘れるはずがない?  それはすなわち、覚えているということか……?

「召喚獣に時間の概念はない。全てが"今"であり"昔"だ。このフィールドの時間軸は前にしか進まない。人の世のことわりとは違う」
「……」
「返すからな」

 ラクラスはそう口にすると、赤い魔法石がはまった指輪を俺の前に落とした。
 慌てて両手で受け取る。
 この指輪は、契約の証だ。

「また契約してくれるのか?」
「まだもなにも、ずっと契約したままだ。解消した覚えは無ぇぞ」

 なんだか胸がじわりと温かくなった。ありがとう、ラクラス!
 思わず俺はラクラスに抱きついた。人型をとっているラクラスは、そんな俺をつまみ上げた。幼い俺は宙で揺れた。

「ひっつくな。暑い」
「悪い。降ろしてくれ!  そ、それと、相談があるんだ」
「なんだ?」
「ラクラスと契約した事実が広まると、また俺は継承権争いに担ぎ出されるかもしれない。それを回避したいんだ」
「なるほど。第一王子の息の根を今の内に止めておけばいいんだな」
「ばっ、な、なんて事を!  馬鹿か!  穏便に事を運びたいって言ってるんだよ!」

 その発想はなかった。確かにラクラスの提案は……的を射ている……。
 だが国王になんかなったら、絶対に前以上に大変だ。
 俺はスローライフを謳歌するのだし、仮にも異母兄、血は見たくない。向こうはあっさり俺を処刑したけどな!

「まぁ付き合ってやっても良い。俺は久々に王都で酒でも飲んで過ごす。用があるときはいつも通り喚んでくれ。獣か何かの姿を一時的にとって会いに行く。指輪はこれで首にでも下げてろ」

 ラクラスはそう言うと俺に銀の鎖をくれた。ありがたい配慮だった。この指輪がある限り、どこにいても連絡を取る事ができる。前世では人型のラクラスを従えていたから、あまり他の姿は知らないが、鳥や犬になったところは見た事がある。ちなみにラクラスの真の姿は、青緑色の飛竜だ。だから長めの髪も青緑色だ。

「じゃあまたな」

 そう言うとラクラスが消えた。一人残された俺は遅ればせながら再会の喜びをかみしめ、洞窟を後にしたのだった。

 そして、両親に全力で泣かれた……心配していたと言われて抱きしめられたとき、この二人が両親で良かったと思ったものである。


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