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―― 第一章 ――
【026】自分の部屋
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その後、あやかし対策部隊の軍人達が駆けつけてきた。
偲に上着を掛けてもらった時生は、その場で腕に包帯を巻いてもらい、この日は礼瀬家へと連れて帰られた。そして、今ではそこが『自分の部屋』となった一室へ入った。
「事情聴取などもある。だがそれは明日以降にしてもらった。まずは傷を癒やし、ゆっくりと休むといい」
先程までの険しさが嘘のように優しく心配そうな偲の声に、時生はやっと落ち着きを取り戻し、何度も頷く。
「時生!!」
するとガラリと戸が開け放たれ、小春を伴っている澪が駆け込んできた。
そして、布団に座し上半身を起こしていた時生に、駆け寄った。
布団の上に飛び乗り、正面から時生に抱きつく。ボロボロと澪が号泣している。
「ごめん、ごめん。おれは連れて行かせてしまった。守ってあげられなかった!」
「澪様……」
「無事でよかった。無事で……うわぁああん!」
泣きながら、小さい腕を強くまわし、澪が言う。その優しさに、時生もまた涙腺が緩んでしまった。同時にそれを見ていたら、自分が不甲斐なくなった。恐怖に駆られていた時分、己はただ助けを求め願っていただけだ。こんなに小さな澪ですら、自分を助けようとしてくれたというのに。これからはしっかりと、自分自身で己を守れるようにしなければ。なにもしないだけ、無気力、無力感に駆られているだけでは駄目だ。
「ありがとうございます。ありがとう、澪様。僕、これからはもっと強くなります、だから、大丈夫」
澪を落ち着かせるように、そして自分自身に念じるように時生は述べた。
それから澪を抱きしめたままで、時生は偲を見た。
「あの……僕のお父様には、一体なにが……? あの蛇神様というのは……?」
「これまでに聞き取りをしたかぎりでは、高圓寺家に破魔の技倆を持つ者が生まれなくなってから――と、軍で関知していた期間に、生まれてきた技倆の持ち主を、歴代の高圓寺家の当主が、皆あの大蛇の物の怪に喰べさせてきたのだという。悍ましいことだ。あの物の怪に、洗脳されてきたのだろう。大蛇が神なのだと。物の怪は、弱い者を魅了する」
「地下にいた……あの、供物にするといっていた、他のあやかしは……?」
「全てあやかし対策部隊の者が解放している。罪なき存在が多かった」
それを聞いて、小さく時生は頷いた。
「時生には酷な話かもしれないが、高圓寺家は今後、爵位の剥奪も含めて、四将からの除名の検討も含めて、処遇が話し合われる。だが、時生を悪いようにはしない。だから、心配は無用だ」
偲が柔らかな声で言った。
時生は偲を見て、口元を綻ばせる。
「本当に、ありがとうございます」
腕では澪の温もりを感じながら、時生は胸を落ち着ける。
このようにして、時生にとっての一つの事件は幕を下ろしたのだった。
偲に上着を掛けてもらった時生は、その場で腕に包帯を巻いてもらい、この日は礼瀬家へと連れて帰られた。そして、今ではそこが『自分の部屋』となった一室へ入った。
「事情聴取などもある。だがそれは明日以降にしてもらった。まずは傷を癒やし、ゆっくりと休むといい」
先程までの険しさが嘘のように優しく心配そうな偲の声に、時生はやっと落ち着きを取り戻し、何度も頷く。
「時生!!」
するとガラリと戸が開け放たれ、小春を伴っている澪が駆け込んできた。
そして、布団に座し上半身を起こしていた時生に、駆け寄った。
布団の上に飛び乗り、正面から時生に抱きつく。ボロボロと澪が号泣している。
「ごめん、ごめん。おれは連れて行かせてしまった。守ってあげられなかった!」
「澪様……」
「無事でよかった。無事で……うわぁああん!」
泣きながら、小さい腕を強くまわし、澪が言う。その優しさに、時生もまた涙腺が緩んでしまった。同時にそれを見ていたら、自分が不甲斐なくなった。恐怖に駆られていた時分、己はただ助けを求め願っていただけだ。こんなに小さな澪ですら、自分を助けようとしてくれたというのに。これからはしっかりと、自分自身で己を守れるようにしなければ。なにもしないだけ、無気力、無力感に駆られているだけでは駄目だ。
「ありがとうございます。ありがとう、澪様。僕、これからはもっと強くなります、だから、大丈夫」
澪を落ち着かせるように、そして自分自身に念じるように時生は述べた。
それから澪を抱きしめたままで、時生は偲を見た。
「あの……僕のお父様には、一体なにが……? あの蛇神様というのは……?」
「これまでに聞き取りをしたかぎりでは、高圓寺家に破魔の技倆を持つ者が生まれなくなってから――と、軍で関知していた期間に、生まれてきた技倆の持ち主を、歴代の高圓寺家の当主が、皆あの大蛇の物の怪に喰べさせてきたのだという。悍ましいことだ。あの物の怪に、洗脳されてきたのだろう。大蛇が神なのだと。物の怪は、弱い者を魅了する」
「地下にいた……あの、供物にするといっていた、他のあやかしは……?」
「全てあやかし対策部隊の者が解放している。罪なき存在が多かった」
それを聞いて、小さく時生は頷いた。
「時生には酷な話かもしれないが、高圓寺家は今後、爵位の剥奪も含めて、四将からの除名の検討も含めて、処遇が話し合われる。だが、時生を悪いようにはしない。だから、心配は無用だ」
偲が柔らかな声で言った。
時生は偲を見て、口元を綻ばせる。
「本当に、ありがとうございます」
腕では澪の温もりを感じながら、時生は胸を落ち着ける。
このようにして、時生にとっての一つの事件は幕を下ろしたのだった。
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