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―― 第一章 ――

【二】◆◇◆ 現在 2 ◆◇◆

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 発泡酒を片手に、俺は缶に口をつけた。青いパッケージの発泡酒には、春らしく桜の模様が描かれている。その色を目にしてから、ふと思いついて俺は頭上を見上げた。

「なぁ、相馬」
「なんだ?」
「桜ってさぁ、ピンクなんじゃないのか? どう見ても上の本物は、ただの白にしか思えない」

 素直に感想を述べると、相馬もまた缶を手に取りながら、桜を見上げた。

「ピンクは薄紅色と称されるような桜のイメージなんじゃないのか? 今咲いている桜のように、薄桜色は、僅かな赤味を含んだ白の事なんだから、白という感想でも良いだろうが」
「やっぱり、ただの白だよな?」
「俺にはほんのり色づいて見えるぞ」
「ロマンティストさんですね」

 俺は真顔を取り繕って、そう言ってやった。それから枝の合間に見える空について考える。

「なんかさぁ、空も晴れてるけど、白いしさぁ」
「確かに雲の割合的に快晴とは言い難いが、こんなものだろう。そもそも、春の空は水蒸気の量で白く見えるといった話も聞いた事がある」
「ふぅん。相変わらず雑学に詳しいな、相馬は」
「はっきり言うが、灯里。お前、さっきから難癖をつけてばかりだな? もう一度聞くが、何が不満だ?」

 ひきつった顔で、相馬が笑った。苛立っているのがよく分かる。俺は別段、不満があるわけではない。灯里創介アカリソウスケというこの名に誓って、不満などない。単純に思った事を言ったまでだ。そりゃあ、不満は探せと言われればいくらだって見いだせる。

「唐揚げが入っていない事だな、簡単に言うと」
「――唐揚げ用に買っておいた鶏肉が冷蔵庫から消えていて、親子丼を食べた形跡があったが、それについての申し開きは?」

 俺は全力で顔を背けた。

「そ、相馬のちらし寿司、初めて食べる! そもそも、お前と花見とか、大学のサークル以来だな! いやぁ、懐かしい!」
「清々しいほどに白々しく話を変えたな」

 相馬が呆れたように吐息をしてから、シートの上に重箱を広げた。見ればそこには、輝く料理が入っていた。俺はめんつゆで鶏肉と卵を似たものを『親子丼』と名付けるタイプだ。きちんと玉ねぎを切ったり、刻んだ海苔をかけて、付け合せの漬物と味噌汁まで用意するタイプの相馬は、お弁当つくりの腕前もさすがである。

 ちなみに相馬と俺は、唯見大学心理学科卒で、料理サークルに入っていたのである。なお、真面目に相馬はサークル活動をしていた。毎日お弁当を作り、サークルメンバーが集まって、同じ講堂で食事をするという活動だ。俺の場合は、サークルを三つ掛け持ちしていて、そのいずれでも『幹事』としてしか活動していなかったので、飲み会の企画・予約・後始末を担当していた。料理に興味は無いし、本当に簡単なものしか作る事が出来ない。

「このだし巻き卵、上手く出来たんだ。食べてみろ」
「うん。でもこの卵、なんか白くないか?」
「焦げないように気を遣ったんだ」

 このようにして、俺達の白いお花見は始まった。

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