天涯孤独になった結果、魔法学園(全寮制男子校)に放り込まれた。

猫宮乾

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―― 第一章 ――

【十】入学式

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「ここに、カルミネート魔法学園の高等部入学式を執り行います」

 司会の教諭の言葉を、席について榛名は耳にしていた。左腕でには、【調律】と書かれた腕章を身につけ、腕にも魔法を無効化する腕輪を嵌めている。席は、調律委員会の専用席だ。隣には烏丸が座っている。対面する位置に、丁度サロン・レグスの専用席が有り、入学生を挟んで向かい側には、政宗が座っている。

 政宗は、榛名が座っている席を見て、当初驚愕した顔をしたが、今は顔を背けて目もあわせようとはしない。

 榛名は先程配布された、右手の薬指に嵌めている銀の指輪を見た。これが簡単な通信魔法の込められたものなのだという。学園内での多くの情報も、ここに自動的に保存されるらしい。たとえば、テストの成績や学食で誰を相手にしたか、何を食べたかといった事柄だという説明は既に受けている。

 入学式が進んだ時、榛名の指輪が赤く光った。これは、在校生からの通報だと、昨日の内に榛名は烏丸からレクチャーを受けていた。ちらりと烏丸が自分を見たので、榛名は頷き返す。

「俺が行ってきます」
「だが君は、このあと調律委員会の委員長としての挨拶が――」
「優先すべきは、挨拶ではないと思いますが?」
「――それもそうだな。では挨拶は代行しておく」

 こうして榛名は立ち上がり、ひっそりと大講堂から出た。そして指輪で位置情報を表示させる。どうやら中庭からの通報らしい。音を立てないように歩いて行くと、声が聞こえてきた。

「僕のゲニウス取ってよ。早く」
「俺のも頼むよ」
「誰からでも貰ってくれるんだろ?」

 そう言って一人の入学生に、三人の在校生が詰め寄っている。今ではネクタイピンに嵌まる宝石の色で学年が分かるのだと、榛名は知っている。状況を見るに、今回はピアニッシモがフォルテッシモの生徒に、魔力を取るよう強制しているらしい。囲まれている新入生は、冷めた顔をしていた。通信元が、新入生だと判断し、榛名が今度はわざと足音を立てて、割って入る。

「なにをしている? 調律委員会だ」
「!」

 すると囲んでいた一人が振り返り、青ざめた。横にいた他の二人は、その瞬間には走り出していた。逃がしてしまうと慌てたが、被害者の保護の方が優先なので、榛名は平静を装う。最後の一人も、地を蹴って走り出したのを見てから、榛名は被害者に歩みよった。

「大丈夫か?」
「う、うん。来てくれて有難う。ええと……見ない顔だけど」
「外部から来た榛名という。新しく調律委員会に入ったんだ」

 榛名はそう挨拶をしてから、被害者の男子生徒を見た。色素の薄い髪をしている。制服は着崩しており、指には指輪がじゃらじゃらと嵌まっている。

「ああ、政宗会長の同じ部屋の人? もしかして」
「そうだ」
「そっかぁ。俺は、宮花透みやはなとおる。透でいいよぉ」
「……宮花。被害は? 大丈夫か?」
「うん。面倒だったから調律委員会を呼んだだけだし」
「そうか。被害がないならよかった」
「……」
「加害者の名前は分かるか?」

 本当によかったと思いながら榛名が続けると、宮花が目を丸くした。

「分かるけどぉ……この程度で呼ぶなとか言わないんだ?」
「ん? 被害に程度などないだろう。無事でなによりだ」
「あれ、本気で俺の事心配してくれてる感じ?」
「? ああ。それが?」

 榛名は首を傾げつつ、宮花は大丈夫そうだと確認した。

「犯人の名前は?」
「あー、別に大事にしたいわけではないからいいよ」
「だが再犯があったら、宮花だって困るだろう?」
「――気分によっては、実際に俺は貰ってたし」
「え?」
「本当に俺の事知らないんだねぇ。ふぅん。真面目だしね」

 宮花はそう言って笑うと、姿勢を正した。榛名と同じくらいの背丈である。

「俺はこれでもサロンで副会長をしているんだよぉ。榛名ももし俺に取って欲しくなったら声をかけてね」
「俺は自分で犯罪を犯すつもりはないし、食事の際といった規定の場でも誰かに供給するような予定はない」
「やっぱりピアニッシモなんだ」
「ん?」
「気配で普通ならすぐに分かるんだけど、榛名のゲニウスは視認しにくいね」

 一人頷いてから、宮花は両頬を持ち上げて笑う。

「そろそろ入学式に行かなきゃ」
「もう終わる頃だが」

 榛名が答えた時、巨大な鐘の音が響き、丁度入学式の終わりを告げた。

「あ、残念。まぁいいかぁ。榛名に会えたしねぇ」
「あまり調律委員会の者と会うのはいいことではないだろう。面倒事に巻き込まれるなどの状態だからな」
「それもそうだね。ところで榛名は、何組?」
「一年一組だ」

 入学式前にクラス分けは張り出されていた。この学園では、一学年に四クラスが存在するが、クラスにより人数はまちまちだ。

「俺と一緒だ。まぁ俺はあんまり講義にはいかないし、それは調律委員会なら講義免除があるから、榛名もそうかもしれないけどねぇ。教室でもよろしく」

 そういうとポンポンと宮花が榛名の肩を叩いた。

「ああ。宜しく頼む」

 榛名が頷くと、笑顔を返して宮花が歩き去った。聴取はどうしたものかと考えつつ、榛名はその背中を見送った。

「……まぁクラスも氏名も分かっているし、いつでも話は聞けるか」

 そう判断し、榛名は一度大講堂に戻ることにした。
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