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―― 序章 ――
【五】簡単な説明
しおりを挟む「つまり、この学園では同性同士の恋愛が普通で、最終的には結婚も認められているという理解で良いのか……?」
「その通りだ。そして榛名。それには寮の部屋が同じだと、より親密になれるという観点から、多くがこの部屋を狙っていた。だがまさか、お前のようになんにも知らない奴が、幸運にもここに来ると……まぁ、どうしても俺の花嫁になりたいというのなら、相手してやらないこともねぇよ」
「結構だ。断る」
「お、俺だってお前みたいな可愛げが無い奴はお断りだ!」
政宗の声に、榛名が大きく頷いた。榛名は、お互い同じ考えだと知り心底安堵していた。
それよりも、今目の前にある情報供給源は、政宗だけである。
分からないことは聞いておかなければならないだろう。
「ところで政宗」
「あ?」
「寮生活を送る上で基礎的な事から聞きたいんだが、食事はどうするんだ?」
「……ったく。なんで俺が説明なんて……」
「知らないのか?」
「そうじゃねぇ! 俺をなんだと思っているのかという話だ。ああ、食事? 自炊か学食だ。学食は常に空いてる。ただし二階席は、サロンと調律委員会の専用席と決まっているから、迂闊に入れば揉めるからな。覚えておけ」
面倒くさそうに政宗が言う。ジュースを飲みながら聞いていた榛名は、小さく首を傾げた。
「サロンというのは?」
「……サロンは、魔法使いの中でも選び抜かれた、身元も確かで血筋も一流の、生粋の魔法使いの出自の者のみが所属を許可される組織だ。サロン・レクス。ここに所属している者は、ただの生徒とは一線を画す」
「具体的には、何をしているんだ?」
漠然とした答えに問い返しながら、榛名がグラスを置く。
「それは……まぁ絶大な権力を誇ると覚えておけばいい。サロンの者に逆らったら、この学園では基本的に生きていけない。その筆頭、会長がこの俺だ。そして、政宗家に逆らえば、魔法使いとして生きていくこと自体が困難だ。その政宗家の跡取りもまたこの俺だ」
「お前はなんだか大変なんだな」
「は?」
「疲れないか? 俺なら絶対にやりたくないことばかりだが。そんな重責を背負いたくない」
素直な感想を榛名が述べると、政宗の目が据わった。
「おい。それは嫌味か?」
「いや、別に」
「榛名。もう一度言う。俺に逆らえば、お前は学園でもやっていけねぇし、卒業しても魔法使いとしての将来なんてない」
「学園は兎も角……俺は別に魔法使いになりたいわけではないしな」
「は? じゃあなんでここに来たんだ?」
「それは……」
さすがにここで祖父の死についてなどを言い出したら、話が重くなってしまうだろうと思い、榛名は口ごもる。それから、話を変える事にした。
「調律委員会というのはなんだ?」
「あ? あんな奴らの話はしたくもねぇな」
「というと?」
「――サロンに唯一口出ししてくる組織だ。本来は、サロン内の俺を含めたフォルテッシモに、一般生徒が不適切に近づかないようにと作られた組織で、転じて学内の規則を守るように指導をしている存在だ。逆に、サロンのメンバーが不適切に一般生徒の中のピアニッシモに魔力供給を強制した場合や、今では一般生徒同士の供給なんかも指導している」
「委員会と言うことは、図書委員会とか保健委員会とか、そういうものか?」
「くくりはそうだ。ただな、調律委員会は、サロンに匹敵する権力を誇っている。学内の自治の関連で、それが許されている」
それを聞いて、榛名は腕を組んだ。
「つまりサロンに逆らっても学園内で許される機関ということか?」
「っ、まぁ、そういう言い方もできるだろうが」
「先程の話と違うな。逆らっても学園で生きていける者達もいるんじゃないか」
「あのなぁ! 人が折角教えてやってるというのに、減らず口をどうにかしろ!」
政宗が声を上げたので、それもそうだと考えて、榛名は頷いた。
「取り急ぎ助かった。あとは掃除と洗濯は?」
「……洗濯は、クローゼットに入れれば魔法で綺麗になる。掃除も部屋全体に魔術がかかっているから、荷物の整理だけだ」
「自炊の場合は、どこで買うんだ?」
「無料の食料雑貨店が校庭の端にある」
面倒くさそうではあったが、政宗は答えてくれた。
「そうか。大体分かった、感謝する。今日は……あとは、なにかあるのか? 予定は」
「無ぇよ。あとは、四月一日まで何もねぇ。一日に高等部入学式があって、その後から通常講義だ」
「クラス分けは?」
「入学式で発表される。初日に入学後試験があるから、勉強でもしていろ。次こそ俺はお前に勝ってやる」
吐き捨てるように言った政宗を見て頷き、榛名は立ち上がった。
「本当に感謝する。じゃあ俺は二度寝する」
「あ?」
「さすがにこの時間に起きるのは眠いからな」
そう言って榛名は寝室へと向かった。そして二つのベッドを見る。右側には荷物があったので、何もない左側に座った時、政宗も入ってきた。
「政宗も二度寝するのか?」
「まぁな」
「――一応言っておくが、これから宜しく頼む」
「最初からそういう態度を心がけろ」
「煩い。人が下手にでれば」
「あ? だからこの俺をなんだと……っ、もういい」
政宗が右のベッドに寝転がる。それを眺めてから、榛名もまた一眠りする事に決めた。
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