上 下
5 / 14
―― 序章 ――

【五】簡単な説明

しおりを挟む

「つまり、この学園では同性同士の恋愛が普通で、最終的には結婚も認められているという理解で良いのか……?」
「その通りだ。そして榛名。それには寮の部屋が同じだと、より親密になれるという観点から、多くがこの部屋を狙っていた。だがまさか、お前のようになんにも知らない奴が、幸運にもここに来ると……まぁ、どうしても俺の花嫁になりたいというのなら、相手してやらないこともねぇよ」
「結構だ。断る」
「お、俺だってお前みたいな可愛げが無い奴はお断りだ!」

 政宗の声に、榛名が大きく頷いた。榛名は、お互い同じ考えだと知り心底安堵していた。
 それよりも、今目の前にある情報供給源は、政宗だけである。
 分からないことは聞いておかなければならないだろう。

「ところで政宗」
「あ?」
「寮生活を送る上で基礎的な事から聞きたいんだが、食事はどうするんだ?」
「……ったく。なんで俺が説明なんて……」
「知らないのか?」
「そうじゃねぇ! 俺をなんだと思っているのかという話だ。ああ、食事? 自炊か学食だ。学食は常に空いてる。ただし二階席は、サロンと調律委員会の専用席と決まっているから、迂闊に入れば揉めるからな。覚えておけ」

 面倒くさそうに政宗が言う。ジュースを飲みながら聞いていた榛名は、小さく首を傾げた。

「サロンというのは?」
「……サロンは、魔法使いの中でも選び抜かれた、身元も確かで血筋も一流の、生粋の魔法使いの出自の者のみが所属を許可される組織だ。サロン・レクス。ここに所属している者は、ただの生徒とは一線を画す」
「具体的には、何をしているんだ?」

 漠然とした答えに問い返しながら、榛名がグラスを置く。

「それは……まぁ絶大な権力を誇ると覚えておけばいい。サロンの者に逆らったら、この学園では基本的に生きていけない。その筆頭、会長がこの俺だ。そして、政宗家に逆らえば、魔法使いとして生きていくこと自体が困難だ。その政宗家の跡取りもまたこの俺だ」
「お前はなんだか大変なんだな」
「は?」
「疲れないか? 俺なら絶対にやりたくないことばかりだが。そんな重責を背負いたくない」

 素直な感想を榛名が述べると、政宗の目が据わった。

「おい。それは嫌味か?」
「いや、別に」
「榛名。もう一度言う。俺に逆らえば、お前は学園でもやっていけねぇし、卒業しても魔法使いとしての将来なんてない」
「学園は兎も角……俺は別に魔法使いになりたいわけではないしな」
「は? じゃあなんでここに来たんだ?」
「それは……」

 さすがにここで祖父の死についてなどを言い出したら、話が重くなってしまうだろうと思い、榛名は口ごもる。それから、話を変える事にした。

「調律委員会というのはなんだ?」
「あ? あんな奴らの話はしたくもねぇな」
「というと?」
「――サロンに唯一口出ししてくる組織だ。本来は、サロン内の俺を含めたフォルテッシモに、一般生徒が不適切に近づかないようにと作られた組織で、転じて学内の規則を守るように指導をしている存在だ。逆に、サロンのメンバーが不適切に一般生徒の中のピアニッシモに魔力供給を強制した場合や、今では一般生徒同士の供給なんかも指導している」
「委員会と言うことは、図書委員会とか保健委員会とか、そういうものか?」
「くくりはそうだ。ただな、調律委員会は、サロンに匹敵する権力を誇っている。学内の自治の関連で、それが許されている」

 それを聞いて、榛名は腕を組んだ。

「つまりサロンに逆らっても学園内で許される機関ということか?」
「っ、まぁ、そういう言い方もできるだろうが」
「先程の話と違うな。逆らっても学園で生きていける者達もいるんじゃないか」
「あのなぁ! 人が折角教えてやってるというのに、減らず口をどうにかしろ!」

 政宗が声を上げたので、それもそうだと考えて、榛名は頷いた。

「取り急ぎ助かった。あとは掃除と洗濯は?」
「……洗濯は、クローゼットに入れれば魔法で綺麗になる。掃除も部屋全体に魔術がかかっているから、荷物の整理だけだ」
「自炊の場合は、どこで買うんだ?」
「無料の食料雑貨店が校庭の端にある」

 面倒くさそうではあったが、政宗は答えてくれた。

「そうか。大体分かった、感謝する。今日は……あとは、なにかあるのか? 予定は」
「無ぇよ。あとは、四月一日まで何もねぇ。一日に高等部入学式があって、その後から通常講義だ」
「クラス分けは?」
「入学式で発表される。初日に入学後試験があるから、勉強でもしていろ。次こそ俺はお前に勝ってやる」

 吐き捨てるように言った政宗を見て頷き、榛名は立ち上がった。

「本当に感謝する。じゃあ俺は二度寝する」
「あ?」
「さすがにこの時間に起きるのは眠いからな」

 そう言って榛名は寝室へと向かった。そして二つのベッドを見る。右側には荷物があったので、何もない左側に座った時、政宗も入ってきた。

「政宗も二度寝するのか?」
「まぁな」
「――一応言っておくが、これから宜しく頼む」
「最初からそういう態度を心がけろ」
「煩い。人が下手にでれば」
「あ? だからこの俺をなんだと……っ、もういい」

 政宗が右のベッドに寝転がる。それを眺めてから、榛名もまた一眠りする事に決めた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

生徒会長親衛隊長を辞めたい!

佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。 その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。 しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生 面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語! 嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。 一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。 *王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。 素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

処理中です...