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【五十七】樹の神の力Ⅱ
しおりを挟む「最近世間では、二つのお伽噺が人気だそうだ」
「お伽噺?」
「一つは、昔から大人気の、死神の話だ。黒薔薇の紋章を肌に刻んだ死神が、神の力が宿る王族達を根絶やしにしていき、魔王の妃となる悪役譚だ」
「……そうか」
「そしてもう一つ。最近生まれたお伽噺だ。お前の子孫が広めたのだろうな」
「え?」
「――攫われ、囚われの身となり、子を孕ませられた悲劇の王子と、攫ったはずが心を最後には奪われた魔王の話だという。既に魔王討伐劇から十数年が経過しているからな。魔王を別の観点から捉える物書きも現れたようだ」
「酷い冗談だな。俺が、魔王の心を奪ったなどという法螺話は、死神の物語より先に消えて欲しい」
短く俺が吹き出すと、エガルが首を捻った。
「案外的を射ているのかもしれない。お前には辛い日々だったのだろうが、周囲から見ると、幸せもあったのでは無いかと考えさせられた」
「だから、俺は辛いだけじゃ無く、確かに幸せで――」
「ならばその幸せの記憶を、お前以外も目撃していたという事だ。良かったな」
思わず息を呑む。いつか、俺を抱きしめてくれた魔王の腕の温もりが、甦ってきた気がした。
――俺は、それが嫌では無い。
「なぁ、エガル」
「なんだ?」
「とても幸せだと気づかされた。だから、黄泉の国に行こうと思うんだ」
「だから魔王の復活などやめておけと――」
「いいや、そうじゃない。俺を殺してくれ」
もう、俺は満足だ。ただ、今では愛おしいと思えるようになった相手のそばで、過ごしたい。幸せを知った今だからこそ、悔いはない。やっと、臆病な心から、俺は解放されるようだ。
驚いた顔をした後、すいとエガルが視線を逸らした。
「断る」
「友情を感じてくれているのならば――」
「違う。お前に害をなせば、死神の力で俺まで黄泉の国に行く羽目になるかもしれない」
「もう呪いなどないし、そんなお伽噺は……」
「まだ気づいていないのか? 結局の所、お前自身が全ての手を下しているに等しいんだぞ」
「……え?」
「お前は、樹の神の力を生まれながらに持っている。樹の神の力の本質は、脳の支配だ。お前が放っている魔力を感知し、お前に害なした者を屠るのに最適な存在が選び出され、そしてお前を救出しては、敵を滅ぼしている」
初め、俺は何を言われているのか、理解出来なかった。
「――それじゃあまるで、俺が魔王を殺めたみたいに……」
「結果だけ見れば、そうなるな」
「違う、俺は本当に魔王を愛して――」
「お前が愛そうとも、樹の神の愛は及ばなかったのだろうな」
嘆息したエガルを見たまま、俺は暫しの間硬直していた。
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