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【五十一】陥落Ⅲ
しおりを挟む何か囁かれたが、俺は理解出来ない。ただ泣いていた。
魔王がべろりと俺の首筋を舐める。そして噛みついては、強く吸い付いてくる。
「背中に散った傷も、花のようで良いな。もっと鞭うってやろうな。今度。期待していると良い」
「あ……あ……もっと打って、お願い、打って」
「そうだ。正解の言葉を覚えてきたらしいな」
「ベリアス様の好きにしてくれ、俺を、好きにして」
「ああ。よく分かっているじゃないか」
「だから動いて、動いてぇ、も、もうだめであ、いやああああ」
中だけで俺は果てた。白液は出ない。衝撃で目を見開くと、ボロボロと涙が落ちていった。全身を快楽の漣が襲っている。怖い。また、クる。
「あああああああああああああああ!」
直後、ぐりと最奥を刺激され、俺は気絶した。
目が覚めた時、俺はバシンという音を耳にした。背中が痛む。ああ、俺はまた、打たれている。それが、気持ち良い。
「見ろ。お前の痴態が、鏡に映っているぞ」
鞭打たれる度に放つ俺の姿が、確かに正面の大きな鏡に映っている。
涙でドロドロの俺の顔は、蕩けきっていた。
「愛おしいといえば、愛おしいんだ。健気に俺を追いかけてきて、黄泉の国から解放してくれたのは、紛れもなくお前だからな」
「う……あ、ア……もっと、もっとぉ……ああ、叩いて、お願い、あ、あ」
「もうじき、人の国の征服が終わる。そうしたら、きちんと俺の妃にしてやろうか?」
「ああ……ぁ……あ……あア」
鞭打つのをやめた魔王が、ゆっくりと俺に屹立を挿入した。その切ない感覚に、俺は震える。もどかしい。中は満杯だが、連日の行為で、俺の体は解けきっている。
「嬉しいだろう? 喜べ」
「あ……ああ……俺、は……ベリアス様の、お妃様、う……あ」
「そうだ。お前ほど汚れた体の人間を、俺以外の誰が愛してやるんだろうな?」
魔王が『愛』と述べた瞬間、黒薔薇の刻印から熱が広がった。
「随分と俺に愛されたいようだな」
「あああ……俺、もう、嫌だ。辛いのは、一人は嫌だ、お願い、あ」
「――心を堕とすのは、少しは面白いかと思ったが、意外と簡単でつまらないな」
「ベリアス様、あ、好き、大好き、愛してる」
何度も言うようにと記憶させてた言葉を、無意識に俺は紡いでいた。本心であるはずがないのに、繰り返していると不思議とそれが真実のように思えてくる。
「そんなに俺が好きか?」
「好き、あ、だから、あ、早く、動いて。突いて、もっとめちゃめちゃにして。俺の体、もうダメだから、あ、あ……」
「そうだな。お前のような雌に堕ちた淫乱など、俺以外もう食指も動かんだろう。いいな? 今後は俺の部下を誘惑するなよ? 破ったら、捨てるからな」
「いや、捨てないで。お願い、ずっとそばにいて」
「可愛い事も言えるようになったんだな。ああ、馬鹿な子ほど可愛いというのは真理だな」
嘲笑いながら、魔王が律動を開始した。すぐに俺は、快楽に飲み込まれた。
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