黒薔薇の刻印

猫宮乾

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【三十九】喪失と血脈Ⅱ

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 ――俺が、牢獄から出されたのは、冬の事だった。
 満足に歩けない俺を、深刻そうな顔で、文官が連れ出したのだ。連れて行かれた先で、俺は目を見開いた。ミネスの首が、落ちていたからだ。玉座には、座ったままのユーガ殿下の遺体がある。

「これ、は……」
「敗戦しました」
「敗戦……?」
「統一帝国は、乗っ取られました。これまで海底に隠れていた水の国が、攻めてきたのです。あっさりと皆、殺されましたよ。水の国が、残っている我々の命を保障する代わりに、貴方の身柄を引き渡すようにと要求してきました」
「どうして、俺を……?」
「さぁ? 神産みをさせるつもりなのでは?」

 ああ、また絶望的な日々が始まるのかと思ったが、どうせ今と変化はあまりないからと、俺は小さく頷いた。そこにコツコツと靴音が響いてきたから、そちらを見る。青い装束を纏った騎士達が、そのまま俺を取り囲んだ。

「確かに青の魔力の痕跡があるな」
「それはそうだ。樹の国に嫁がれた王女殿下のご子息なのだから」
「今となっては、唯一――水の神の力を持つお方だ」
「だが、ご本人には樹の神の力が宿っているのだろう?」
「そうであっても、水の神の力を宿す器にはなれるだろう。儀式をし、水の神の力を満ちさせれば良い。無能力の弟よりはマシだろう」
「言い方が失礼だ。今後、ネルス殿下は、わが国のたった一人の国王陛下となられるんだぞ?」
「ああ、そうだったな。しかし――随分と汚されていると聞く」
「それは今確かめても問題ないか」

 騎士達はそう言うと、床に俺を引き倒した。どうせ待ち受けている未来は、これまでと変わらないのだ。俺は服を引き裂かれながら、震えていた。

「何をしている」

 そこに凜とした声がかかった。ゆっくりとそちらを俺が見た時、焦ったように周囲が姿勢を正した。入ってきた青年は、俺に歩み寄ると、ゆっくりと抱き起こしてくれた。そして羽織っていた外套を俺にかけた。

「ネルス陛下に、今後手出しは許さない。それは、特定の人間の特権となる」

 厳しい声を聞いた周囲が、顔面蒼白になりながら頷いている。俺は上手く働かない思考のまま、その光景を見ていた。赤い髪をしたその人物は、ゴツゴツした手で、俺を抱き上げた。肩幅が広い。筋肉質で長身のその青年を、俺はぼんやりと見ていた。

 その後俺は、魔法陣に乗せられた。簡易設置型の魔導具で出来た品だった。
 そして光に飲まれ、次に目を開けた時には、窓の外に水中が見える宮殿にいた。

「申し遅れましたな。俺はガイルと言います」
「……そうですか」
「今後は俺が、貴方をお守り致します。この名に誓って忠誠を」
「忠誠……? それは、何ですか?」
「? 何って……尽くすという事でしょうかね。何だろうな、改めてそう言われると。決まり文句みてぇなもんだからな。ああ、悪い。俺は平民からのたたき上げだから、気をつけないと口調が崩れるんですよ」
「……」
「さ。それより行きましょう。みんな、ご帰還を楽しみにしていたんだ」

 俺を改めて抱き上げ、ガイルが歩き始めた。そうして連れて行かれたのは、玉座がある大きな部屋だった。狼狽えた俺を、ガイルが玉座に運んだ。事態が分からず困惑していると、歩み寄ってきた文官らしき人物が、俺の頭に王冠を載せた。

 呆然としていると、数分してから、その部屋にずらりと人が並んだ。
 俺の右側にはガイルが、左側には俺に王冠をかぶせ、宰相のルアと名乗った壮年の男が立った。

「無事のご帰還何よりです、陛下」
「陛下?」
「ええ。貴方は陛下だ。ここにいる者達は、皆貴方の婿となる者です」
「婿って……俺は男だ」
「水の国には、男しか存在しません。そのため、妊娠させる秘薬が存在します」
「――え?」
「水の国では、卵の形で人が生まれます。当初は、人魚の姿となりますが。成長すれば、人の形を象れる」
「……?」
「貴方には人魚の神の血を引く神子を、沢山孕んで貰わなければならないのです。水の神の血脈が失われないように」

 その宣告を上手く理解出来ないでいると、ガイルが吹き出した。
 ――こうして、俺の新たな恥辱まみれの日々が幕を開ける事となった。



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