黒薔薇の刻印

猫宮乾

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【三十八】喪失と血脈Ⅰ

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 その後の丸二年、俺は数多の兵器を生み出した。樹に絡め取られる事にも慣れてしまった。二十三歳になった俺のもとに、二次性徴を終えたミネスがやってきたのは、ある秋の日の事だった。

「もう言葉も失ったようですね」
「……」
「思考は出来ているらしいですが、ああ、復讐をユーガ殿下にお願いして本当に良かった」
「……」
「兄上が孕んだ兵器の数々が、風の国と火の国を滅ぼしましたよ。もうすぐ大陸に、地の国を要とした統一国家が生まれます。少しは役に立ちましたね」
「……」
「もう兄上は用済みだ。昨日、ユーガ殿下は、兄上の魔力を完全に吸い取ったと言っていたから、今後は孕む事も無い。残りの一生、どうやって苦しめたものか」

 ミネスは、俺を恨み続けているようだった。当然なのだろう、それが。

「とりあえずは、逃げられないように、足を奪わせてもらいますよ」
「ひ、あ――ああああああ!」

 拘束されていた俺の足首を持ったミネスが、短剣で切りつけてきた。筋を切られたのだと理解し、痛みから絶叫する。

「これで兄上は、もう走る事はおろか、歩く事にも困難が付きまとう」

 愉悦塗れの表情で、手についた血を、ミネスは舐めていた。俺は号泣しながら、暫し痛みに飲まれていた。

 無論手当はされなかった。傷が塞がるまでの間、何度も膿み、足は熱を持った。その内に、化膿から俺が熱を出した時、漸く魔法薬を塗られた。すると傷は残ったが、体調は元に戻った。けれど俺は――上手く歩けなくなった。

 そして、牢獄に放り込まれた。鉄格子の前で、王宮に訪れた貴族達が俺を見物し、時に抱いていくようになった。足が動かないから、拘束されていなくても逃げられない。今は後ろから両腕を羽交い締めにされ、正面からはぶよぶよした短い陰茎で貫かれている。

「う、ぁ……あ」
「王子様の末路も悲惨だなぁ」
「ああ、こんな淫乱な体にされちまうんだからな」

 ニタニタ笑いながら、貴族が俺の体に白液を放ったりかけたりする。それすらも、絶望的な事に気持ちが良い。

「ひゃッ、あ」

 弱っている傷を負った右足首を掴まれ、俺は泣き叫んだ。怖い。触れられるだけで、敏感な傷跡が疼くからだ。今度はそのまま四つん這いにされ、腰をもたれて挿入された。顔には別の人間が、白液をぶちまけてきた。全身がドロドロにされていく。

 そんな日々の連なりの中、俺は胸が痛むようになった。
 黒薔薇の刻印から、強い痛みが放たれているのだと気づいたのは、久方ぶりにユーガ殿下が、ミネスと連れだってやってきた時だった。

「ほら、痛がっているだろう?」
「有難うございます、ユーガ様」
「いいや。可愛い正妃の頼みだからな」

 二人のやりとりに、虚ろな瞳を向けると、双方満面の笑みだった。二人の指には、お揃いの指輪が輝いていた。

「僕、統一帝国の正妃になる事が決まったんですよ。同性婚制度が整備されているんです。一見政略的なものですが、僕とユーガ様の間には、愛があるんですよ。兄上に与えられた偽りのものとは異なる、本物の愛が。ユーガ様は、僕を愛してくれます」
「当然だ。ミネスは俺の愛しい相手だからな」

 ユーガ殿下が、ミネスの腰を抱いている。少し垂れ目のミネスの表情は明るい。
 ――ああ。俺には、永遠に与えられないものだ。
 いつか、俺はユーガ殿下の隣に、永劫立つ未来を夢想した。だが、それはミネスのものだったのだ。ミネスが羨ましい。いいや、こんな思いすら、浅ましいのだろう。

 去って行く二人の足音を聞きながら、俺はぼんやりとしていた。

 皆、俺を貪った。だが、俺に愛をくれた者はいない。その感情の存在を教えたユーガ殿下は、残酷だ。知らなければ、こんなに惨めにはならなかっただろう。黒薔薇から響いてくる痛みよりも、心が痛かった。



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