黒薔薇の刻印

猫宮乾

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【三十三】残酷な優しさⅡ

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 ――それから、一ヶ月近く、そんな生活をしていた。辛かった日々が、塗り替えられていく。だが、何度も悪夢を見た。深夜に俺が飛び起きると、ユーガ殿下もまた目を覚ます。そして俺を抱きしめ、泣く俺の涙を拭い、大丈夫だと言ってくれた。

 どんどん、ユーガ殿下の事以外考えられなくなっていく。
 そんなある日の事だった。
 この日、俺は帰ってきた殿下を、うっとりと見つめていた。最近、ユーガ殿下を見ると、胸が疼くように変わったのだ。ユーガ殿下に触れられると、鼓動が煩くなる。このような感覚は人生で初めてで、俺は自分の気持ちに戸惑っていた。

「――感情の色が、淡い桜色に変わっているな」

 俺を抱きしめ、額にキスをしてから、優しい声でユーガ殿下が言った。それがどういう意味なのか分からないでいると、指先で唇をなぞられた。

「ここに、キスをしても良いか?」
「……ああ。俺も……その……」

 満月が近づいていた。殿下に抱きしめられて眠ると、不思議と熱は酷くならないのだが、それでも今日は体が熱い。恐らく殿下は、地の国の砂の魔術で、俺の熱を制御してくれているのだとは思う。だが、俺は無性にユーガ殿下の体温に触れてみたくなっていた。

「ン」

 ユーガ殿下が俺の唇に、触れるだけのキスをした。目を伏せてそれを受け入れていると、舌で唇を舐められた。薄らと唇を開けると、口腔に舌が差し込まれる。舌を舌で絡め取られ、追い詰められる。すると、ジンと俺の体の奥が疼いた。キスが終わる頃には力が抜けてしまい、俺は殿下の胸元を掴んで倒れ込んだ。

「愛のある性交渉は、初めてのようだな」
「愛……? それは、その……ユーガ殿下は、俺を愛してくれるのか?」
「ああ、もうずっとな。最初に会った時から、予感はしていたが、今ではネルス殿下の事ばかり考えている」

 俺の顎の下を撫でるようにしてから、不意にユーガ殿下が俺を抱き上げた。慌てて首にしがみつくと、そのまま寝室へと連れて行かれた。そして優しく下ろされ、頬に触れられた。

「ネルス殿下も、俺の事を好きになってくれたみたいだな」
「っ、俺も、ずっと……」
「好きの種類が変わったから、感情の色も変化したんだ。俺には分かるんだよ」
「……」

 気恥ずかしい。何故なのか、俺の頬が熱くなった。瞳が潤んでくる。

「ネルス、貴方が欲しい。抱きたい」
「俺も、ユーガ殿下が欲しい」

 はしたない言葉を口にしていると、罵られる事を覚悟した。だが、言葉があふれ出てしまった。そしてユーガ殿下は、俺を糾弾したりはしなかった。静かに寝台に上がると、己の首元を緩めてから、俺の服に手をかけた。優しくリボンを解かれ、シャツを脱がされる。


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