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【十二】切り開こうとしたのかもしれないⅡ
しおりを挟む迷わず俺は、冒険者ギルドの扉を叩いた。
そして中へと入り、カウンターへと向かう。奥にいた老人が顔を上げた。
「ここは貴族のお坊ちゃまが来る場所じゃねぇぞ?」
「――服だけ借り受けているだけだ。俺は貴族じゃない。登録を頼む」
「ほう。ま、冒険者志望者を断る事はせんよ。それが公平なギルドだからな」
その場で俺は、カウンターの上の魔法石の上に手をかざした。すると手の甲に、魔法陣が刻まれた。青い光を放っている。
「こりゃすげぇ。魔力量が、最高値だ。お前さん、魔術師かい?」
「魔術はあまり使えない。きちんと習ってはいないんだ。剣士だ」
「剣士のわりには、綺麗な手だがねぇ。もったいねぇな。魔術師に師事したらどうだ?」
「あてがない」
「ま、冒険者稼業の成績をみて、将来有望そうだと判断したら、紹介してやるよ。最後に名前を登録すれば、戸籍登録も完了だ。お前さん、名前は?」
「ネルスだ」
「ありがちな名前だな。名字はどうする?」
「……必要なのか?」
「いんや。無くとも構わんさ」
こうして、俺の戸籍証が完成した。小さく透明な魔力のこもるカードを受け取り、俺はそれをポケットに入れる。鎖がついていたので、ベルトの穴に止めた。
――これが、俺が初めて人を殺めた日であり、新たなる出発の日となった。
その日は、冒険者ギルドの二階の部屋を借りた。依頼料の前借りが可能だったのだ。明日からは、俺は冒険者として生きていく。もう、過去は振り返らない。そう、確かに思った時だった。ドクンと、黒薔薇の刻印が俺の胸で疼いた。
「ぁ……」
じわりじわりと熱が広がり始める。
「嘘だろ……嘘だ……あああ」
体が熱い。俺は涙ぐんだ。欲しい。貫かれたい。だが、ダメだ。俺はもう、あの生活からは抜け出すのだ。震える体を両腕で抱きしめて、その夜俺は、必死で熱に耐えた。
しかし朝になると、より熱が酷くなった。それでも体を引きずって、俺は一階に降り、依頼書がはり付けられている壁の前に立った。賞金首の魔導写真や、魔獣討伐の仕事、果ては草むしりまで、雑多な依頼が並んでいる。俺に出来そうな依頼を探した。
すると商人の旅の護衛依頼があった。冒険者ギルドは、その時々の土地に存在しているから、旅に付き添った後は、新しい土地の店に行けば良い。行き先は、風の国。火の国から出る好機だ。俺は依頼書を手に、カウンターへと向かった。するとパイプをふかしていた老人が、頷いた。こうしてその日の午後、俺は商人と引き合わせられた。
頭に布を巻いている青年は、冒険者ギルドに入ってきて俺を見ると、腕を組んだ。
「こりゃあまた、美人さんだな。もうちょっとしたら、男前になりそうな」
「――ネルスと言う」
「ラッセルだ。よろしくな」
このようにして、俺の旅は始まった。
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