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―― 第四章 ――
【第三十三話】復古機
しおりを挟む格納庫で復古期D-001から降りてきた保と入れ違いに、パイロットスーツを着用して昼斗は人型戦略機へと搭乗した。ハッチを越え、コクピットに入り、座席に腰を下ろす。シートベルトはついている。元々存在していなかったのは、第一世代機だけらしいから、ここは良い部分を採用しているのだろうと、昼斗は考えた。
第二世代・第三世代機の長所は、誰でも動かしやすいという点だと聞いた事があった。パイロットの育成は進んでいるが、第一世代機とは異なり、万が一の場合には、誰でも動かせる人型戦略機の開発が急がれている。
昼斗の繰る人型戦略機よりも、内装が機械的だった。左手にある操縦桿も、レバー形式ではなくタッチパネルだ。右手にある球体は、第一世代機と変わらないようにも見えるが、金の装飾で縁取りがなされていて、ひび割れた品を修繕したものらしいと分かる。自然とそちらに、昼斗は手を伸ばした。
《浮気か?》
すると声が響いてきた。
「へ?」
AI言語プログラムだと判断するも、意味が不明瞭だ。いつもそうだともいえるが。ただ通常響いてくる声音とは違い、今回聞こえてきた声音は、男性のものではなく、少年のものに聞こえた。
《お前は、エノシガイオスのパイロットだろう?》
それはそうだが、この機体だって、エノシガイオス・シリーズだ。
昼斗は腕を組む。
「そうだが、では、この機体はなんだと言うんだ?」
自然とそう尋ねていた。
《我々ラムダの秘宝の残滓を融合させて生み出された新機体だ。本物の秘宝で稼働する唯一の機体は、既に一機しかないと、我々の集合知は結論を出しているぞ》
少年の声が響いてくる。時折、人型戦略機の〝声〟は、昼斗に、〝ラムダ〟や〝秘宝〟の話をするが、機械の名称なのだろうと判断している昼斗は、深く考えた事は無い。
《今となっては、その一機のみが、エノシガイオスだ。つまり、お前のバディだ。残滓とはいえ他の秘宝に触れたら、エノシガイオスは気を悪くするぞ。少なくとも我々は、己のバディが他の存在に触れたらいい気がしない》
人型戦略機のAIにも独占欲があるのだろうかと考えながら、昼斗は首を捻る。
「俺は、この機体が動くか試すために、搭乗したんだ。勿論、俺でなく、本来は円城保パイロットが起動テスト後、稼働させる予定だ。保に動かせれば、以後俺が、ここに来る事は無いぞ」
淡々と昼斗が答えると、一瞬の間、少年の声が沈黙した。
それから、少し楽しげな声に変化した。
《タモツとはどれだ?》
その言葉に、昼斗は機体の手が動くイメージを構築し、復古機の手を操作して、フロアにいる保を指し示した。
《承知した。では、きちんと残滓である我々に触れるように伝えておけ。動力源は、カードキーではなく、この球体だと教えると良いだろう》
そんなものは常識だろうと思いながらも、昼斗は頷いた。
こうして再度球体に触れて電源を落とし、暗くなったコクピットから、ハッチへと向かい、外に梯子で降りる。するとそこには、呆気にとられたような顔をしている環と保の姿があった。走り寄ってきた保が声を上げる。
「ど、どうやって動かしたんだ?」
「――カードキーではなく、球体を触ってみたらどうだ?」
「へ? オブジェを触ると何かいい事があるのか?」
「さぁ?」
オブジェではなくあれがエンジンの鍵なのだと昼斗は考えていたが、世代によって内部構造は違うから、機体に言われた通りに伝えるにとどめた。
「と、とにかく! 三月指令に報告してくる!」
そのままバタバタと、隣からは環が走り去ったので、その場には保と昼斗が残された。昼斗からすれば、逆に何故これまで起動しなかったのが、本当に分からなかった。
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