上 下
32 / 67
―― 第四章 ――

【第三十二話】復帰

しおりを挟む

 三日間の休暇が終わり、昼斗は通常任務に復帰した。休暇中はずっと昴に甘やかされていたから、久しぶりに基地のエレベーターに乗った時には、意識して気を引き締めなければならなかった。隣に立つ昴の存在が、じわりじわりと心を侵食してくるから、冷静になろうと幾度も試みて、けれどその度に改めて視界に捉えては、煩くなる胸の動悸に苛まれた。

「じゃあ、また後でね」

 本日も司令官室に行くのだという昴は、エレベーターを降りる間際に、昼斗の唇に触れるだけのキスをした。見送ってから、扉が閉まるのを見ていた昼斗は、片手で唇を覆い、暫しの間赤面していた。

 こうして久方ぶりに向かった訓練フロアで、まずは筋力トレーニングをした。
 すると環が顔を出した。

「昼斗、もう大丈夫なのか?」

 年下の研究者の声に、静かに昼斗が頷く。それを見て笑顔を浮かべた環は、白衣のポケットに両手を入れると、深々と嘆息した。

「実は、A-001シリーズ……第一世代オリジナル機の復古計画があるだろ?」

 切り出した環は、ポケットから栄養ドリンクの瓶を一本取り出し、昼斗に差し出した。受け取りながら、昼斗は頷く。すると環が続けた。

「回収したA-002からA-011の機体の一部を繋ぎ合わせて、欠落している部品は、第二世代と第三世代機のを組み合わせて、どうにかオリジナルを復元できないかと頑張ってるところで、元々は他国の基地が主導だったんだけどな、今回この北関東基地で稼働実験をする事になったんだよ」

 話だけは聞いた事のあった昼斗は、瓶の蓋を捻りながら頷く。

「というのも、他の基地じゃ、ピクリとも動かなかったからなんだよ。今、保が起動テストをしてるけど……今のところ、北関東基地でも起動しない。なぁ、昼斗? 第一世代機は適性パイロットじゃないと動かせないだろ? でも、保は適性が確認されてるのに動かないんだ。遺伝子レベルでコーディネートされてて適性が更にあるはずの瀬是でも動かない。何か、コツみたいなのってあるのか?」

 困ったような環の声を聴き、栄養ドリンクを飲みながら、昼斗は思案した。己の場合は、本当に偶発的にパイロットになってしまっただけであるから、コツと言われても分からない。操作技法の訓練は、それこそ自分以外の人々の方が幼少時より専門的に受けている事も理解している。

「俺には分からない」
「うーん……試しに乗ってみてくれないか?」
「ああ、それは構わないけどな」

 こうして二人は、格納庫へと向かう事になった。



しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に味見されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...