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―― 第三章 ――

【第二十話】翌朝

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 昴と体を重ねてしまった。翌朝目を開けた昼斗は、上半身を起こしたまま、暫くの間、漂ってくる味噌汁の匂いに戸惑っていた。既に隣には、昴の姿がない。夜中に一度目を覚ました時にはあったが、きっと本日も朝食の用意をしてくれているのだろう。

 そう判断してベッドから降り、綺麗になっている体を確認する。
 昴が処理をしてくれたのだと悟り、また一度赤面した。
 ビクビクしながらリビングへと通じるドアを抜け、それから何気なくチェストの上を見る。そこには、唯一引越しに際して持ってきたと言える私物、光莉と二人で撮影した写真がある。写真立ての中の若かりし頃の己と光莉のそれぞれを見て、それから強く考えた。合わせる顔がない。

「義兄さん、起きたの?」
「あ、ああ……」
「よかった。丁度起こそうと思ってたんだよ。ハムエッグが出来たところなんだ」

 いつも通りの昴の声に、反射的に返事をしてから、恐る恐る昼斗はダイニングへと顔を出した。そこでは黒いエプロンをつけた昴が、皿を並べていた。いつも通りにしか見えない。昨夜の事が嘘のようだ。

「座って」
「……ああ」

 二人で食卓に、向かい合って座る。そして昼斗が両手を合わせると、頬杖を突いた昴がそれを見て微笑んだ。

「腰は大丈夫?」
「腰?」
「ああ、大丈夫そうだね。無理をさせたかと思ったんだけど」
「……っ、あ……」

 意味に気づいて、瞬時に昼斗が赤面する。それから顔を背け、誤魔化すように昼斗は味噌汁のお椀を手に取った。本日の具材は、豆腐とネギだ。

「美味しい?」
「……ちょっと熱い」
「義兄さんってグルメだよね?」

 昴が呆れたように笑った。なお、昼斗は食事をこれまでに、一度も残した事は無い。
 この日も食後は、二人で基地へと向かった。
 助手席の窓から外を見ながら、昼斗は運転席の昴の存在を、終始意識していた。昴はいつも通りだが、本当に普通と変わらない様子で、昨夜の情事についても口に出す。だからいちいち昼斗だけが照れていた。普段、あまり表情を変えない昼斗だが、基地につく頃には泣きそうになっていた。

「さ、今日も一日頑張りますか」

 停車後、二人でエレベーターに乗ると、昴が述べた。
 昴は基本的には、煙道三月司令官室にいるか、昼斗の訓練を見学するなどしている。情報将校としての仕事と、監視の任務なのだろうが、前者については、昼斗は詳しい事をほとんど知らなかった。

「今日は三月のところに詰めているから、昼食の時に一度合流しよう。午後も俺は司令官室にいるから、義兄さんは訓練、頑張ってね?」
「ああ」
「じゃあ、またあとで」

 こうして次にエレベーターが開いた時に、一度二人は別れた。

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