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―― 第二章 ――
【第十四話】休日の朝
しおりを挟む「……ん」
この朝も目を覚ました昼斗は、ぼんやりとしたままで自分の体に回っている二本の腕を見た。
「……」
そこには自分とは異なる体温があって、同時に硬さを意識した。まだぼんやりとしている視線だけを動かすと、そこには目を伏せている昴の顔がある。整っている伏せられた双眸には、薄茶色の睫毛が並んでいる。
「っ」
漸く昼斗は状況を認識した。昴に抱きしめられている。昴は昼斗を両腕で閉じ込めるようにして、すやすやと眠っている。昴の方が体格はよいが、だからと言って昼斗が平均より小柄というわけでもない。そんな成人男性としては平均的な昼斗の体を、昴は幼子にするように抱きしめている。それを自覚した途端、思わず昼斗は赤面した。
昴は寝ぼけているのだろうか。気恥ずかしいから離してほしい。そう感じていたが、起こすのも可哀想に思える。いつも昴は昼斗よりも早く起床し、食事の用意をしてくれたから、このように朝寝顔を見るのは初めての事だ。疲れているのだろうか。
視線を揺らしてベッドサイドの時計を見た昼斗は、既に時刻が八時を過ぎているのを確認する。このままでは遅刻してしまうかもしれない。
「す、昴……」
昼斗は意を決して、声をかけた。すると昴の両腕に、さらに力がこもった。
「朝だぞ、起きろ」
「……ん、うん」
「昴、起きろ」
「……煩いな」
ぼそりと昴が言った。閉じられた目は開かない。昴は昼斗を抱き寄せると、体の位置を変えて、さらにじっくりと眠る体勢に入った。昼斗はその腕の中で硬直している。こういう状況になると、時計の秒針の音が、いやに耳につく。一人困惑しながら照れつつ、昼斗は動けないままで、昴の腕の中にいた。思いのほか昴の力が強くて、腕から抜け出せそうにもない。
「昴……」
「……? ん、ああ……なに? 朝?」
それから少しして、やっと昴が目を開けた。両眼を細くして、昴は暫くの間、ぼんやりと腕の中にいる昼斗を見ていた。必死で昼斗は、首を縦に動かす。
「早く起きないと、遅刻する」
「今日は俺の記憶だと、土曜日だけどね」
「あ……」
「お休みだし、まだ眠いよ。もう少し眠ろう」
「えっ」
昴が再び目を閉じた。両腕はそのままだ。唇を半分ほど開けた状態で、昼斗は気恥ずかしさから朱くなっている頬の熱に耐える。
そのままそれから一時間ほどの間、昼斗は何も言えずに昴の抱き枕になっていたのだった。
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