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―― 本編 ――

【020】約束(★)

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「本当に砂月の料理は美味だ。砂月がそばにいてくれると味以上に心が満ちる上に、俺の事を想って作ってくれたと思うと感無量だ」

 食後ソファに並んで座っていると、静森が砂月の肩を抱き寄せた。そっと頭を静森に預けた砂月は照れくさくなりながら頬を染める。

「静森くんは褒めるの上手すぎ」
「俺は本心を告げているまでだ」

 優しい声ながらも静森が断言する。なんだかんだで芯が感じられ、押しにも強いようだと既に分かっている静森の声に、砂月はいちいち胸を掴まれてしまう。

「そうだ。これはギルメンがくれたんだ。結婚祝いだそうだ」

 静森がその時、紙袋を取り出した。それを見て、砂月は目を丸くする。

「わぁ……あ! ハンカチだ」
「ああ。おそろいの品を作ってくれたそうだ」
「嬉しいね。お返ししないと」
「そうだな」

 満面の笑みに変わった砂月を、優しい顔で静森が見ている。

「お返しなにがいいかなぁ?」
「よい友人でもあるんだ、彼女は。頼りになるギルドのサブマスで、剣士だ」
「ふぅん。それなら手を酷使するだろうし、ハンドクーラーになる冷たい魔法石とかどうかな? 生産で作れるし。それとも装飾スキルもあげてるかな?」
「多分あげていないし、よい案だな」

 こうしてその後は、二人であれやこれやとデザインについて話し合った。砂月は、ふと【Lark】のサブマスは剣士ではないはずだと思い、午前中の自分の考えが間違っていたようだと気がついた。

 そんなやりとりをして一段落した時、静森が言った。

「それはそうと、来週は会いに来られないんだ。代わりに落ち着き次第再来週は、泊まりがけでこられる日を作りたい」
「そうなんだ。寂しいけど待ってるね」
「ああ。それと今すぐにというわけにはいかないんだが、やはり将来的には砂月にも俺の家へ来て欲しいんだ。考えておいてくれないか?」

 静森が砂月を覗きこむように見る。
 こくりと小さく砂月が頷くと、微笑して静森が砂月に触れるだけのキスをした。

 その後二人は寝室へと移動した。

 静森が砂月の服を乱し、正面から寝台へと押し倒す。砂月は静森の首に腕を回してキスをねだりながら、嬉しそうに微笑している。何度も唇を重ねながら互いに服を脱いだ後、二人の情事が始まった。

「ぁ……ッ、ン」

 唾液で濡らした二本の指先でじっくりと解されてから、砂月は静森の陰茎で貫かれる。ゆっくりと押し入ってきた剛直が、砂月の内部を広げていく。静森のことしか知らない砂月の体だが、次第に静森の温度と形に慣れ始めている。

 最初の頃よりは幾分かすんなりと受け入れられるようになったものの、深く挿入された頃には、砂月はびっしりと汗をかいていた。綺麗な紙が汗で肌にはり付いている。

「砂月」
「ンぁ……ァ……あっ」
「俺はお前が何者であっても愛し抜く自信がある。それだけは覚えておいてくれ」
「んぁァ、そんなの俺も一緒だよっ、ぁァ!!」
「本当か? 信じるぞ?」
「うん、うん」
「約束だからな」
「あ、あ――っ、やぁ、ぁ、激しっ、息できなくなる。ン――!」
「だがここが好きだろう? もう覚えた」
「あ、あ、っン――!! 静森くん、ぁ……ぁあ!!」

 感じる場所を激しく剛直の尖端で責め立てられて、すぐに砂月は我を失う。
 快楽がどんどん内側からこみ上げ始め、喉が震え、嬌声が零れる。

「イく、ぁ……!」
「俺もイきそうだ」
「ンぁ――!! あ、ァ――!! っ……――!!」

 そのまま中だけで果てさせられた砂月は、内部に飛び散る飛沫の熱をすぐに感じた。

 事後、二人でベッドに寝転がり、砂月は静森の腕の中に収まっていた。
 そして静森の胸板に手を添えて、砂月は呼吸を落ち着けてから、まだ少し潤んでいる瞳を向ける。

「静森くん」
「ん?」
「約束、する」
「――そうか」
「愛してる。大好き」
「俺も、いいや俺の方こそが。俺の愛の方が深い自信がある」
「そんな事無いよ」
「ある」
「ない。ないよ。だって俺、静森くんのことばっかり考えてるもん」
「それは俺も同じだ」
「つまり両想いだね」
「それは知ってる」

 そんなやりとりをしながら口づけをし、その日はさらに一度交わった。

 それから砂月が寝台でぐったりしていると、シャワーを浴びて静森が戻ってきた。

「名残惜しいが、そろそろ帰る」

 静森はそう言うと、優しく砂月の頭を撫でる。
 慌てて砂月は起き上がろうとしたが、腰に力が入らない。

「待って、送りたいんだけど……」
「少し無理をさせてしまったからな、もう少し病んでいるといい」

 微苦笑した静森の綺麗な顔を見て、砂月は真っ赤になった。やはり静森は絶倫だと砂月は思う。だから苦笑を返してから小さく頷いた。そうしてこの日は寝室で別れた。

 その後少し眠ってから、砂月は手紙を確認することにした。
 すると遼雅から手紙が届いていて、【エクエス】との交渉が可能な日程が来週一週間ならばいつでもと返ってきていた。悠迅からも手紙が来ていて【エクエス】の側は、来週の木曜日を希望すると書かれていた。

「木曜日ってことはぴったり一週間後かぁ。静森くん、丁度来週来られないって言ってたし、その日なら静森くんが来ないなら俺も都合つけられるし、じゃあ遼雅くんには木曜日って事で確認しようかな」

 こうして砂月は手紙の返信作業を行った。


 その後も調整作業などを行い、砂月は翌週一度、前もって遼雅と打ち合わせをすることにした。悠迅とも事前に打ち合わせをしたかったのだが、こちらは調整が上手くいかず、当日事前に話が出来ると良いなと決まったが、未定である。

 だがそうした作業をする中でも、砂月は静森のことばかり考えていたので、会えない二週間とは長すぎやしないかと思い、この打ち合わせ騒動のおかげで気が紛れるのがありがたいと思っていたのだったりする。

 そうこうしている内に、遼雅との打ち合わせの日が訪れた。


「よぉ」

 いつもの通りに酒場で待ち合わせをした砂月がカウンターに向かうと、先に来ていた遼雅が、先に始めていたようでジョッキを持ち上げた。砂月が笑顔を返してからジントニックを頼み、それが届いてからすぐに乾杯する。

「いよいよ明後日だな」

 遼雅が顔を引き締めたので、砂月は頷く。

「仲介料、今貰っていい?」
「勿論」

 と、まずはその場でトレードをした。

「ありがとうございまーす」
「こちらこそだ」

 こうして座り直してから、砂月は20億エリスをデータ上で確認しつつ、ジントニックに口をつける。その指に輝く指輪を見つつ遼雅が言った。

「お前の旦那って逆玉の輿だよなぁ」
「違うよ? 俺、静森くんにエリスを求められた事一回も無いもん」
「いや、そういう話じゃなく。そういやさ、本当に【月に沈む】についてはなにも知らねぇのか?」
「ん? うーん。え? なんで?」
「もし【エクエス】とうちのギルドが連合に成功したら、加わってもらいてぇ筆頭だからな。それはともかく、連合の前に穏便に仲良く出来るところまで行けるかって言うのが木曜日の顔合わせ次第なわけだが――正直、【エクエス】と【月に沈む】とか、【Genesis】と【月に沈む】という組み合わせの連合だってありえるだろ? そういう要素が入ってくると、うちと【エクエス】の話し合いにも不確定要素が増える」
「ああ、それは大丈夫だと思うよ。あっちのサブマスにも、【月に沈む】について知らないかと聞かれているから、【Genesis】も【エクエス】も条件は一緒」
「そうか。それなら安心だな」

 そんなやりとりをしつつ、二人で酒を飲む。

「じゃあ、【エクエス】に関しては、特にギルマスの【トーマ】に関しては、なにか続報は無ぇか?」
「んー、本当に情報出て来ないって言うのが情報ってくらい話を聞かない」
「夜宵とは破談になったらしいけど、【Lark】とは連合はともかく協力関係にあるらしいよな?」
「そうだねぇ」
「謎だよなぁ……なんだろうな? お見合いっていうのもよく分からなかったが、円満に解消したって事か?」
「さぁ?」
「……前に砂月、知ってるって話してただろ」
「情報料」
「……はぁ。お前の言えるとこと言えないとこの基準が分からなさすぎる!」

 そういうと遼雅がぐいっと酒を飲み込んだ。それから再び砂月の左手の指を見た。

「しかしあれだな。お前の旦那も紹介しろよ? そろそろ」
「うん。俺も紹介してみたいな。すごくいい人なんだよ。いい人過ぎて怖い」
「なんかいい人エピソードは?」
「ええとね、この前だった時はね――」

 静森のことを思い出すと砂月の頬が緩む。

「……アイスティー淹れてくれたんだけど」
「ほう」
「それは前にね、特別な相手にしかお茶を淹れないって話してて、それでね……」
「へぇ」
「俺は特別みたいで……その」
「はいはいはい、もういい。分かった。ラブラブって奴なんだな。よかったな!」

 音を立ててジョッキを置いた遼雅がニヤニヤした。

「まぁ、幸せそうでなによりだ」

 こうしてこの夜も更けていった。
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