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―― 第四章 ――

【六十一】王領への来客者

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 聖夜が終わり、数日が経過した。十二月の二十八日である本日、以前クライヴが話していた客人が訪れた。馬車が停車するのを、城の玄関前で僕は、クライヴと並んでみていた。家紋が入っていて、僕はそれを過去に家庭教師から学んだ貴族の一覧で見た事があったため、すぐに出自を理解した。

 ――サーレマクス公爵家の家紋だった。
 王妃様のご実家でもあり、国内ではヘルナンドのバフェッシュ公爵家を除くと、唯一の公爵家だ。ユーデリデ侯爵家の親類であるし、僕の生まれたベルンハイト侯爵家よりも家格が上の貴い家柄である。それも手伝い、幼少時から家紋だけは僕も教わっていた。

 ただめったに表舞台には出てこないため、僕は王妃様やユーデリデ侯爵夫妻以外の関係者を見た事は一度もない。それは僕が家にこもっていたからではなく、昔から城の催し物などにもあまりサーレマクス公爵家の方はお見えにならないからだ。

 公爵家は王家に次ぐ力がある、というのは間違いないとされているが、実態を僕は全然知らない。見守っていると、馬車の扉を御者が開けた。すると雪の上に飛び降りるようにして、一人の少年が地面に立った。すぐに扉は閉められ、他の人間の姿もない。

 てっきり大人が降りてくると思っていた僕は、一人旅をしてきた様子の少年を見て驚いた。年齢は二次性徴手前に見えるから、十二・三歳といったところだろうか。黒い髪をしていて、その艶やかな質感が、クライヴに似ている。瞳の色は、エメラルドのような緑だ。

「久しぶりだな、ノア」

 クライヴが明るい声をかけると、まだ背の低い少年が頷いてから、じっと僕を見た。直後、気おされそうになり、僕は思わず息を詰める。

 ――グレア……?
 と、身構えた時、隣からクライヴが僕の肩を抱き寄せ、ハッとしたように前方にいたノアという名の少年も力を抑えた。

「失礼した。あんまりにも綺麗な方だったものだから、つい……」
「つい、で、俺の伴侶を支配しようとされては困るぞ」
「クライヴ殿下、そんなつもりは無かった。まだダイナミクスを測定されたばかりで、力の使い方は、習っている最中なんだ。許してくれ」
「許さない、俺は心が非常に狭いぞ」
「――そのようだな。今回の件で、クライヴ殿下を敵に回すと大変恐ろしいと僕は理解した。怖い怖い! 怖くてたまらないぞ! しかしクライヴ殿下は、本当に容赦がないなぁ。父上や兄上達も笑っていた。ひきつった顔で、な!」

 ノアはそう述べてから、改めて僕を見た。そして――花が舞い散るような可憐な笑みを浮かべる。

「お初にお目にかかります、ルイス様。僕はサーレマクス公爵子息、三男のノアと申します。クライヴ殿下とは従兄弟いとこという関係になります。ダイナミクスは、Switchだから、おびえさせたらすみません。でも誓って、ルイス様に酷い事をしたりはしない。以後、お見知りおきください!」

 明るい声は少し高い。僕は我に返り、必死に何度も頷いた。

「ルイスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 僕に対して頷き返してから、改めてノアがクライヴを一瞥した。
 するとクライヴが嘆息してから、気を取り直したように笑う。

「俺は敵には怖いと理解しているのならば、そのようにな」
「ああ、ああ! 分かっている。分かっていますよ、クライヴ殿下!」
「そもそも、俺は敵には容赦する必要性を感じないが、それは敵に対してだけだ。俺はそう、好戦的な方ではないし、ルイスの前で到着早々語るに相応しい内容だとも思わない。ノア、会話の技量も磨くように」
「怖い怖い! だから、怖い!」
「俺はルイスに怖がられなければ、それで構わない」
「のろけ! それは聞くのが面倒だ!」
「さて、歓迎の用意をしてあるよ。中に入ろう」

 クライヴが僕の腰に腕を回し、背後に振りかえる。
 こうして僕達は、城の中へと戻った。
 敵、というのがどういった趣旨の話なのか、僕は分からなかったから、ノアの方が子供なのに難しい話をしていてすごいと思ってしまった。



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