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―― 第四章 ――
【六十】雪だるま
しおりを挟む結局僕は、日常的に用いてもらえる品として、万年筆を贈ると決めた。首輪をしている時、僕がクライヴを思い出すのと同じように、クライヴにも僕の事をふとした仕事の合間などに思い出してもらえたら嬉しいと感じたからだ。
本日は、聖夜だ。
併せて夜会を催す領地も多いらしいが、今年は二人で過ごしたいとクライヴに言われ、僕は頷いた。この日僕が、クライヴの腕の中で目を覚ますと、窓の外には綿雪が舞い降りていた。
「おはよう、ルイス」
「おはよう……ン」
僕はおはようのキスをしてから、クライヴと視線を合わせる。気温は寒いようだけれど、クライヴの腕の中は温かい。そろって寝台から降りた僕達は、一緒に湯浴みをしてから、遅い朝食に臨んだ。
プレゼントを誰かに直接手渡しした経験が、侯爵家の家族相手にしかない僕は、渡すタイミングを考えて、そわそわしながらテーブルに並ぶ聖夜料理を眺める。野菜をふんだんに使ったパンケーキが本日の朝食で、聖夜を象徴するヒイラギや星の飾りが、砂糖で作られていた。
「ルイス、食事の後は、少し庭に出ないか?」
「は、はい!」
「雪を踏むのも楽しいんだ。この王領の雪は少し湿っていて重いんだけどな、そこに靴跡をつけるのは癖になるぞ」
楽しそうに笑うクライヴを見ていたら、僕の心が弾んだ。
こうして食後は、厚着をして、二人で庭に出た。コーラル城の庭園は、既に雪囲いがされている。新緑樹が雪の衣を纏っていて、僕達はそこまで真っ白な雪に、足跡をつけながら歩いた。
「雪だるまを作った事はあるか?」
「無いんです。絵本で見たことはあるけど……」
僕はワクワクしてしまった。クライヴは楽しそうに目を輝かせてから、手袋を身に着けた指先で、地面に触れる。
「では、作ってみようか」
こうして僕達は、雪だるまを作る事にした。二人で雪玉を作っていると、気づいた使用人が、『顔にどうぞ』と言って、人参と栗の実を持ってきてくれた。笑顔でお礼を告げてから、僕達は一緒に雪だるまを完成させていき、それが出来上がる頃には全身が熱くて、寒さなんて忘れていた。最後に木の枝で両手を作り、雪だるまが完成した。
「ルイス」
まじまじと僕がそちらを見ていると、後ろからクライヴに抱きしめられた。
「これをもらってほしい」
優しい声音でそう口にすると、クライヴが僕の手首に細い銀の鎖の時計を嵌めた。
「綺麗……」
目を瞠っていると、クライヴが僕をより強く抱きしめた。
「聖夜のプレゼントだ」
「あ、ぼ、僕も――……部屋にあります」
「そうか。ただ、本心から俺にとって最高の贈り物は、ルイスの笑顔だ。とはいえ、ルイスが俺を想って選んでくれたしなというのは嬉しいな。あとで、貰うとしようかな」
「うん」
僕はクライヴの両腕に触れながら、小さく頷いた。僕はきちんと、今も自然と笑うことができている。去年までは雪だるまよりも下手な笑顔しか浮かべられなかった気がするけれど、僕はクライヴのおかげで笑顔を知った。
その夜は、聖夜の風習として、ケーキを食べた。甘い甘いその味を、多分僕はきっと一生忘れない。
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