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―― 第二章 ――
【四十】グレアの衝撃
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まだ心臓の音が煩い。強いグレアを感じた衝撃に、僕の全身は驚いたままだ。手を繋いだままで馬車に乗り込み、それが走り出した時も、僕の混乱は収まらず、硬直と動揺を繰り返しながら、僕はクライヴ殿下の横顔を見ていた。僕の手を握るクライヴ殿下は、びくびくと怯え交じりに震えている僕を見ると、苦笑した。
「嫌な思いをさせたな」
その言葉に、僕の中にあった緊張の糸がプツンと途切れた。
僕のために怒ってくれたクライヴ殿下の姿をより強く思い出し、僕は繋いでいる手に力をこめる。何を言えばいいのか分からなくて、僕は必死で首を振った。自然と涙腺が緩み始める。会場での噂話やヘルナンドの姿で恐怖と辛さと諦観が僕の中にあったはずなのに、今はクライヴ殿下がそばにいてくれる事が嬉しくて、それが理由で僕の瞳には涙が滲んだ。
「俺が守る。だからもう、ルイスに怖い事は何もない」
もう一方の手で、クライヴ殿下が僕の頭を撫でた。その優しい感触に浸りながら、僕は小さく頷く。僕はこうしてクライヴ殿下がそばにいてくれるだけで、もう十分だ。殿下がいてくれたら、怖くない。けれど、と、会場での事を思い出して、僕は瞳を揺らした。
「国王陛下や王妃様から……お叱りを受けるのでは? 僕のせいで、クライヴ殿下にご迷惑を……」
ヘルナンドは公爵家の人間だ。それを思い出しながら、陰鬱とした気持ちになった。すると思案するような顔をしてから、柔らかくクライヴ殿下が笑った。
「知った事か。ルイスを害する者は全て敵だ」
「クライヴ殿下……」
「まぁもし俺が仮に陛下の怒りを買って、爵位を剥奪されたら、ルイスはどうする?」
「どのような状況になっても、僕は一生おそばにいたいです」
僕が述べると、クライヴ殿下が僕の頬に触れ、僕の唇を掠め取るように奪った。
そのまま僕達は、何度もキスを繰り返す。
「――二人の婚約は、ルイスも困らせると思っていたから邪魔しなかったが、もうバフェッシュ公爵家は別だ。俺の敵だ。俺がヘルナンド卿を赦す事はない」
その時、僕を両腕で抱きしめ、僕の肩に顎を載せて、クライヴ殿下がそう述べた。いつもは温厚な声が低くなっていたから、僕はゾクリとした。驚いていると、クライヴ殿下が少し体を離して、僕の目をじっと見る。まだ少しだけ、クライヴ殿下は怖い顔をしていた。
「ルイス」
「はい」
「ルイスは、余計な事を考えずそばにいてくれ。俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、何も問題はない」
断言してから、クライヴ殿下が綺麗に笑った。僕は見惚れてから、一度頷き、そして自分から殿下に抱き着いた。心強さと安心感から、今度は涙が零れ始める。
その後、王宮の塔まで帰る間、僕達は抱き合っていた。
泣いている僕の背を、あやすように殿下は撫でてくれていた。
「嫌な思いをさせたな」
その言葉に、僕の中にあった緊張の糸がプツンと途切れた。
僕のために怒ってくれたクライヴ殿下の姿をより強く思い出し、僕は繋いでいる手に力をこめる。何を言えばいいのか分からなくて、僕は必死で首を振った。自然と涙腺が緩み始める。会場での噂話やヘルナンドの姿で恐怖と辛さと諦観が僕の中にあったはずなのに、今はクライヴ殿下がそばにいてくれる事が嬉しくて、それが理由で僕の瞳には涙が滲んだ。
「俺が守る。だからもう、ルイスに怖い事は何もない」
もう一方の手で、クライヴ殿下が僕の頭を撫でた。その優しい感触に浸りながら、僕は小さく頷く。僕はこうしてクライヴ殿下がそばにいてくれるだけで、もう十分だ。殿下がいてくれたら、怖くない。けれど、と、会場での事を思い出して、僕は瞳を揺らした。
「国王陛下や王妃様から……お叱りを受けるのでは? 僕のせいで、クライヴ殿下にご迷惑を……」
ヘルナンドは公爵家の人間だ。それを思い出しながら、陰鬱とした気持ちになった。すると思案するような顔をしてから、柔らかくクライヴ殿下が笑った。
「知った事か。ルイスを害する者は全て敵だ」
「クライヴ殿下……」
「まぁもし俺が仮に陛下の怒りを買って、爵位を剥奪されたら、ルイスはどうする?」
「どのような状況になっても、僕は一生おそばにいたいです」
僕が述べると、クライヴ殿下が僕の頬に触れ、僕の唇を掠め取るように奪った。
そのまま僕達は、何度もキスを繰り返す。
「――二人の婚約は、ルイスも困らせると思っていたから邪魔しなかったが、もうバフェッシュ公爵家は別だ。俺の敵だ。俺がヘルナンド卿を赦す事はない」
その時、僕を両腕で抱きしめ、僕の肩に顎を載せて、クライヴ殿下がそう述べた。いつもは温厚な声が低くなっていたから、僕はゾクリとした。驚いていると、クライヴ殿下が少し体を離して、僕の目をじっと見る。まだ少しだけ、クライヴ殿下は怖い顔をしていた。
「ルイス」
「はい」
「ルイスは、余計な事を考えずそばにいてくれ。俺の身を案じてくれるのは嬉しいが、何も問題はない」
断言してから、クライヴ殿下が綺麗に笑った。僕は見惚れてから、一度頷き、そして自分から殿下に抱き着いた。心強さと安心感から、今度は涙が零れ始める。
その後、王宮の塔まで帰る間、僕達は抱き合っていた。
泣いている僕の背を、あやすように殿下は撫でてくれていた。
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