9 / 84
―― 序章 ――
【九】翌日の安堵
しおりを挟む翌朝、目が覚めると僕の体が綺麗になっていた。
これは中を綺麗にする魔導具の効果だ。男性同士の結婚の際には、よく用いられる。養子縁組制度も根付いている。
「……」
恐らく背中の傷は見られなかったと思う。僕はその事に安堵していた。
裸のままで眠っていた僕にはシーツがかけられていて、隣の椅子の上には新しい服が用意されていた。既にクライヴ殿下の姿は無い。立ち上がって着替えてから、僕は寝室を出た。そして自室へと戻る。時刻は午前十一時だった。随分僕はゆっくりと眠っていたらしい。きっと起こさないように配慮してくれたのだと思う。
長椅子に座った僕は、一人きりの室内で、細く長く吐息した。
瞬きをすると、昨夜の事が甦ってくる。
誰かと体を重ねるというのは、僕にとっては衝撃的な事だった。王族は閨の講義を受けると聞くから、クライヴ殿下は初めてではなかったのだろうと漠然と思った。なにせ――巧かったように思う。そう考えると、僕の頬が熱くなった。座ったままで、僕は暫くぼんやりと、昨夜のことを回想していた。
ノックの音がしたのは十二時を少し過ぎた頃の事で、返事をすると扉が開いた。
「おはよう、ルイス」
入ってきたクライヴ殿下は、僕を見ると微笑した。ぎこちなく僕は頷く。
「体は大丈夫か?」
「……はい」
「そうか。では、昼食を共に食べよう」
「……分かりました」
頷き、僕は立ち上がった。自ら呼びに来てくれるとは、優しいと思う。その後二人で長い廊下を歩き、階段を下りた。食堂は一階にある。エントランスホールを横切って、西の方へ向かい、僕達は食堂に入った。そこに控えていた侍従達が、僕らのために椅子をひいてくれる。こうして僕達は、対面する席に座った。白いテーブルクロスがかけられている。
本日のメニューは鶏肉の香草焼きだった。
ナイフとフォークを手に、僕は切り分け、口へと運ぶ。飲み物は、切った檸檬が入った水だ。よく冷えていた。この国の主食はライスだ。四季がある温暖な気候で、米と小麦がよくとれる。そばもまた、多く収穫できる。一年には十二の月があり、午前と午後に分けられている時間も十二ずつで、合計二十四時間だ。今は、新年から見て、一年の半分が過ぎた七月の頭である。
「ルイス、食が進んでいないな」
「僕は、元々あまり入らないんです」
味がしないと思う毎日だったから、すっかり食事を楽しむという行為を、僕は忘れてしまっていた。すると小さくクライヴ殿下が頷いた。
「少し瘦せすぎているものな。少しずつでいいから、食べる量を増やすといい」
「……はい」
「食べやすいものや、好物を多く出すようにシェフには伝えておく」
「あ、あの、とても美味しいです」
「――そうか。別にシェフを罰したりはしない。優しいんだな、ルイスは」
僕の言葉に、クライヴ殿下が苦笑した。
ヘルナンドだったら、即刻クビにしていただろうと思ったから、僕の方こそクライヴ殿下の心の広さに驚いてしまった。高位の貴族が、Domに限らず威圧的な事が多いというのが、僕の印象だ。僕のように陰気な方が、少ないのだと思っていた。
「食事を終えたら、少し歩こうか。城の中を案内したい」
「はい……」
僕は頷いてから、静かに水を飲んだ。
クライヴ殿下はそんな僕を、終始優しい眼で見ていた。
97
お気に入りに追加
2,399
あなたにおすすめの小説
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
恋人に捨てられた僕を拾ってくれたのは、憧れの騎士様でした
水瀬かずか
BL
仕事をクビになった。住んでいるところも追い出された。そしたら恋人に捨てられた。最後のお給料も全部奪われた。「役立たず」と蹴られて。
好きって言ってくれたのに。かわいいって言ってくれたのに。やっぱり、僕は駄目な子なんだ。
行き場をなくした僕を見つけてくれたのは、優しい騎士様だった。
強面騎士×不憫美青年
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる