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……第一章
高嶺の花?
しおりを挟む「グレイ様って今日も麗しいよなぁ……」
「艶やかな金髪に青い瞳……隙のない麗しさだ……」
「しなやかな体つきで服のセンスも抜群……」
「コーネリアス王立学園を首席でご卒業されたんだろう?」
「らしいな。本当に宰相補佐官の中でも仕事も出来るし」
「「「「「憧れるよなぁ!!!!!」」」」」
昼休み中の騎士団所属の人々の声が回廊を歩いている僕の耳にばっちり入ってきた。気づかれないように全員の顔を確認したが、正直お金持ちはいなかった。騎士も高給取りではあるが、同じくらいは僕ももらっている。僕が目指す玉の輿は、そういうのではなくて、もっとこう遊んでいるのが仕事というか、なにもしなくても生活できるような……まぁ理想はそうなる。
「お前、本当にモテるよなぁ」
隣を歩いている同僚のルークが、僕にいった。
「そうかな、そんなことはないよ」
「そんなことある。お前も自覚あるくせに。俺の前でまで唐突に猫被るのはやめろ」
「だってさ、本当に僕がモテるなら、もう既に玉の輿にのれてるはずだよ?」
今年で僕は三十歳。はっきりいって、貴族としては結婚適齢期を逃しつつある。この国では遅くとも三十歳になったら、よほどのことがないかぎり、結婚する。
「それもそうだな。今夜の青薔薇の夜会でこそ、気合いをいれて相手を探すぞ!」
なおルークも、玉の輿を狙っている。ルークも今年で三十歳。僕達は一緒に婚活している。ルークもまたモテる。
僕らは、高嶺の花と呼ばれない場合、お局様と悪口を言われることがある。
さて。
昼休みが終わったので、僕らは宰相府へと戻った。僕達は宰相補佐官をしている。文官の中ではエリートだ。ただしブラックだ。定時に仕事を終え夜会にいくためには気合いが必要だ。ということで、僕は気合いをいれた。
気合いをいれたのはルークも同じで、僕達は定時での退勤を勝ち取ったので、午後七時、王宮大広間に向かった。青い薔薇が各所に飾られている。
今日は国王陛下の主催なので、小規模な夜会ながら、身分が高い人が多くくる。なお王宮の夜会は、王宮で働いていると、この国では出席していいことが多い。
きらびやかな室内には、美味な料理も並んでいる。それだけでもくる価値がある。
夜会はまずは、国王陛下の挨拶から始まるので、僕はルークと共に壁際に立っていた。会場を見渡せば、資産家としても有名な高位貴族の姿も多い。この中から誰か一人くらい……容姿とか心の優しさとか貞操とかはある程度目をつぶる……!
何故このように僕が玉の輿にこだわるかといえば、まぁ一番は僕が貧乏だからだ。
僕はエヴァンス伯爵家に生まれたのだが、幼少時に両親が亡くなり、弟と共に叔父に育てられた。簡単にいえば、ごはんをもらえなかったり殴られたりし、ひどい目に遭った。王国法で伯爵位が僕にかえってきた、僕が二十歳で成人した日、それまで代理で伯爵をしていた叔父は失踪した。結果として、なんとか借金はなかったのが幸いだが、多額の使い込みをしており、僕と弟の家の家計は火の車だと判明した。なんとか家をたてなおしたいし、弟にも楽をさせてやりたい。それには、バーンと一発玉の輿が早いだろう。幸い僕は、容姿はよいようだ。
と、そんなことを考えていると、国王陛下の挨拶が始まった。最初はいつも通りだった。しかし。
「さて。実は明日、留学先から第二王子のフェルが帰国する。正直私は王というより一人の父として困っている。昔からフェルは、結婚する気がないとはなしていたのだが、いずれ時が来たら恋の一つや二つするだろうと思っていた。しかしその気配がないまま、今年で三十歳だ。親として非常に憂慮している」
同じ歳なんだなと漠然と思った。第二王子殿下は、これまでほとんど表に出てこなかったので、細かい情報は全然知らなかった。
「そこで、フェルの心を無事射止め、結婚にこぎつけた者の願いを、可能な範囲でなんでも一つ叶えることとする。だから頼む。誰か息子に恋を教え、結婚し、私に孫の顔を見せてくれ」
切実かつ衝撃的な国王陛下の言葉に、会場には困惑した空気が流れた。
「頼む」
国王陛下が頭を下げる。今度は周囲がざわついた。僕の上司の宰相閣下はあきれたような顔で陛下を見ていた。
「挨拶は以上だ」
国王陛下が退場していった。
「どう思う?」
ルークに聞かれたので、僕は小さく首を動かす。
「玉の輿だね、かなり最上級の」
「狙うか」
「そうだね」
「今日からライバルだな」
「うん。ルークが勝ったら、権力を使って、僕のボーナス倍増で」
「おう。お前が勝った場合は俺のボーナスを頼む」
「攻略法を考えないとね」
「おう。気合いいれるぞ!」
「よぉーし! 第二王子殿下を射止めるぞー!」
こうして僕達は、第二王子殿下に狙いを定めた。
翌日、第二王子殿下の出迎えには大勢の人が集まった。いつもの大臣といった顔ぶれの他に、玉の輿狙いと見物で、多くの人が訪れている。
馬車を降りてきた第二王子フェル殿下は、非常に背が高く、少し癖のある黒髪をしている。
そして、非常に不愉快そうな顔をしていた。
周囲を見回してから、フェル殿下が歩き始める。行き先が宰相府なので、僕とルークもあとに続く。今日からフェル殿下は、宰相府で外交関連の仕事をすることになっている。位置的に、僕やルーク、宰相補佐官の若い子は、玉の輿にのるチャンス……フェル殿下と接触するチャンスが増える。
フェル殿下にあてがわれた執務室のドアを、宰相閣下が開けて、中へと案内した。
ここで第一次戦争が勃発した。
誰がお茶を持っていくかだ。僕はぼけっと宰相閣下達を見ていたせいで戦争に破れ、ルークが勝者として執務室に入っていくのを眺めることになった。
ルークは少しして戻ってきた。
「どうだった?」
僕は思わず尋ねた。
「宰相閣下が昨日の話をしてて……フェル殿下は、誰が結婚なんかするか! って怒っておられる」
ルークは遠い目をしていた。
すると、続いて執務室の扉が開き、どう見ても苛立ってキレ気味のフェル殿下と、吹き出すのをこらえるように、にやっとしている宰相閣下が出てきた。
「この中で俺と結婚したい者は前へと出ろ」
剣幕に怯えて誰も出ない。珍しくルークも出ない。出ないほうが無難か……も、知れないが勝負!
「僕は、フェル殿下と畏れ多いですが、お話したいです。殿下のことが知りたいです」
伏し目がちからの上目遣いのコンボ、儚げな微笑からの知的な笑顔! 僕は高嶺の花らしさは害わないままで、親しみやすさも演出した。
「ぼ、ぼくも!」
「おれも!」
「わたしも」
すると続々と皆が名乗り出た。ルークは腕を組んでその場を見まもってから、最後に名乗り出た。
そんなことを確認したのち、再びフェル殿下をみると、なんと目があった。じっと僕を見ている。深い緑色の瞳をしている。
「陛下に願いを叶えてもらいたい欲望の塊どもとなど誰が結婚するか」
フェル殿下は僕を見たまま吐き捨てるように言った。だが願いの一つや二つ叶えてもらわないと、玉の輿なだけでなく王族の妃は公務が大変なのでやってられない。だからフェル殿下と結婚するメリットがない。
「メリットだと……?」
「え?」
そのとき響いたフェル殿下の声に、僕は心の声が口に出てしまっていたのかと焦った。
「あ、いや、なんでもない」
すると慌てたようにフェル殿下が首をふった。
「とにかく、下らないことに励まず、宰相補佐官ならその仕事をしろ」
そういうとフェル殿下は執務室へと戻っていった。中々に手強そうだが絶対落とすと僕は決めた。
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