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知識とハジメテと
03
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空は明るくなり掛けている。
瑠依は千皇のマンションのエントランスを抜け、外に出た。
少しだけ背を伸ばすと、歩き出す。
駐車場に向かうと、その入口に千皇が立っていた。
「先輩もいい加減口にしてやったら?」
瑠依は千皇の目の前に立つと、そう呟いた。
「……何がだ?」
「好きだーって」
瑠依の返答に、千皇は鼻先で笑う。
「メールで伝えただろ?兄貴の方は多分伝えたら何とかなるって。決め手がねぇんだよ」
そう瑠依は言いながら、カバンからカードキーを取り出し、千皇に渡した。
「先輩が何でそんな行動を取るか、そこが分かってねぇんだ」
「言って理解すんなら苦労はしねぇよ」
カードキーを受け取ると、千皇はそれをポケットにしまった。
「フラれるのが怖いんだ」
「……まさか」
「とにかく、今までの奴らと違うなら、自分も今までと違う行動しろっつってんの。楼依君押し倒してルシカちゃん傷付けたのは許せねぇけど、あんなにしおしおになってちゃね……」
そう言うと、瑠依は駐車場へと姿を消した。
瑠依の車が駐車場から出ると、千皇は溜息を吐いた。
弾はどうであれ、まだ翠の事は終わっていない。
魔王は自分の前に姿を現さない限りは、何とでもなる。
面倒くさ、そう呟くとマンションへと歩き出した。
エントランスから少し歩き、エレベーターに向かう。
エレベーターに乗り自分の部屋のある階のボタンを押すと、千皇はスマホを取り出しスクロールしながら、画面を見つめた。
特撮ヒーローの映画の広告が目に入った。
落ち着いたら連れて行ってやるか、と思いながら、スマホをポケットに直した。
まだ長引くなら、ホームシアターでも設置すれば良いか、と思った時、溜息が出た。
静かにエレベーターが、止まる。
扉が開くと、千皇はエレベーターから出た。
自分の部屋のカードキーを取り出しながら歩き、玄関に差し込むと中に入る。
外からも見えたが、リビングが明るい。
そのまま無言で玄関を上がった。
リビングまで行くと、クッションを抱きしめて何やら静かにテレビを見ていた。
千皇はゆっくりカグヤに近付いた。
「おかえり……」
千皇の気配に気付き、カグヤは画面を見たままそう呟いた。
千皇は無言でカグヤの横に座る。
カグヤが見ていたのは、海外の特撮ヒーロー物だ。
「これ、何か面白くねぇんだ。もっと、バーン!て爆発したりさ、カッコイイポーズとったりもねぇし、怪人なんかも面白くねぇしさ」
画面を見ると着ぐるみではなく、特殊メイクとCGが満載だ。
ふーん、とだけ千皇は言った。
「……でも、……カッコ良くなくても、俺にはヒーローがいない」
ポツリとカグヤは呟いた。
「……お前が全てを終わらせるまで、抱くつもりはなかった。その間に、……俺の事も終わらせたかった」
千皇も画面に目を向ける。
「お前が行くなと言って行ったのは、……早く終わらせたかった。焦っては居たんだろ、俺らしくもねぇ 」
カグヤは黙って画面を観ている。
「……嫌な事ばかりで、悪かった」
目を合わせない千皇からの言葉に、カグヤは無言で目を見開いた。
悪かった、謝った千皇の事より、過去形なのが辛い。
何で過去形なんだろう。
自分は捨てられるのか?
目を見開いたまま、テレビから目が離せない。
ワガママばかりで、嫌になったのだろうか。
それとも、何も分からない、どうして良いか分からない、それが嫌なのか。
もし、千皇が自分を嫌になって結界も無くなったら捨てられてしまう。
自分がもっとハッキリした意志を持てたら良かったのだろうけど。
辛くても苦しくても、千皇の傍に居たいのに。
自分じゃない誰かとセックスしても、我慢するから……。
もし、精を取らなくなって、自分が衰弱したって構わない。
弟達を守りたいのもあるけど。
「次男には姫神、末っ子には関西が居る。……お前には」
そう言う千皇もこちらを見ない。
だけど、そっと優しくカグヤの肩に腕を回し、自分に引き寄せる。
俺が居るだろ、と最後まで言わない。
言われたら受け入れる覚悟がまだないが、言ってくれないのはもどかしい。
それでも、千皇の横に居ても良いのかと思うと、少しでも安心出来そうだ。
でも、その安心が怖い。
魔王だって大人しいのは今だけだろう。
いざ対峙したら、人間の千皇が不利だ。
いくらカグヤが魔王を弾く力があるくらいと言っても、それを浄化させる方法だってある筈だ。
最悪、直に魔王が千皇に手を下す事だって出来ない訳では無い。
そうなれば、自分よりもルシカやヨゾラだって不幸になってしまう。
自分は千皇の傍に居るだけで、何も出来ない。
役には立たない自分なんて、なんで一緒に居るんだろう。
考えてみれば、魔界も下界も心地よい場所ではないのに。
「……でも、また行くなって言っても行くんだろ」
ボソッと小さく、カグヤが呟く。
「まだ、終わらねぇと思う。……少なくとも、あの翠って奴は」
「……」
「俺と、……同じだ」
「待てが出来ねぇ分、お前と違う。お前は待っててくれる……」
監禁されているんだ、待つしかない。
「帰って来るのは、分かってるんだ。……待つしかねぇだろ。……誰かを抱きに行ってたとしても。そもそも、……俺は監禁されてんだ」
カグヤは千皇に肩を抱かれたまま、下を向いた。
感情が落ち着かないのか、自分の両足の指や甲を擦ったりしている。
「……アレとの付き合いは2年。俺がオーナーになる前だ。アレの母親が客で来ていた。……客で来ていた時は何度かアフターもしてたが」
アフターの意味は、何となく理解した。
カグヤの足が止まる。
「……単なる品定めをしていただけだ。息子に相応しい下の相手をな」
「そんな事して、……お前に何か良い事あんのかよ」
「店の売上にはなる。夜の店なんてそんなもんだ、って思ってたし、セックス自体興味も無かった」
性行為には嫌悪がある訳では無い様ではあるが、積極的では無いのも分かる。
そこに可愛い穴があれば楽しい弾とも違う。
「初めて、息子を連れて来た時に、良い予感はしなかった。……これから与えられるオモチャを見て、満足しているガキの目をしてた」
あんなに執着して居るのは、恋心じゃなかったのか?
千皇をオモチャとして見ていたなんて、信じられない。
どう見たって千皇の事は特別に見える。
「それでまんまとアイツらの作戦に乗っちまった。今みてぇに実力は俺には無かったし、2年我慢すりゃ終わる」
「……終わらないよ、……多分」
「契約やらなんやら、違反してたのはアイツらだ。俺は誠実に守って居たんだよ、これでも。一方的な契約とかでマウント取られたくもなかったし、こっちからも条件は出したけど」
「……条件?」
「俺を勃たせて一発抜かせたら挿れてやる。最後までは3割、薬飲まねぇと勃たねぇからめんどくせぇ時しか飲まねぇし。言っとくがインポじゃねぇ。アイツに興味すらねぇだけ」
元から、誰かに興味がある様な態度では無い。
楼依や佐藤に対しても、表情豊かになる訳では無いが、ほんの少し態度が和らぐのは、少なくても信頼があって、何だかんだと自分のワガママに付き合ってくれているからだろう。
しかし、興味すら無くなったら、自分も翠みたいな態度を取られるのかと思うと、胸が痛かった。
捨てられるより、興味が無くなるのは怖い。
「俺はアイツの一番お気に入りのオモチャ。それが他人に奪われるのが嫌なだけ。俺なんかより、暇人ヤクザのが楽しいだろうに」
確かにそうだろう。
作った笑顔でも、無表情で何も分からないよりは安心する。
オモチャと言えば、自分も魔王のオモチャだったのだろうか。
そう思うと、自分の今までが否定された様だ。
嘘でも、表情に出してくれたら。
でも、翠は少なくとも表情には出している。
オモチャと言うなら、翠の方じゃないのか?
「アイツと無駄な時間を過ごすなら、俺はお前と過ごす方が無駄じゃねぇんだけど」
「……でも、アイツだって……、お前が本気なら誰ともしねぇって」
「そんな事知るか。それはアイツの都合で俺じゃない。自分に俺が靡いた優越感が欲しいだけ」
自分に気持ちがないからと、なんでここまで否定するんだろう。
最初はオモチャでも、気持ちが揺らぐ事だってあるんじゃないのか。
「お前が俺に口付けして……、嫌がってたじゃん」
「俺がアイツとしたら、お前は喜ぶか?」
喜ぶわけない。
千皇の口付けは、優しくて気持ち良い。
目の前じゃなくても、誰かにしているなら、きっと今より訳が分からなくなってしまう。
カグヤは下を向いて、首を左右に振った。
「それならそれで良い。お前が気にする事じゃない」
気にするな、と言われても気になる。
恨めしげに睨む、雌の魔族の目を思い出した。
自分の方が上なのに、何でこんなちっぽけな奴がお気に入りなんだと、嫉妬で威嚇する様な目。
カグヤはふるっと身震いした。
「アイツには死んでも手に入らねぇモンを、お前はもう手に入れてんだ。……我慢は、もうしばらく続くだろうけど」
翠には手に入らないモノを、自分は持っている……、なんの事なんだろう。
「だから、お前はふてぶてしく笑っとけ」
抱き寄せられた肩を、ぽんぽんと軽く叩いた。
そんな事言っても……。
「笑えるわけねぇだろ……。俺はまだ、……どうして良いか分からねぇのに、簡単に言うなよ……」
「お前がしたい事を言えば良い」
セックスしたいって言ってもしてくれないのに。
行くなと言っても、行くのに。
言葉にはして来た。
「……言っても、お前は違う事するじゃねぇか」
「理由、ちゃんと言わねぇだろ」
「言えるわけねぇだろ……。自分でも分かってねぇのに」
「思ったままを言えば良い。お前が分からねぇ事も、説明は出来る。納得するかは別として」
今まで、当たり前だが魔王には言いたい事も言えないで居た。
老人にでさえ。
言ってしまえば楽と引き換えに、弟達がどうなるか分からないし、言いたい事などないのが当たり前みたいになっていた。
千皇と魔王は違う。
それでも、自分が思った事がワガママと言うのも分かっている。
「ちゃんと言ってくれねぇと、俺の自惚れで終わっちまう」
千皇には言いたい事を言って良いのだろうか。
弟達に危害がないのは分かっている。
でも、モヤモヤもグルグルも無くしたい。
本来の自分を取り戻したい。
「……俺は、……」
カグヤは両膝を抱いた。
「……汚い?」
弾から言われた言葉は、ずっとカグヤを支配していた。
「俺、ずっと好きだった、交尾するの……。そう、仕込まれて居たとしてもさ……。今でも、身体が反応するんだ……、だから……」
「汚ぇと思うなら、俺もだろ。散々いろんな奴、抱いてきたんだ。弾なんか特に」
「……仕方のねぇ事なのか?……俺は、反応したくねぇのに……」
「お前が、好きで今してぇんじゃねぇなら、いちいち汚ぇとか思わねぇよ」
千皇にとって自分は汚くない、そう自分の良い様に解釈して良いのだろうか。
「だって、……抱かれたら、嫌でも反応しちまう……」
「お前を他の奴に抱かせるつもりはねぇぞ」
カグヤはその言葉に驚いた。
「腹が減らねぇならそれで良いだろ?それが俺のせいなら、俺の傍に居れば良いだけだ」
躊躇いもなくそう言う千皇の横顔をチラッと見上げる。
千皇は相変わらず、テレビを見ていた。
「……セックスしてくんねぇじゃん」
目線を床に落として、カグヤは呟いた。
「したじゃねぇか」
「あれは、……グルグルしてたし、……一方的で、ちゃんとしてねぇ……」
モゴモゴと言うカグヤに、千皇はそうか、と呟いた。
「そのうちちゃんとしてやんよ。だから、ちゃんと思った事は言え」
ぶっきらぼうに言う千皇に、カグヤは戸惑いながらもほんの少しだけ擦り寄った。
瑠依は千皇のマンションのエントランスを抜け、外に出た。
少しだけ背を伸ばすと、歩き出す。
駐車場に向かうと、その入口に千皇が立っていた。
「先輩もいい加減口にしてやったら?」
瑠依は千皇の目の前に立つと、そう呟いた。
「……何がだ?」
「好きだーって」
瑠依の返答に、千皇は鼻先で笑う。
「メールで伝えただろ?兄貴の方は多分伝えたら何とかなるって。決め手がねぇんだよ」
そう瑠依は言いながら、カバンからカードキーを取り出し、千皇に渡した。
「先輩が何でそんな行動を取るか、そこが分かってねぇんだ」
「言って理解すんなら苦労はしねぇよ」
カードキーを受け取ると、千皇はそれをポケットにしまった。
「フラれるのが怖いんだ」
「……まさか」
「とにかく、今までの奴らと違うなら、自分も今までと違う行動しろっつってんの。楼依君押し倒してルシカちゃん傷付けたのは許せねぇけど、あんなにしおしおになってちゃね……」
そう言うと、瑠依は駐車場へと姿を消した。
瑠依の車が駐車場から出ると、千皇は溜息を吐いた。
弾はどうであれ、まだ翠の事は終わっていない。
魔王は自分の前に姿を現さない限りは、何とでもなる。
面倒くさ、そう呟くとマンションへと歩き出した。
エントランスから少し歩き、エレベーターに向かう。
エレベーターに乗り自分の部屋のある階のボタンを押すと、千皇はスマホを取り出しスクロールしながら、画面を見つめた。
特撮ヒーローの映画の広告が目に入った。
落ち着いたら連れて行ってやるか、と思いながら、スマホをポケットに直した。
まだ長引くなら、ホームシアターでも設置すれば良いか、と思った時、溜息が出た。
静かにエレベーターが、止まる。
扉が開くと、千皇はエレベーターから出た。
自分の部屋のカードキーを取り出しながら歩き、玄関に差し込むと中に入る。
外からも見えたが、リビングが明るい。
そのまま無言で玄関を上がった。
リビングまで行くと、クッションを抱きしめて何やら静かにテレビを見ていた。
千皇はゆっくりカグヤに近付いた。
「おかえり……」
千皇の気配に気付き、カグヤは画面を見たままそう呟いた。
千皇は無言でカグヤの横に座る。
カグヤが見ていたのは、海外の特撮ヒーロー物だ。
「これ、何か面白くねぇんだ。もっと、バーン!て爆発したりさ、カッコイイポーズとったりもねぇし、怪人なんかも面白くねぇしさ」
画面を見ると着ぐるみではなく、特殊メイクとCGが満載だ。
ふーん、とだけ千皇は言った。
「……でも、……カッコ良くなくても、俺にはヒーローがいない」
ポツリとカグヤは呟いた。
「……お前が全てを終わらせるまで、抱くつもりはなかった。その間に、……俺の事も終わらせたかった」
千皇も画面に目を向ける。
「お前が行くなと言って行ったのは、……早く終わらせたかった。焦っては居たんだろ、俺らしくもねぇ 」
カグヤは黙って画面を観ている。
「……嫌な事ばかりで、悪かった」
目を合わせない千皇からの言葉に、カグヤは無言で目を見開いた。
悪かった、謝った千皇の事より、過去形なのが辛い。
何で過去形なんだろう。
自分は捨てられるのか?
目を見開いたまま、テレビから目が離せない。
ワガママばかりで、嫌になったのだろうか。
それとも、何も分からない、どうして良いか分からない、それが嫌なのか。
もし、千皇が自分を嫌になって結界も無くなったら捨てられてしまう。
自分がもっとハッキリした意志を持てたら良かったのだろうけど。
辛くても苦しくても、千皇の傍に居たいのに。
自分じゃない誰かとセックスしても、我慢するから……。
もし、精を取らなくなって、自分が衰弱したって構わない。
弟達を守りたいのもあるけど。
「次男には姫神、末っ子には関西が居る。……お前には」
そう言う千皇もこちらを見ない。
だけど、そっと優しくカグヤの肩に腕を回し、自分に引き寄せる。
俺が居るだろ、と最後まで言わない。
言われたら受け入れる覚悟がまだないが、言ってくれないのはもどかしい。
それでも、千皇の横に居ても良いのかと思うと、少しでも安心出来そうだ。
でも、その安心が怖い。
魔王だって大人しいのは今だけだろう。
いざ対峙したら、人間の千皇が不利だ。
いくらカグヤが魔王を弾く力があるくらいと言っても、それを浄化させる方法だってある筈だ。
最悪、直に魔王が千皇に手を下す事だって出来ない訳では無い。
そうなれば、自分よりもルシカやヨゾラだって不幸になってしまう。
自分は千皇の傍に居るだけで、何も出来ない。
役には立たない自分なんて、なんで一緒に居るんだろう。
考えてみれば、魔界も下界も心地よい場所ではないのに。
「……でも、また行くなって言っても行くんだろ」
ボソッと小さく、カグヤが呟く。
「まだ、終わらねぇと思う。……少なくとも、あの翠って奴は」
「……」
「俺と、……同じだ」
「待てが出来ねぇ分、お前と違う。お前は待っててくれる……」
監禁されているんだ、待つしかない。
「帰って来るのは、分かってるんだ。……待つしかねぇだろ。……誰かを抱きに行ってたとしても。そもそも、……俺は監禁されてんだ」
カグヤは千皇に肩を抱かれたまま、下を向いた。
感情が落ち着かないのか、自分の両足の指や甲を擦ったりしている。
「……アレとの付き合いは2年。俺がオーナーになる前だ。アレの母親が客で来ていた。……客で来ていた時は何度かアフターもしてたが」
アフターの意味は、何となく理解した。
カグヤの足が止まる。
「……単なる品定めをしていただけだ。息子に相応しい下の相手をな」
「そんな事して、……お前に何か良い事あんのかよ」
「店の売上にはなる。夜の店なんてそんなもんだ、って思ってたし、セックス自体興味も無かった」
性行為には嫌悪がある訳では無い様ではあるが、積極的では無いのも分かる。
そこに可愛い穴があれば楽しい弾とも違う。
「初めて、息子を連れて来た時に、良い予感はしなかった。……これから与えられるオモチャを見て、満足しているガキの目をしてた」
あんなに執着して居るのは、恋心じゃなかったのか?
千皇をオモチャとして見ていたなんて、信じられない。
どう見たって千皇の事は特別に見える。
「それでまんまとアイツらの作戦に乗っちまった。今みてぇに実力は俺には無かったし、2年我慢すりゃ終わる」
「……終わらないよ、……多分」
「契約やらなんやら、違反してたのはアイツらだ。俺は誠実に守って居たんだよ、これでも。一方的な契約とかでマウント取られたくもなかったし、こっちからも条件は出したけど」
「……条件?」
「俺を勃たせて一発抜かせたら挿れてやる。最後までは3割、薬飲まねぇと勃たねぇからめんどくせぇ時しか飲まねぇし。言っとくがインポじゃねぇ。アイツに興味すらねぇだけ」
元から、誰かに興味がある様な態度では無い。
楼依や佐藤に対しても、表情豊かになる訳では無いが、ほんの少し態度が和らぐのは、少なくても信頼があって、何だかんだと自分のワガママに付き合ってくれているからだろう。
しかし、興味すら無くなったら、自分も翠みたいな態度を取られるのかと思うと、胸が痛かった。
捨てられるより、興味が無くなるのは怖い。
「俺はアイツの一番お気に入りのオモチャ。それが他人に奪われるのが嫌なだけ。俺なんかより、暇人ヤクザのが楽しいだろうに」
確かにそうだろう。
作った笑顔でも、無表情で何も分からないよりは安心する。
オモチャと言えば、自分も魔王のオモチャだったのだろうか。
そう思うと、自分の今までが否定された様だ。
嘘でも、表情に出してくれたら。
でも、翠は少なくとも表情には出している。
オモチャと言うなら、翠の方じゃないのか?
「アイツと無駄な時間を過ごすなら、俺はお前と過ごす方が無駄じゃねぇんだけど」
「……でも、アイツだって……、お前が本気なら誰ともしねぇって」
「そんな事知るか。それはアイツの都合で俺じゃない。自分に俺が靡いた優越感が欲しいだけ」
自分に気持ちがないからと、なんでここまで否定するんだろう。
最初はオモチャでも、気持ちが揺らぐ事だってあるんじゃないのか。
「お前が俺に口付けして……、嫌がってたじゃん」
「俺がアイツとしたら、お前は喜ぶか?」
喜ぶわけない。
千皇の口付けは、優しくて気持ち良い。
目の前じゃなくても、誰かにしているなら、きっと今より訳が分からなくなってしまう。
カグヤは下を向いて、首を左右に振った。
「それならそれで良い。お前が気にする事じゃない」
気にするな、と言われても気になる。
恨めしげに睨む、雌の魔族の目を思い出した。
自分の方が上なのに、何でこんなちっぽけな奴がお気に入りなんだと、嫉妬で威嚇する様な目。
カグヤはふるっと身震いした。
「アイツには死んでも手に入らねぇモンを、お前はもう手に入れてんだ。……我慢は、もうしばらく続くだろうけど」
翠には手に入らないモノを、自分は持っている……、なんの事なんだろう。
「だから、お前はふてぶてしく笑っとけ」
抱き寄せられた肩を、ぽんぽんと軽く叩いた。
そんな事言っても……。
「笑えるわけねぇだろ……。俺はまだ、……どうして良いか分からねぇのに、簡単に言うなよ……」
「お前がしたい事を言えば良い」
セックスしたいって言ってもしてくれないのに。
行くなと言っても、行くのに。
言葉にはして来た。
「……言っても、お前は違う事するじゃねぇか」
「理由、ちゃんと言わねぇだろ」
「言えるわけねぇだろ……。自分でも分かってねぇのに」
「思ったままを言えば良い。お前が分からねぇ事も、説明は出来る。納得するかは別として」
今まで、当たり前だが魔王には言いたい事も言えないで居た。
老人にでさえ。
言ってしまえば楽と引き換えに、弟達がどうなるか分からないし、言いたい事などないのが当たり前みたいになっていた。
千皇と魔王は違う。
それでも、自分が思った事がワガママと言うのも分かっている。
「ちゃんと言ってくれねぇと、俺の自惚れで終わっちまう」
千皇には言いたい事を言って良いのだろうか。
弟達に危害がないのは分かっている。
でも、モヤモヤもグルグルも無くしたい。
本来の自分を取り戻したい。
「……俺は、……」
カグヤは両膝を抱いた。
「……汚い?」
弾から言われた言葉は、ずっとカグヤを支配していた。
「俺、ずっと好きだった、交尾するの……。そう、仕込まれて居たとしてもさ……。今でも、身体が反応するんだ……、だから……」
「汚ぇと思うなら、俺もだろ。散々いろんな奴、抱いてきたんだ。弾なんか特に」
「……仕方のねぇ事なのか?……俺は、反応したくねぇのに……」
「お前が、好きで今してぇんじゃねぇなら、いちいち汚ぇとか思わねぇよ」
千皇にとって自分は汚くない、そう自分の良い様に解釈して良いのだろうか。
「だって、……抱かれたら、嫌でも反応しちまう……」
「お前を他の奴に抱かせるつもりはねぇぞ」
カグヤはその言葉に驚いた。
「腹が減らねぇならそれで良いだろ?それが俺のせいなら、俺の傍に居れば良いだけだ」
躊躇いもなくそう言う千皇の横顔をチラッと見上げる。
千皇は相変わらず、テレビを見ていた。
「……セックスしてくんねぇじゃん」
目線を床に落として、カグヤは呟いた。
「したじゃねぇか」
「あれは、……グルグルしてたし、……一方的で、ちゃんとしてねぇ……」
モゴモゴと言うカグヤに、千皇はそうか、と呟いた。
「そのうちちゃんとしてやんよ。だから、ちゃんと思った事は言え」
ぶっきらぼうに言う千皇に、カグヤは戸惑いながらもほんの少しだけ擦り寄った。
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