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知識とハジメテと
02
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久しぶりに戻ったヨゾラの住む自宅は、グラディエットしか居らず、しんと静まり返っている。
気を利かせたのか、グラディエットすらベランダに出てしまって居るので、実質は二人きりだ。
ヨゾラは魔界でのパジャマ的な服だろうか、羽とシッポが自由に動かせる様に背中が腰の際どいラインまでパックリ開いた短いワンピースの様な服装だった。
ヨゾラが魔族と知った時から、夜は羽を広げて寝る為、散々見ては来たと言うのに、気持ちに気付いてしまった以上は直視出来ない。
ヨゾラの部屋で、一度も顔が上げられないでいた。
6畳の部屋に、ベッドに座るヨゾラと、やや中央に胡座をかいて座る真幸との距離が遠く感じる。
真幸は下を向くと、深く息を吐いた。
「……まぁ、……俺より先に常磐先輩が居った事にヤキモチを妬いてもうた」
両膝に手を付き、頭を下げたまま真幸は先に口を開いた。
「……ヤキモチ?」
ヨゾラは首を傾げる。
「どんな形であれ、お前が誰かと二人きりとか嫌やってん。……常磐先輩に下心がなかったとしても」
……いや、確実にあったやろな、と少し間を置いて真幸は呟いた。
「ここ出て行って、姫神兄さんに逢うて、姫神兄さんに来いって言われて迅人選んだんは、後悔しとる」
ヨゾラは黙って真幸の話に耳を傾けた。
「……頭に残るんはお前やし、お前にしとった事迅人にすりゃお前が浮かぶし……。求められた時は……、一瞬お前に見えた。……抱いとらんけど」
「……抱いてくれた、って……、唐島君が言ってた。……だから、真幸を自分にくれ、……って」
ここでヨゾラは小さい声で、そう言った。
あぁ、だからあの朝は楼依と一緒に居たのか、と真幸は理解した。
「近い事はしただけや。一回したら大人しくなるんか、ヨゾラ思うたらイけるんちゃうか、とかいろいろ考えたわ。最後までしとらん」
「……」
「もし、迅人に気持ちがない程度やったら、最後までしとったと思う。……せやけど、大金積まれても、もう簡単には出来ひんわ」
ヨゾラの動悸が激しくなる。
熱のせいでは無いが、熱のせいにしたいくらいに。
「お前が、ジィさんにしろ常磐先輩にしろ、事情があったにしろ、最後までしてへんにしろ、ぶっちゃけ嫌やった。……でも」
そこまで言うと、真幸はもう一度深く深呼吸をした。
「……キスを強要された時、常磐先輩やのうて俺を選んでくれたんは、安心したし嬉しかった」
下を向きながらそう言う真幸に、ヨゾラは目を丸くした。
あの時、ヨゾラも真幸が常磐とするのは嫌だった。
常磐が真幸に不意打ちキスをした時も、言葉よりも先に身体が動いたのも何となく理解が出来た。
真幸と同じ感情なのに、言葉が出ない。
真幸はちゃんと素直に話してくれていると言うのに。
「性行為も好きな奴とヤれ言うとって、自分がそれに反するゆうのも情けない話や思う。どの面下げて話しとんねん、思うと思うんやけど」
それはつまり、真幸は自分に好意がある、と言う事なのはグルグルする頭の中で理解は出来た。
でも真幸の好意は、友達の中では特別で、ルシカや楼依の様なお互いの中の一番特別、なのだろうか。
そこがはっきり分からない。
「お前の熱が、淫魔になる為の熱やとしたら……、淫魔になった時耐えれる自信もない。ぶっちゃけ、神代兄さんや姫神兄さんみたいになる自信もない」
ゆっくりと話す真幸から、自信の無さが伝わる。
兄達は淫魔になってから、千皇と楼依に出逢った。
だからきっと今も不安はあるだろう。
でもそれ以上に、おぞましく自分が乱れて周りの雄共を欲しがり、冷たい態度の真幸でさえも欲情したあの夢が現実になるのかも知れない恐怖が、ヨゾラの全身を冷たく包んだ。
熱が高いのに、身体は寒い。
思わず腕を摩る。
ヨゾラが自分の腕を摩る動きが、チラッと見えた真幸は顔を上げた。
真幸は目を丸くする。
「……お前、……羽の色」
目を丸くしながら、真幸が呟いた。
ヨゾラは少しだけ振り向くと、羽の色が違う事に驚いた。
真っ黒では無い。
真っ白でもないが、羽の先は白っぽく、根元に掛けて黒に近いグレーにグラデーションとなっている。
部屋に入った時はまだ真っ黒だったと思う。
「……な、何で」
ヨゾラは羽を掴むと、そう呟いた。
「神代兄さんの部屋に結界を張る時も、お前だけは羽の色もオーラもちゃうかった。お前に貰うた羽も、色がグレーに変わっとった」
真幸がそう言うも、自分の変化に頭が追い付かない。
信じられない。
と共に、兄達は羽は真っ黒なままなのに、自分だけ違う色と言うのに恐怖した。
これは多分天界の血が濃いからなのだろが、兄達を差し置いて自分だけ、と申し訳なさも出て来た。
ルシカもエルドラもずっと一緒に居たのに気が付かなかったのだろうか。
それとも、気づいても言わなかっただけなのだろうか。
自分だけ天使の様な羽に、兄達は自分を嫌うんじゃないか、と不安も膨れ上がる。
特にカグヤはルシカが楼依と結ばれて、心が不安定になった。
もっと、不安定にさせるんじゃないか、と思うと全身が更に寒くなる。
千皇や楼依だって、魔族よりも天使の方が良いはずだ。
それぞれの関係が壊れるのは、一番嫌だ。
「……ヨゾラ?」
ヨゾラの強ばった表情に、真幸は手を伸ばし掛けた。
ヨゾラはそれを拒否る様に、両膝を抱え顔をそこに埋めた。
カグヤだってルシカだって、魔族の黒い羽より天使の白い羽の方が良いだろうし、きっと似合うだろう。
仕方ないとか、良かったとか、きっと兄達は言ってくれるだろうが、それが本心じゃなかったら、……心が苦しい。
もし、真幸の気持ちを受け入れて、それがきっかけで真っ白にでもなってしまったら、楼依の気持ちを受け入れてるルシカは、どう思うのだろうか。
カグヤが千皇を受け入れて、羽が白くなったら余計に……。
今まで性行為が好きで、でもその根本は弟達を生かせたいのが1番にあって、ボロボロにされてまで頑張って来たカグヤだ。
ルシカよりもカグヤに申し訳ない。
真幸との記憶が無くなれば、羽も黒くなるだろうか。
でも、真幸ではなく別の雄に惹かれたなら、また羽は白に変化して行くのだろうか。
真幸の気持ちをどんな形であれ受け入れても、
記憶は真幸と出逢う前までか、真幸の事だけかとにかく「神崎真幸」と言う人物の存在そのものが消えてしまうのは、決定なのだ。
記憶が無くなった自分をそれでも支えるだろうが、そこまでは信じられない。
いっそう忘れてしまうなら、覚えてる今のうちに……、そう思うも。
「……酷いよな。……俺だけどうしようも出来ねぇの。羽の色も……、兄さん達と違うし、……これから記憶消されるのに、……何も言葉も出ねぇ……」
「……」
「このままじゃ、記憶を消しても俺自身消えるんだ。……だけど、どうせ何もかも消えるなら……、最後くらいは、俺だって……」
消えるのも、生きるのも怖い。
自分は何の為に今まで存在していたのかも分からない。
何をしても、勉強やいろんな調べ物をしたって、役にも立たなかった。
もし、先に誰かと交わったら、まだ生きられたのだろうか。
下界に来たのも、自分のワガママだって言うのに。
「お前の存在は消させへん。……何とか出来る様、俺も考えたる」
「お前は、記憶は残るじゃねぇか……」
「せやからや。覚えとるから何とか出来る」
「唐島君だって、……消えるのは俺の正体だけだ」
「どんなんアプローチされようが、もう気にせえへん。記憶無くても、俺はお前の傍を離れる気はないで」
両膝を抱えているヨゾラの手に、真幸はそっと手を添えた。
「ウザいくらい、ヨゾラの周りに張り付いたるわ。……ヨゾラが嫌や言うても」
ヨゾラの手がピクリと動いた。
「……俺、……お前が居ねぇと生きて行けない」
ポツリとヨゾラが呟く。
「そないな事、とうの昔から知っとるわ」
そう言った真幸は、笑っている気がする。
「お前の事、忘れるのは嫌だ……。兄さん達と、羽の色が違う事も……」
「兄さんらの事は兄さん達で何とかするやろ」
「淫魔になっちまうかもしれねぇし……」
「ならへんかも知れへん」
重なった手が握られた。
「……この熱が、淫魔になるきっかけかもしれねぇんだ。淫紋は、出てねぇけど……。俺の記憶が消えるなら、淫紋が出てからがいい……」
「出来れば出て欲しくないんやが」
「俺が消えたら、……真幸は俺を探せねぇだろ?」
声は弱い。
でも、悲しげに小さく笑っている様だ。
「消えさせへん言うとるんに」
「熱が下がる方法、知ってるのかよ……?」
「それが完全に冷ます方法かは分からへん。可能性の一つやろ」
「……真幸は、良いのかよ」
「ヨゾラの気持ち次第や」
真幸はヨゾラの手を握ったまま、もう片方はヨゾラの頭を撫でた。
「迅人を抱かへんかったんは、お前が嫌いでチラついたんやない。ヨゾラがえぇと思うとるから、抱かんかった。うっかり元気になってまうんは、お前の事を考えてまうからや」
「……何だよ、元気って」
「まだまだガキやからな、俺は」
元気になる意味が分からないが、何だか安心する。
「出来れば、……俺じゃないと嫌や、って思うてくれたらそれでえぇ。一方的に言うても押しとるようで嫌やし」
多分、言いたい事は理解出来ている。
理解出来ているのに、不安が拭えない。
思っている事を言ったら、それはちゃんと真幸は教えてくれるだろうが、今までの自分じゃなくなりそうで。
思ってくれたらいい、でも言わないとならないのも分かっている。
何を言えば良いのか、分からない。
ただ、任せるなら真幸がいい。
真幸じゃないと、嫌だ。
でも、淫魔にならないかもしれない。
一時的に熱が下がって、少しだけ時間が伸びるだけかもしれない。
よくよく考えれば、かなり酷な事だ。
「頼るなら、俺を頼ってくれへんか?……兄さんらに比べたら頼りになれへんかもしれんけど」
どの道、時間は少ない。
それならば……。
「……真幸じゃないと、……嫌だ」
そう呟いたヨゾラは、少しだけ身体も心も軽くなった気がした。
気を利かせたのか、グラディエットすらベランダに出てしまって居るので、実質は二人きりだ。
ヨゾラは魔界でのパジャマ的な服だろうか、羽とシッポが自由に動かせる様に背中が腰の際どいラインまでパックリ開いた短いワンピースの様な服装だった。
ヨゾラが魔族と知った時から、夜は羽を広げて寝る為、散々見ては来たと言うのに、気持ちに気付いてしまった以上は直視出来ない。
ヨゾラの部屋で、一度も顔が上げられないでいた。
6畳の部屋に、ベッドに座るヨゾラと、やや中央に胡座をかいて座る真幸との距離が遠く感じる。
真幸は下を向くと、深く息を吐いた。
「……まぁ、……俺より先に常磐先輩が居った事にヤキモチを妬いてもうた」
両膝に手を付き、頭を下げたまま真幸は先に口を開いた。
「……ヤキモチ?」
ヨゾラは首を傾げる。
「どんな形であれ、お前が誰かと二人きりとか嫌やってん。……常磐先輩に下心がなかったとしても」
……いや、確実にあったやろな、と少し間を置いて真幸は呟いた。
「ここ出て行って、姫神兄さんに逢うて、姫神兄さんに来いって言われて迅人選んだんは、後悔しとる」
ヨゾラは黙って真幸の話に耳を傾けた。
「……頭に残るんはお前やし、お前にしとった事迅人にすりゃお前が浮かぶし……。求められた時は……、一瞬お前に見えた。……抱いとらんけど」
「……抱いてくれた、って……、唐島君が言ってた。……だから、真幸を自分にくれ、……って」
ここでヨゾラは小さい声で、そう言った。
あぁ、だからあの朝は楼依と一緒に居たのか、と真幸は理解した。
「近い事はしただけや。一回したら大人しくなるんか、ヨゾラ思うたらイけるんちゃうか、とかいろいろ考えたわ。最後までしとらん」
「……」
「もし、迅人に気持ちがない程度やったら、最後までしとったと思う。……せやけど、大金積まれても、もう簡単には出来ひんわ」
ヨゾラの動悸が激しくなる。
熱のせいでは無いが、熱のせいにしたいくらいに。
「お前が、ジィさんにしろ常磐先輩にしろ、事情があったにしろ、最後までしてへんにしろ、ぶっちゃけ嫌やった。……でも」
そこまで言うと、真幸はもう一度深く深呼吸をした。
「……キスを強要された時、常磐先輩やのうて俺を選んでくれたんは、安心したし嬉しかった」
下を向きながらそう言う真幸に、ヨゾラは目を丸くした。
あの時、ヨゾラも真幸が常磐とするのは嫌だった。
常磐が真幸に不意打ちキスをした時も、言葉よりも先に身体が動いたのも何となく理解が出来た。
真幸と同じ感情なのに、言葉が出ない。
真幸はちゃんと素直に話してくれていると言うのに。
「性行為も好きな奴とヤれ言うとって、自分がそれに反するゆうのも情けない話や思う。どの面下げて話しとんねん、思うと思うんやけど」
それはつまり、真幸は自分に好意がある、と言う事なのはグルグルする頭の中で理解は出来た。
でも真幸の好意は、友達の中では特別で、ルシカや楼依の様なお互いの中の一番特別、なのだろうか。
そこがはっきり分からない。
「お前の熱が、淫魔になる為の熱やとしたら……、淫魔になった時耐えれる自信もない。ぶっちゃけ、神代兄さんや姫神兄さんみたいになる自信もない」
ゆっくりと話す真幸から、自信の無さが伝わる。
兄達は淫魔になってから、千皇と楼依に出逢った。
だからきっと今も不安はあるだろう。
でもそれ以上に、おぞましく自分が乱れて周りの雄共を欲しがり、冷たい態度の真幸でさえも欲情したあの夢が現実になるのかも知れない恐怖が、ヨゾラの全身を冷たく包んだ。
熱が高いのに、身体は寒い。
思わず腕を摩る。
ヨゾラが自分の腕を摩る動きが、チラッと見えた真幸は顔を上げた。
真幸は目を丸くする。
「……お前、……羽の色」
目を丸くしながら、真幸が呟いた。
ヨゾラは少しだけ振り向くと、羽の色が違う事に驚いた。
真っ黒では無い。
真っ白でもないが、羽の先は白っぽく、根元に掛けて黒に近いグレーにグラデーションとなっている。
部屋に入った時はまだ真っ黒だったと思う。
「……な、何で」
ヨゾラは羽を掴むと、そう呟いた。
「神代兄さんの部屋に結界を張る時も、お前だけは羽の色もオーラもちゃうかった。お前に貰うた羽も、色がグレーに変わっとった」
真幸がそう言うも、自分の変化に頭が追い付かない。
信じられない。
と共に、兄達は羽は真っ黒なままなのに、自分だけ違う色と言うのに恐怖した。
これは多分天界の血が濃いからなのだろが、兄達を差し置いて自分だけ、と申し訳なさも出て来た。
ルシカもエルドラもずっと一緒に居たのに気が付かなかったのだろうか。
それとも、気づいても言わなかっただけなのだろうか。
自分だけ天使の様な羽に、兄達は自分を嫌うんじゃないか、と不安も膨れ上がる。
特にカグヤはルシカが楼依と結ばれて、心が不安定になった。
もっと、不安定にさせるんじゃないか、と思うと全身が更に寒くなる。
千皇や楼依だって、魔族よりも天使の方が良いはずだ。
それぞれの関係が壊れるのは、一番嫌だ。
「……ヨゾラ?」
ヨゾラの強ばった表情に、真幸は手を伸ばし掛けた。
ヨゾラはそれを拒否る様に、両膝を抱え顔をそこに埋めた。
カグヤだってルシカだって、魔族の黒い羽より天使の白い羽の方が良いだろうし、きっと似合うだろう。
仕方ないとか、良かったとか、きっと兄達は言ってくれるだろうが、それが本心じゃなかったら、……心が苦しい。
もし、真幸の気持ちを受け入れて、それがきっかけで真っ白にでもなってしまったら、楼依の気持ちを受け入れてるルシカは、どう思うのだろうか。
カグヤが千皇を受け入れて、羽が白くなったら余計に……。
今まで性行為が好きで、でもその根本は弟達を生かせたいのが1番にあって、ボロボロにされてまで頑張って来たカグヤだ。
ルシカよりもカグヤに申し訳ない。
真幸との記憶が無くなれば、羽も黒くなるだろうか。
でも、真幸ではなく別の雄に惹かれたなら、また羽は白に変化して行くのだろうか。
真幸の気持ちをどんな形であれ受け入れても、
記憶は真幸と出逢う前までか、真幸の事だけかとにかく「神崎真幸」と言う人物の存在そのものが消えてしまうのは、決定なのだ。
記憶が無くなった自分をそれでも支えるだろうが、そこまでは信じられない。
いっそう忘れてしまうなら、覚えてる今のうちに……、そう思うも。
「……酷いよな。……俺だけどうしようも出来ねぇの。羽の色も……、兄さん達と違うし、……これから記憶消されるのに、……何も言葉も出ねぇ……」
「……」
「このままじゃ、記憶を消しても俺自身消えるんだ。……だけど、どうせ何もかも消えるなら……、最後くらいは、俺だって……」
消えるのも、生きるのも怖い。
自分は何の為に今まで存在していたのかも分からない。
何をしても、勉強やいろんな調べ物をしたって、役にも立たなかった。
もし、先に誰かと交わったら、まだ生きられたのだろうか。
下界に来たのも、自分のワガママだって言うのに。
「お前の存在は消させへん。……何とか出来る様、俺も考えたる」
「お前は、記憶は残るじゃねぇか……」
「せやからや。覚えとるから何とか出来る」
「唐島君だって、……消えるのは俺の正体だけだ」
「どんなんアプローチされようが、もう気にせえへん。記憶無くても、俺はお前の傍を離れる気はないで」
両膝を抱えているヨゾラの手に、真幸はそっと手を添えた。
「ウザいくらい、ヨゾラの周りに張り付いたるわ。……ヨゾラが嫌や言うても」
ヨゾラの手がピクリと動いた。
「……俺、……お前が居ねぇと生きて行けない」
ポツリとヨゾラが呟く。
「そないな事、とうの昔から知っとるわ」
そう言った真幸は、笑っている気がする。
「お前の事、忘れるのは嫌だ……。兄さん達と、羽の色が違う事も……」
「兄さんらの事は兄さん達で何とかするやろ」
「淫魔になっちまうかもしれねぇし……」
「ならへんかも知れへん」
重なった手が握られた。
「……この熱が、淫魔になるきっかけかもしれねぇんだ。淫紋は、出てねぇけど……。俺の記憶が消えるなら、淫紋が出てからがいい……」
「出来れば出て欲しくないんやが」
「俺が消えたら、……真幸は俺を探せねぇだろ?」
声は弱い。
でも、悲しげに小さく笑っている様だ。
「消えさせへん言うとるんに」
「熱が下がる方法、知ってるのかよ……?」
「それが完全に冷ます方法かは分からへん。可能性の一つやろ」
「……真幸は、良いのかよ」
「ヨゾラの気持ち次第や」
真幸はヨゾラの手を握ったまま、もう片方はヨゾラの頭を撫でた。
「迅人を抱かへんかったんは、お前が嫌いでチラついたんやない。ヨゾラがえぇと思うとるから、抱かんかった。うっかり元気になってまうんは、お前の事を考えてまうからや」
「……何だよ、元気って」
「まだまだガキやからな、俺は」
元気になる意味が分からないが、何だか安心する。
「出来れば、……俺じゃないと嫌や、って思うてくれたらそれでえぇ。一方的に言うても押しとるようで嫌やし」
多分、言いたい事は理解出来ている。
理解出来ているのに、不安が拭えない。
思っている事を言ったら、それはちゃんと真幸は教えてくれるだろうが、今までの自分じゃなくなりそうで。
思ってくれたらいい、でも言わないとならないのも分かっている。
何を言えば良いのか、分からない。
ただ、任せるなら真幸がいい。
真幸じゃないと、嫌だ。
でも、淫魔にならないかもしれない。
一時的に熱が下がって、少しだけ時間が伸びるだけかもしれない。
よくよく考えれば、かなり酷な事だ。
「頼るなら、俺を頼ってくれへんか?……兄さんらに比べたら頼りになれへんかもしれんけど」
どの道、時間は少ない。
それならば……。
「……真幸じゃないと、……嫌だ」
そう呟いたヨゾラは、少しだけ身体も心も軽くなった気がした。
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