あなたとの時間

あなたとの時間 同衾

次の同人誌即売会で、私たちは、河原千津絵と出会った。

同じ『ことりちゃん』の二次創作をしていて、上京してきていた社会人だったが、まだ若くて
「ちーちゃん…って呼んでー？」
と気さくに話してくれた人だった。

ちーちゃんは『ことりちゃん』にでてくる、あるBLカップリングが大好きで、BLとは、男性同士の恋愛漫画や、恋愛小説をいうことだった。
つまりは、百合とは反対の恋愛要素を持ったものが好きだったのだが、同時に雑食だった私と真理子は、なんの違和感もなく受け入れることができた。


そんなある日のことだった。
ちーちゃんから電話がかかってきて
「11月1日、ふたりとも暇ー？良かったら迎えに行くから泊まりに来ない？」
というお誘いを受けた。

ちーちゃんは、普通にノーマルな恋愛を好む人で、レズビアンでもゲイでも、バイでも、トランスジェンダーでもなく、単純に漫画や小説だったら、どんなカップリングでも好き！！！という人だったから、集めた同人誌を読みに来ない？と持ちかけて来たのだった。


翌日が日曜日ということもあって、私と真理子は、揃って
「行きます！！！ぜひ、同人誌読ませてください！！！」
と、断わる気もなく、ちーちゃんのアパートへ泊まりに行くことになった。



都内、といっても練馬の外れにあったそのアパートは、古びていて、2LDKというわりには、かなりの狭さでトータルで8畳あるかないかだった。
ほとんど1Kと言っても過言ではないほどで、何か出てきそうな雰囲気さえあった。


そんな中でちーちゃんと、ちーちゃんの友だち（同人仲間）と私と、真理子の4人がひしめき合って、同人誌をかわるがわる読み続けていた。


私は、まだ、ちーちゃんに会ったばかりで、人見知りが激しかったので、真理子もそれは同じらしく、あまり話せもせずに、黙々と漫画や小説を読んでるだけになっていた。
ちょっとしたコミュ症なのかもしれない。


そんな中で、布団が四人分無いから、ちーちゃんとその友だち、私と真理子は一つの布団で寝ることになってしまった！！！


好きなことも知られてるのに（好きだったこと？も知られてるのに）更にはリトライしようとしてるのに、それもせずに私は真理子と同衾してしまうの！？？
　咄嗟にそんな考えが浮かんで、ドキドキして止まらなくなった。


それに。



それに、もし、真理子が寝たら、キス…して「好きだよ」と伝えられるかもしれない？？？



そんな望みまでもが浮かんで、ますます、夜は眠れなくなってしまった。


だって、私が後から寝れば、真理子へのその野望が叶う確率はぐんと上がるからだ。

だが、真理子も何を考えてるのか、私の考えはお見通しなのか、一向に寝ようとしない…。
　仕方なしに、しびれをきらした私は
「先に寝ますねー。おやすみなさい！」
と、ちーちゃんとちーちゃんの友だち、真理子に伝えて、早く布団に入った。

そして、眠らずにドキドキと待っていたのだ。
真理子が、来るのを。


ところが、真理子は私が寝て10分ほどして、横に入ってきたが、横を向いて寝てしまった。

それでは、私が動いたら真理子を起こしてしまう。
それにちーちゃんとその友だちに、私が真理子にキスしたり、告白したりするのを見られたらそれこそマズイ！！！

そう、思うとキスも告白も出来なくなってしまった。



そして、一晩中ドキドキしながら眠れない夜を過ごしたのだ。
　夜が開けたら私は寝不足になっていた。

こんなことで、リトライできるのか！？？
不安に駆られながらも、気持ちは、消すことができずに、数日間が経ってしまった。



数日後、学校では自由課題がでることになった。
真理子と私は、何を言うわけでもなく、ユニットを組むことになった。
これからしばらくは、ふたりっきりで練習をする機会が増える。


私の心は完全にリトライする方向に向いていた…。