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新イベントの知らせ

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チュンチュンと鳥の囀りが聞こえて、ボーッとしながらボサボサになった髪を触る。
今日の寝癖は凄いな…もうちょっと寝ようかな。

そう思ってベッドに吸い込まれるようにして倒れた時だった。

コンコンと家のドアが叩かれて、俺の代わりに影ゼロがドアに向かった。
なんで当たり前のようにお前が出るのか分からない。

影ゼロが開けるとそこには誰もいなかった。
ベッドから覗いていたら、影ゼロはなにかを咥えて持ってきていた。
それはチラシのようで、目に痛いピンク色でハートが散りばめられている。

ヤバいチラシじゃないだろうな…影ゼロからチラシを受け取って見てみた。
いや、確認するだけだし…俺の部屋の前にあったから一応確認だ。
と、誰に言うわけでもない言い訳をしていた。

ドアを叩いたのは風だったのかな、今日は風強いからな。
それでこの紙も飛んできたのかもしれないな。

その紙は、新しいイベントのチラシのようだ。

今回のイベントは恋愛系のイベントみたいだった。
恋愛系のイベントはよくやっていたから知っている。

これは俺の本領発揮のイベントだ!これでレイチェルちゃんと急接近!
こういうイベントで仲良くなった事はないけど……そういうイベントなのに意味がないのは分かってるけど!

このイベントは料理系のイベントもあって、バレンタインのようなものだ。
好きなNPCにイベント限定の料理を渡し続けると特別なストーリーが読めるというもの。

レイチェルちゃんに料理を渡すと難攻不落NPCらしく、全然特別ストーリーを見れなかった。
こういうイベントって、いつもより攻略しやすい筈なんだけどな。

「これは現実だからレイチェルちゃんと仲良くなれるかな」

心の声がちょっと漏れただけで、影ゼロが俺をどついていた。
痛いな、お前はブライドと仲良くしてればいいだろ!

また拗ねているみたいになって凄い嫌で、チラシを壁に貼った。
これでイベント開始日時を忘れないな。

後はイベントのための料理の材料を集めようかな。
風強いから明日からね…とベッドに再び眠りについた。

料理の材料は王都で買う事も出来るが、専用の魔物が出没する場所でも手に入る。
後は魚釣りとか畑でも手に入るけど、俺…畑は持ってないんだよなぁ。
マメに水やりしたり収穫したりするタイプじゃないし…
そんな暇があったらレイチェルちゃんとお話したかったし…

畑の野菜は野菜型の魔物を倒せば手に入るし、レベルも上がるから野菜型の魔物を倒した方が効率がいい。
だから今まで畑は持っていないし、その考えを変えるつもりはない。

明日、野菜を収穫するために野菜の楽園に出発する。
名前はアレだけど、強さは様々いる野菜の魔物がいる場所だ。

影ゼロがずっと不満げに俺を見ているが無視した。
邪魔されないように、影ゼロを縛って出発するか…でもどうやって影を縛るんだ?

謎を抱えたまま、いつの間にか眠りについていた。






ーーー

魔法陣に乗って野菜の楽園に向かって揺れていた。

そんなに遠くではないけど、なんだろう…なんかいつもより魔法陣の速さが遅い日だな。
下を見ると、その理由がすぐに分かって魔法陣を消した。

「何やってんだ」

下を見ると、影ゼロが引きずられていて草と土まみれになっていた。
影なんだから実体がない筈なのに、なんでこんな事になってるんだ?

影ゼロの土や草を払ってやろうと思って、手を伸ばした。
しかし、逃げるようにして影ゼロは俺の影の中に引っ込んでしまった。

俺は影の中に入れないから、そのまままた魔法陣を出そうと思った。

手をかざしてみるが、空気みたいなのがカスッとなにかが出た。

「あ、あれ…もう一度…」

何度か試してみて、カスッモクッボワッとした音しか出なかった。

魔法陣を出そうとするだけで体力が削られていて疲れた。
ため息を吐いて、地面に座って休憩する事にした。

ここって何処らへんだろう、野菜の楽園まで遠くないとはいえ魔法陣で行けばという事だ。
普通に歩いたら時間が掛かる、それにここは何処なんだろう。

とぼとぼ歩いていても、野菜の楽園すら見えない。

あれ?この道で合ってるよね、あれ、こっちだっけ……それとも…

「どうしよう、また迷子か」

なんで俺はいつも迷子になるんだよ!マップがないからだ!ゲームみたいに常にマップを載せてくれ!

こんなところで訴えても風になって消えていった。

ヤバいな、野宿なんてするつもりなかったから何の準備もしていない。

周りを見ても、街どころか小さな村もない。

もし歩き続けて野菜の楽園に入ったとしても、帰る頃には夜になる。
だったら帰って出直すかな、今MPがないから魔法陣が使えないみたいだし…HP回復の対策はしてたがMPは自然回復するから持ってきていない……一番の理由は金欠だからだけど…

ここで自然回復を待っているより歩いた方が早い。
疲れるが、これも筋トレだと思えば何ともない!

走ってレベルが上がるなんて聞いた事はないけど…

影ゼロが俺の影から出てきて、後ろに乗れと言いたげな顔をしていた。
普通に断って、そのまま来た道を進んでいた。
影ゼロに乗るとまたゼロのところまで運ばれる、今は会いたくない。
意地になってると思うが、俺は意地で全然構わない!とにかく会いたくないんだから…

風が強くなっていき、昨日の風がまだ大人しくなっていないんだと分かる。
土が風によって抉れて、激しく舞って前が見えなくなった。

身体も飛ばされてしまいそうになり、なにかを掴もうと手を伸ばした。
周りには何もないのは分かっているが、なにかにしがみつかないとヤバいと思った。

その時、誰かに腕を掴まれて引っ張られた。

「うわっ!?」

「ツカサ!」

風が止むまでずっと腕を掴まれていて、風がだんだん落ち着いてきてゆっくりと目を開けた。
そこにいたのはゼロだった、砂や草まみれのゼロは何処かの影に似ていた。

こんなところにゼロがいるわけない、影がゼロの姿になっただけだと思った。
しかし、影ゼロは俺の影から少しだけ顔を出していた。
相変わらずオバケみたいな真っ黒な見た目をしている。

じゃあ目の前にいるのは本物のゼロって事か?

「なんでこんなところに」

「影を通してツカサに会いに来た」

あー、そういえばそんな事出来るんだっけ…忘れてた。

今は会いたくないって思ってたのに、なんで来るんだよ。
さっきは引っ張ってくれたから、ありがたかったけど…

小さな声で「…ありがとう」と言った、とりあえずお礼は言わないとな。
ゼロは首を傾げていた、聞こえなかったのかと思ってまた言ってみた。

しかし、ゼロはまた首を傾げていて…こうなったらヤケクソになっていた。

「あ、ありがとうって言ってんだよ!…というか、何しに来たんだよ」

「誤解を解くために来た」

「…誤解?別に何も誤解なんて…」

「ブライドの事」

ゼロの口からブライドの名前を聞いてドキリとした。
別に見たまんまなんだから誤解なんてしてない。

ゼロは俺の手を取って、自分の胸元に手を当てていた。
俺とは違う硬い筋肉で羨ましい……自慢かこの野郎。

手を離してほしかったのに、ゼロは俺の手を強く握っていた。
何をしても手を離してくれなくて、MPもない俺はすぐに疲れた。

「な、何だよ…別にお前らがどうなろうと関係ねぇって…」

「俺は嫌だ、ツカサに誤解されたくない…ツカサが好きだ、愛してる」

「ブライドにも同じ事言ってるくせに、もういいって俺は何とも思ってねぇから」

「何とも思ってない?」

「当たり前だろ!俺はお前の事なんか…」

「好きじゃない」と言おうとした言葉を飲み込んだ。
ゼロがあまりにも悲しい顔をするから、何も言えなくなる。

ずっと言ってただろ、なんでそんな顔するんだよ。

ゼロのために、はっきり自分の気持ちを言った方がいい…うやむやにするのは酷だ。
俺はゼロに向かって「俺はゼロの事を好きにならない、だから…ごめん」と言った。

頭を下げると、ゼロは少しの間…何も喋らなかった。

「俺の方こそ、ツカサに迷惑掛けたな」

「……いや、その…」

「何処か行きたい場所があるなら、影に伝えてくれたらそこまで連れて行ってあげられるから」

「そこまで迷惑は…」

「俺のお詫びだから、ごめん…ツカサ」

ゼロはそう言って、自分の影の中に入った。
自分の影というか、俺の影だけど…きっと来たところに戻ったのだろう。

まさか、あんなに傷付けるとは思っていなくて驚いた。
いつもは訳の分からない事を言ってまで自分の都合のいい解釈をするのに…

告白を断るとどうしても傷付いちゃうのは当然だ。

自分で言っといて、自分が傷付くなんて自分勝手だよな。
心配そうな顔をして、影ゼロは俺を見ていて俺は首を横に振った。

「一人で歩きたい気分だから、ごめんな」

そう言うと、影ゼロは俺の影の中に入っていった。

その日俺は、自分の家に到着したのは夜遅くだった。

そのまま眠って、明日…また出かける気分にもならずイベント当日は手持ちの材料で勝負する事にした。
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