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第3章 王都騒乱編

第10話 役割分担

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 ミルクからのピンチコールが来てちょっと焦ったけど、内容を聞いたら全く危険は無かった。

 最近太ったからお菓子を禁止にされそうだとか、どうでも良いって! いや、本人にしてみたら死活問題かも知れないけどさ、今の状況考えて【念話】を送って欲しい。

 お陰で、シルクとの初会話が謝罪の言葉になってしまった。

〈すみません。すみません。うちのミルクがすみません〉

 とか【念話】が届いてミルクを怒るに怒れなかった。

 まあ、でも大事に至らなくて良かったよ。


「さて、この後どうするんじゃ?
 ワシは1回神殿に戻り、神殿としての対応の指揮をとる必要がある。しばらくは別行動じゃな」

 とりあえずダンジョンの閉鎖、それと近隣の魔物の調査の依頼を終えたゼムスさんがそう切り出した。

「僕はまずシルクと合流したと思います。調査のクエストに参加するにしても、ガルム隊がいたら色々と対処しやすいと思いますので」

「私はバカな兄弟たちの調査かしら? 召喚された勇者について調べないとね」

 リーナさんは王城の調査を担当するみたいだ。

「勇者がどのくらいの力を持っているのか分かりませんが、一人では危険ですよ。まずはミルクと合流して、せめてミルクと一緒に行動して下さい」

 リーナさんも準従魔的な扱いになって、経験値は+1000%だ。この1年でかなりレベルが上がっている。

 それでも勇者という未知数の相手に対して、保険は多いに越したことは無い。

「確かにそうね。勇者といっても、召喚されたばかりでレベルも低いとは思うけど、不明な事も多すぎるもんね。
 じゃあ、私はまずリョーマと一緒にダンジョンに向かおうかしら?」

「鈴木さんはどうします?」

「そうですね。私は連絡役としてゼムスさんの屋敷で待機しようと思います。
 【念話】があるとは言え、連絡を取り合う為に所在のはっきりしたメンバーが1人はいた方が良いと思いますので」

 鈴木さんは自宅待機らしい。鈴木さんもこの1年でそれなりにレベルは上がったが、経験値が大幅にアップしたリーナさん程ではない。あまり危険な場所に行ってもらう訳にもいかないかな。

「そうじゃな。それでいいじゃろう。スズキ殿はいざと言うときは【発動阻害】のスキルで勇者の足止めができるかも知れん最終兵器じゃ。切り札は最後まで取っておくものじゃ」

 あれだね。有名なセリフ。切り札は先に見せるな。見せるなら更に奥の手を持て。誰が言ったか忘れたけど、その通りだと思う。

 確かに鈴木さんのスキルは切り札になり得る。どんなスキルだろうと範囲内に居たら発動を阻害できるのだ。できるだけ敵に知られない方が有利に動けるだろう。

「それじゃあ、まとめると僕とリーナさんはまずはダンジョンへ向かってミルク、シルク、そしてガルム隊と合流。
 ゼムスさんは神殿へ。そして鈴木さんはゼムスさんの屋敷で待機ですね。
 何かあった場合は【念話】で連絡を取るか、鈴木さん経由でですね」

「ええ、わかったわ。その方向で行きましょう」

「ゴメン。俺完全に空気なんだけどどうしようか」

 あ、ジョージの事を忘れていた! ダンジョンの閉鎖や、調査クエストを発行している間に、少しだけどジョージに状況も説明をした。それなりに話には付いて来れていると思う。

 しかし、現時点でジョージにできる事か・・・。

「ジョージは僕に付いて来るのが一番だと思うけど、どうかな? ジョージのスキルで何か分かる?」

 ジョージのスキルは【最善選択】。今の打ち合わせの結果が問題あれば何らかの反応があるんじゃないだろうか?

「一応、俺のスキルでも今の選択が最善と出てる。一緒に連れてってもらっていいかな?」

 こんな時に、選択が間違っていないか分かるのは結構大きいかも知れないな。見えない何かに後押ししてもらっているみたいだ。

「それじゃあ、ダンジョンへは僕、リーナさん、ジョージの3人で向かうって事で良いかな?
 僕はガルムと合流したら、もう1度ここに戻って調査クエストに参加するつもりです」

 そう言いながらみんなを見ると、それぞれが頷いてくれた。

「では、リョーマとリーナ殿は特に危険が多いが気を付けるんじゃぞ」

「分かってます。無理はしないようにしますのでご安心下さい。
 多分一番危険なのはリーナさんです。後でもう少し作戦を練りましょう」

 そうして、俺たちはそれぞれ役割を決めて、行動を開始した。


 ☆


「なあ、リョーマ」

 ダンジョンに向かう途中、ジョージが話しかけてくる。今回は飛ばずに徒歩で移動中だ。

「どうしたの?」

「新しい従魔がダンジョンから出てくるんだろ?
 もし良かったら、俺とパートナー契約を結べないかな?
 どう考えても、今の俺はお荷物だ。このままだと守られるだけの存在になってしまう。それじゃあダメだと思うんだ。
 パートナー契約をしたら、お前の指揮下に入る代わりに、ステータスアップや経験値アップの恩恵があるんだろ?
 そしたら俺も少しは役に立てるかもしれない」

 確かに、ジョージも異邦人なのでこの騒動の中心人物の一人だ。そして、本人が言う通り現時点で力不足なのは間違いない。

「うん。でも、そればかりは俺が決めれる事じゃないかな。パートナー契約だからシルクとジョージの気が合わなかったら、ダメだし。
 まあ、もしダメでも強化関連の魔道具とかこの1年で色々と作ったから、それは後で渡すよ」

 できる事なら、ジョージの底上げとしてシルクとパートナー契約が結べればそれに越したことはない。けど普通の従魔契約と違って、パートナー契約は従魔と人との契約になるので、両者の同意が必要みたいだ。お膳立てはするけど、最終的には2人次第なんだよね。

「おま、またサラッと言ったけど、お前が作った強化の魔道具とか、どうせ国宝級な代物なんだろ?
 まだカミングアウトして1日も経ってないけど、色々と規格外なのに慣れてきたぞ」

「あはは、ジョージ君、良く分かってるわね。その通り、リョーマが作った魔道具はどれも目玉が飛び出るような代物よ。期待してると良いわ」

 うーん。俺はこんなの有ったらいいな。ってのを形にしているだけなのに、いつも驚かれてて、まあリョーマだからで片付けられるんだよな。不思議だ。

 そんな感じで話をしつつ、ダンジョンの入口に到着すると、既にギルドによって厳戒態勢が敷かれていた。

「さすがグランドマスター。仕事が早いわね。
 入口の封鎖だけじゃなくて、中級~上級の冒険者による救助隊も組織されてるみたいね」

「ですね。とりあえずダンジョン内は僕たちの出る幕はなさそうですので、ここでミルクたちが出てくるのを待ちましょう」

 俺たちは一旦、入口で待機する事にした。さっき連絡があって、既に2階にいるって事だったしね。
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