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十一

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俺は言葉を失って立ち尽くしてしまった。

バトーの言うようにすると、客先の資料をただ預かっているだけになる。

顧客から受け取る報酬は、ただの保管料か…

「レイオ!そこで黙るんじゃない。聞いてるのか?」バトーはこちらを睨みながら怒鳴りちらしはじめた。

「お前のような無能は不要な人材だ。入ったばかりのナジル君の方ができるなんて。

首にされても文句言えないだろ!

どうしてもここにとどまりたいというんなら、お前の給与は下げないといけないな!

少なくとも新人の彼以下にはなるがなあ!能力の無い者は仕方ないんだ!だがお前に耐えられるかなあ!」

もし昼飯時に先輩から話を聞いてなければ、自分は動揺してうろたえるばかりになっていたかもしれない。

だが自分にはこの状況に対応する考えがあった。

そもそも少し前から職を辞することを考えていたのだ。

その上で昼ご飯の時に聞いた話が考えに加わり、この部屋に入るまでの間に、こういう方向で退職しようと考えていたばかりであったのだ。

あんまり気持ちのいい方法ではないが、仕方ないだろう。

バトーが睨んでいる目の前で口を開く。

「はい、すみません。自分はこれまで先輩方達から受け継いだ方法で仕事の処理をしていたつもりですが、意味は良くわかっておりませんでした。ご指導ありがとうございます。」

バトーは驚いた顔になり少しの間黙った。「意味わからないままやっていたのか?」

「はい、これまで先輩方の指示どおり動いておりましたが、意味がわかってのことではありません。意味について教えを乞う時間もありませんでしたので。

今回のことも、この方法でやるのがいいのかどうかもわかりませんでした。

誰かに聞くこともできませんでしたので、こうなりました。申し訳ございません。」

「そ、そんな状態な奴は辞めてもらったほうがいいな!

ま、まあ、心を入れ替えて、ナジルの下で、新人以下の給与で働くようなら、雇ってやってもいい!」

目の端に入るナジルの顔は、苦い顔をしていた。
この先も俺とつきあうことになるのは嫌だと言いたそうだ。

俺は口を開いた。
「いえ、そんなわけにはいきません。

何年もやっていたのにわからなかった自分では、いるとご迷惑となります。
このまま辞めさせていただきます。」

「ふん、そうか。まあお前が自分の無能さを認めたのなら、昨日までの給与も減額して払う。
いや、むしろもう払わない。とっとと出ていけ!」

「わかりました。

ただ、今後の自分の生活もありますので、仕事で給与もらえなくなった件を、国の就労機関に話します。

当座の生活費として、一時金もらえるかもしれませんから。

それではありがとうございました。」俺は礼をした。

「ちょっと待て!国の就労機関にその…話をするのは…待て、待つんだ」バトーはブツブツ言い出した。

就労機関に、給与が払われなかったり過度に減額された報告をすると、雇う側は懲罰を受けるのだ。

自分は知らないふりをしてさり気なく話をしたのだった。

バトーはすぐ計算をして、昨日までの給与をその場でこちらに払った。

即金か。金、あるところには、あるってことだよな…

「もう来るなよ」バトーは吐き捨てた。
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