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case5北野あかり『夜間パトロールもお手の物』
第22話【相談内容】神守坂神社の神様は……
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神主さんのおじい様からいろいろ聞いていると思うんですけど……
えっ?
まずは自己紹介からですか?
わかりました。
私は北野あかりと言います。
19歳で短大生です。
実は私、小学校四年生までは原因不明の体調不良が続いて、入退院を繰り返していたんです。
体育はいつも見学で、他の子が楽しそうに泳ぐのをプールサイドで見ていることしかできませんでした。
学校に行っても保健室で過ごすことが多くて、高校生になるまで生きられないだろうって大きな病院では言われていたんです。
どこに行っても、どんな検査をしても、私の体調不良の原因を突きとめることはできませんでした。
だから私と私の両親はそれこそ藁にもすがる思いで神守坂神社にお願いしに行ったんです。
地元ではちょっと有名ですよね!
すごい昔からあって、原因不明の病気や怪我を治したっていう逸話も残っていて。
お父さんの背中におぶさって、何十段もある階段を上ったのを覚えています。
私たちには残されていたのは神様にお願いすることだけでしたから。
そこで出会ったのが久能さんのおじい様でした。
白い羽織に、同じく白の袴をはいた、ものすごく大柄な神主さんだったのは今も昔もちっとも変っていませんね。
っていうか、さっきの『大声でバカみたいに元気な神主さん』っていうのは笑っちゃいました。
たしかに大きい声だし、年を感じさせないですもんね!
でも久能さんのおじい様って神守坂神社で一番偉い人なんでしょ?
やっぱり!
まとうオーラがすごいですもんね!
神社の名物神主になってますし。
知ってます、おじい様のあだ名。
『阿修羅じじい』ですって。
これ、小学生が言ってたんですけど。
ええ。
だっておじい様、本当にすごい覇気なんですもの。
すみません。
大脱線しちゃった。
続きですね。
ええっと。
当時、久能先生のおじい様は……って、そこはあだ名で呼ばないとダメとか言わないでくださいってば!
でね。
私の病気の話を聞くと「承知しました」って笑ってくれたんです。
普通なら神様に仕える人しか入ることを許されない場所にも案内してくれて、お祈りをしてくれたんです。
その長いお祈りの後でおじい様はこう言いました。
『これで大丈夫。ここの神様はね、とてもすごい力を持っているんだよ。邪なものを寄せつけず、災いを祓ってくれる。きっとあなたの病も、ここを守る神様が祓ってくれますよ』
って――
そうしたら、翌日から私の体調がみるみるよくなったんです。
それまでのことが全部ウソだったみたいに、です!
走っても息切れすることもなくなりました。
長い時間外にいてもめまいも耳鳴りもなくなりました。
食べた物も吐かなくなったので、ガリガリに痩せて骨と皮しかなかった体は、普通の女の子と同じくらいになったんですよ!
私、本当に神様に感謝しました。
それからは困りごとがあるとおじい様に相談しに行くようになったんです。
いつもニコニコ笑って、私の相談に乗ってくれました。
好きな男の子ができたときなんかは、もっと自信を持って積極的に行きなさいなんてアドバイスまでくれたんです。
結果は撃沈だったけどね。
そりゃそうだって?
あんなゴリラみたいな人が恋のアドバイスなんてできっこないって……
でもでもでも、優しいんです!
失恋して泣く私の隣でおじい様のほうがわんわん声をあげて泣いてくれたんですよ!
もうっ!
久能先生ったら笑いすぎですって!
ここからが本題なんですけど!
実は、今回私が相談したのは暴漢に襲われかけたことです。
アルバイトからの帰り道、私が自転車で走っていると二人組の男に車で追い回されれました。
細い路地に入ってなんとか振り切ることはできたんですけど、次のアルバイトのときにも同じ男たちに追い回されたんです。
しかもバイクでです。
当たり前ですけど、自転車よりもバイクのほうが早いんです。
私の自転車の前と後ろについて、挟み撃ちにされました。
急にブレーキを踏まれて前のバイクがとまるから、よけようとして自転車ごと倒れてしまいました。
そこへ後ろについていた男がやってきて、私の体に圧し掛かったんです。
恐ろしさのあまり声が出ませんでした。
前を走っていた男もやってきて、暗がりに連れ込まれました。
抵抗しなければ乱暴される。
だけど抵抗したら殺される可能性もある。
怖くて。
すごく怖くて。
頭が真っ白になりました。
ひとりに抑え込まれ、ひとりには口を塞がれました。
上着に男の手がかかって……
思い出しても今も震えがとまらなくなります。
私は神様にお願しました。
ありたっけの力を込めて、心の中で叫びました。
助けてって――
そうしたら、私の目の前を白い影が走ったんです。
こう、びゅうっと!
私の口をふさいでいた男が『ぎゃあっ!』って叫んで手を放しました。
『どうしたっ!』
って、私の体を抑え込んでいた男が顔をあげたときに、白い影がまた目の前をびゅんっと横切りました。
叫び声が上がりました。
抑え込まれていた腕が自由になったので、力の限り手をつっぱねて、男の体を突き飛ばしました。
もうなりふり構わず逃げました。
自転車を置き去りにして、近くの家に駆けこんで助けを求めました。
警察に通報してもらって、現場に戻ったときにはもう男たちの姿も、置き去りにした自転車も、あとかたもなく消えていました。
その日はパトカーで家まで送ってもらいました。
『今日はしっかりパトロールしますから、安心して休んでください』
そう言われたんですけどね。
寝られなかったです。
窓からそっと外を伺ました。
パトカーの赤いランプが一時間起きに私のアパート前を通り過ぎていくのが見えました。
窓際でそのまま眠ってしまいました。
気づいたら翌日のお昼すぎになっていました。
怖かったですけど、外へ出ました。
そこで目を見はりました。
だってね、なくなった自転車がアパートに置いてあったんですから。
それに、自転車のカゴに白い紙が入っていたんです。
恐る恐る開くと、パソコンの文字で『次は必ずやってやる』と書かれていました。
ゾッとしました。
もう気持ち悪いのを通り越して、生きた心地がしなくって。
だから急いで警察へ駆け込みました。
警察はパトロールを続けますと言ってくれました。
でも、どうしても安心できなくて……
で、おじい様に会いに行ったんです。
神様が助けてくれるかはわからない。
だけど、信じる者は救われるって言うし。
それにおじい様に昔教わったから。
神守坂神社の神様は『邪を寄せつけず、災いを祓ってくれる』って。
打ち明けた私の頭を、おじい様は優しくなでてくれました。
『よくぞ相談してくれたね、あかりちゃん。君の相談に乗ってくれそうな人に心当たりがあるから。そうだ、今日の夕方6時に住んでいるアパートから一番近いコンビニへ行きなさい。いいね、夕方の6時だよ』
神守坂神社から一旦家に戻って、約束の時間を待ちました。
真夏の昼間は長いから、6時はまだ十分明るかったし、これならひとりで歩いても平気かなって。
午後の5時半に家を出ました。
おじい様に言われたように一番近いコンビニへ向かったんです。
そうしたら、自動ドアの前でじっと座っているこの猫さんに出会って……今に至るって感じですね。
えっ?
まずは自己紹介からですか?
わかりました。
私は北野あかりと言います。
19歳で短大生です。
実は私、小学校四年生までは原因不明の体調不良が続いて、入退院を繰り返していたんです。
体育はいつも見学で、他の子が楽しそうに泳ぐのをプールサイドで見ていることしかできませんでした。
学校に行っても保健室で過ごすことが多くて、高校生になるまで生きられないだろうって大きな病院では言われていたんです。
どこに行っても、どんな検査をしても、私の体調不良の原因を突きとめることはできませんでした。
だから私と私の両親はそれこそ藁にもすがる思いで神守坂神社にお願いしに行ったんです。
地元ではちょっと有名ですよね!
すごい昔からあって、原因不明の病気や怪我を治したっていう逸話も残っていて。
お父さんの背中におぶさって、何十段もある階段を上ったのを覚えています。
私たちには残されていたのは神様にお願いすることだけでしたから。
そこで出会ったのが久能さんのおじい様でした。
白い羽織に、同じく白の袴をはいた、ものすごく大柄な神主さんだったのは今も昔もちっとも変っていませんね。
っていうか、さっきの『大声でバカみたいに元気な神主さん』っていうのは笑っちゃいました。
たしかに大きい声だし、年を感じさせないですもんね!
でも久能さんのおじい様って神守坂神社で一番偉い人なんでしょ?
やっぱり!
まとうオーラがすごいですもんね!
神社の名物神主になってますし。
知ってます、おじい様のあだ名。
『阿修羅じじい』ですって。
これ、小学生が言ってたんですけど。
ええ。
だっておじい様、本当にすごい覇気なんですもの。
すみません。
大脱線しちゃった。
続きですね。
ええっと。
当時、久能先生のおじい様は……って、そこはあだ名で呼ばないとダメとか言わないでくださいってば!
でね。
私の病気の話を聞くと「承知しました」って笑ってくれたんです。
普通なら神様に仕える人しか入ることを許されない場所にも案内してくれて、お祈りをしてくれたんです。
その長いお祈りの後でおじい様はこう言いました。
『これで大丈夫。ここの神様はね、とてもすごい力を持っているんだよ。邪なものを寄せつけず、災いを祓ってくれる。きっとあなたの病も、ここを守る神様が祓ってくれますよ』
って――
そうしたら、翌日から私の体調がみるみるよくなったんです。
それまでのことが全部ウソだったみたいに、です!
走っても息切れすることもなくなりました。
長い時間外にいてもめまいも耳鳴りもなくなりました。
食べた物も吐かなくなったので、ガリガリに痩せて骨と皮しかなかった体は、普通の女の子と同じくらいになったんですよ!
私、本当に神様に感謝しました。
それからは困りごとがあるとおじい様に相談しに行くようになったんです。
いつもニコニコ笑って、私の相談に乗ってくれました。
好きな男の子ができたときなんかは、もっと自信を持って積極的に行きなさいなんてアドバイスまでくれたんです。
結果は撃沈だったけどね。
そりゃそうだって?
あんなゴリラみたいな人が恋のアドバイスなんてできっこないって……
でもでもでも、優しいんです!
失恋して泣く私の隣でおじい様のほうがわんわん声をあげて泣いてくれたんですよ!
もうっ!
久能先生ったら笑いすぎですって!
ここからが本題なんですけど!
実は、今回私が相談したのは暴漢に襲われかけたことです。
アルバイトからの帰り道、私が自転車で走っていると二人組の男に車で追い回されれました。
細い路地に入ってなんとか振り切ることはできたんですけど、次のアルバイトのときにも同じ男たちに追い回されたんです。
しかもバイクでです。
当たり前ですけど、自転車よりもバイクのほうが早いんです。
私の自転車の前と後ろについて、挟み撃ちにされました。
急にブレーキを踏まれて前のバイクがとまるから、よけようとして自転車ごと倒れてしまいました。
そこへ後ろについていた男がやってきて、私の体に圧し掛かったんです。
恐ろしさのあまり声が出ませんでした。
前を走っていた男もやってきて、暗がりに連れ込まれました。
抵抗しなければ乱暴される。
だけど抵抗したら殺される可能性もある。
怖くて。
すごく怖くて。
頭が真っ白になりました。
ひとりに抑え込まれ、ひとりには口を塞がれました。
上着に男の手がかかって……
思い出しても今も震えがとまらなくなります。
私は神様にお願しました。
ありたっけの力を込めて、心の中で叫びました。
助けてって――
そうしたら、私の目の前を白い影が走ったんです。
こう、びゅうっと!
私の口をふさいでいた男が『ぎゃあっ!』って叫んで手を放しました。
『どうしたっ!』
って、私の体を抑え込んでいた男が顔をあげたときに、白い影がまた目の前をびゅんっと横切りました。
叫び声が上がりました。
抑え込まれていた腕が自由になったので、力の限り手をつっぱねて、男の体を突き飛ばしました。
もうなりふり構わず逃げました。
自転車を置き去りにして、近くの家に駆けこんで助けを求めました。
警察に通報してもらって、現場に戻ったときにはもう男たちの姿も、置き去りにした自転車も、あとかたもなく消えていました。
その日はパトカーで家まで送ってもらいました。
『今日はしっかりパトロールしますから、安心して休んでください』
そう言われたんですけどね。
寝られなかったです。
窓からそっと外を伺ました。
パトカーの赤いランプが一時間起きに私のアパート前を通り過ぎていくのが見えました。
窓際でそのまま眠ってしまいました。
気づいたら翌日のお昼すぎになっていました。
怖かったですけど、外へ出ました。
そこで目を見はりました。
だってね、なくなった自転車がアパートに置いてあったんですから。
それに、自転車のカゴに白い紙が入っていたんです。
恐る恐る開くと、パソコンの文字で『次は必ずやってやる』と書かれていました。
ゾッとしました。
もう気持ち悪いのを通り越して、生きた心地がしなくって。
だから急いで警察へ駆け込みました。
警察はパトロールを続けますと言ってくれました。
でも、どうしても安心できなくて……
で、おじい様に会いに行ったんです。
神様が助けてくれるかはわからない。
だけど、信じる者は救われるって言うし。
それにおじい様に昔教わったから。
神守坂神社の神様は『邪を寄せつけず、災いを祓ってくれる』って。
打ち明けた私の頭を、おじい様は優しくなでてくれました。
『よくぞ相談してくれたね、あかりちゃん。君の相談に乗ってくれそうな人に心当たりがあるから。そうだ、今日の夕方6時に住んでいるアパートから一番近いコンビニへ行きなさい。いいね、夕方の6時だよ』
神守坂神社から一旦家に戻って、約束の時間を待ちました。
真夏の昼間は長いから、6時はまだ十分明るかったし、これならひとりで歩いても平気かなって。
午後の5時半に家を出ました。
おじい様に言われたように一番近いコンビニへ向かったんです。
そうしたら、自動ドアの前でじっと座っているこの猫さんに出会って……今に至るって感じですね。
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