3 / 45
case1 門奈愛華『こちら、しろねこ心療所』
第3話【アセスメント】リップはつやつや、ぷるぷるがマスト!
しおりを挟む
「本当にひどい話です。よくぞ、そんな長い間ひとりで耐えてきましたね。あなたは本当に強い女性ですよ」
「強い? 私が? だって『やめてください』って言えないんですよ?」
驚いて尋ねた私に久能さんは目を真ん丸にさせた。
私の質問に心底びっくりしたみたいだった。
「自分の強さに気づいていらっしゃらなかったと?」
「意味がぜんぜんわかんないです。だって普通、強い女の子なら痴漢を撃退しちゃうもんでしょう?」
そう答えると久能さんは「ノンノン」と右手の人差し指を左右に小さく振ってみせた。
「強いっていろんな種類があるんです。愛華さんの場合は心がとても強いんです。だから人よりうんと我慢できちゃうんです。それってもろ刃の剣でもあるんですけどね。だからこそ、そんなあなたを苦しめる相手は許せないなと思います。ねえ、白夜さん?」
それまでじっとして聞き入るように目をつむっていた白猫がおもむろにまぶたを上げた。
ふわあっと大きなあくびをひとつこぼすと、鼻袋を膨らませてムッとした表情を作った。
「ほらっ、白夜さんもすっごく怒ってます」
「それ、起こされたからじゃ……」
「いいえ! 白夜さんはそもそも女性を困らせる輩が大嫌いなんで。私に起こされたのを怒っているわけじゃないです! 断じて! 絶対!」
力説する久能さんの上で白夜と呼ばれた白猫は耳をプルッと動かした後、同意とでも言いたげに「ウナア」と短く鳴いた。
「ほらね!」
うんうんと満足そうに久能さんがほほ笑んだ。
すると、なにを思ったか白猫が久能さんの頭の上から飛び降りて、私の前にちょこんと腰を下ろした。
「愛華さん!」
「あっ……はいっ!」
大きな声で名前を呼ばれた反動で、背筋が伸びた。
久能さんのほうに体を向けようとするとすぐに制止される。
「あくまでも主人は白夜さんなので、彼の顔を見ていてください。今から彼の言うことをお伝えしますから」
「は……はい」
大人しく久能さんの言うとおりに白猫の顔を見る。
白猫も私を見上げた。
久能さんがコホンとひとつ咳払いする。
「ええ、では……門奈愛華。おまえの悩みは俺様がきっちり、スッキリ、スマートに解決してやる。ただし条件がある。って……ええっ! 条件ですか? こんなにがんばってる子に条件とかつけるんですか? 鬼畜すぎますよ、白夜さん!」
久能さんが白猫を非難する。
すると猫はツンっと鼻先を上向きにしたまま、しっぽでピタンッと地面を叩いた。
「はいはい、わかりました。えっと……愛華は今後、メガネをやめてコンタクトにすること。って、高校生にコンタクトに買い替えろって。今は安いのもありますけど、結構するんじゃないですか?」
「あっ、それなら大丈夫です! 前に買ったんです、コンタクト。だけど、目に異物入れるのが怖くて、ずっと机の中にしまったままになっているのがあるので。今度はチャレンジしてみます」
「そうですか。それじゃあ、メガネをコンタクトにしてもらって。え? それも?」
「え?」
「えっとですね。髪をおろして、くるくるふわふわにしてこい……だそうです」
「くるくるにふわふわ……ですか?」
「くるくるにふわふわだそうです。譲れないって言ってます。いや、これってば完全に白夜さんの趣味の押し付けだと思うんですけど……」
「趣味の押し付け……」
白猫はふんっと鼻を鳴らした。
きれいなブルーの色の目は不機嫌そのもので、完全に座っている。
『NO』はありえないという顔だ。
久能さんを見る。
彼は困ったように眉尻を下げていた。
ふうっと大きなため息をつくと遠慮しながらも念を押すように久能さんは言った。
「あとですね。リップはピンクのつやつや、ぷるぷるがマスト……だそうです」
「強い? 私が? だって『やめてください』って言えないんですよ?」
驚いて尋ねた私に久能さんは目を真ん丸にさせた。
私の質問に心底びっくりしたみたいだった。
「自分の強さに気づいていらっしゃらなかったと?」
「意味がぜんぜんわかんないです。だって普通、強い女の子なら痴漢を撃退しちゃうもんでしょう?」
そう答えると久能さんは「ノンノン」と右手の人差し指を左右に小さく振ってみせた。
「強いっていろんな種類があるんです。愛華さんの場合は心がとても強いんです。だから人よりうんと我慢できちゃうんです。それってもろ刃の剣でもあるんですけどね。だからこそ、そんなあなたを苦しめる相手は許せないなと思います。ねえ、白夜さん?」
それまでじっとして聞き入るように目をつむっていた白猫がおもむろにまぶたを上げた。
ふわあっと大きなあくびをひとつこぼすと、鼻袋を膨らませてムッとした表情を作った。
「ほらっ、白夜さんもすっごく怒ってます」
「それ、起こされたからじゃ……」
「いいえ! 白夜さんはそもそも女性を困らせる輩が大嫌いなんで。私に起こされたのを怒っているわけじゃないです! 断じて! 絶対!」
力説する久能さんの上で白夜と呼ばれた白猫は耳をプルッと動かした後、同意とでも言いたげに「ウナア」と短く鳴いた。
「ほらね!」
うんうんと満足そうに久能さんがほほ笑んだ。
すると、なにを思ったか白猫が久能さんの頭の上から飛び降りて、私の前にちょこんと腰を下ろした。
「愛華さん!」
「あっ……はいっ!」
大きな声で名前を呼ばれた反動で、背筋が伸びた。
久能さんのほうに体を向けようとするとすぐに制止される。
「あくまでも主人は白夜さんなので、彼の顔を見ていてください。今から彼の言うことをお伝えしますから」
「は……はい」
大人しく久能さんの言うとおりに白猫の顔を見る。
白猫も私を見上げた。
久能さんがコホンとひとつ咳払いする。
「ええ、では……門奈愛華。おまえの悩みは俺様がきっちり、スッキリ、スマートに解決してやる。ただし条件がある。って……ええっ! 条件ですか? こんなにがんばってる子に条件とかつけるんですか? 鬼畜すぎますよ、白夜さん!」
久能さんが白猫を非難する。
すると猫はツンっと鼻先を上向きにしたまま、しっぽでピタンッと地面を叩いた。
「はいはい、わかりました。えっと……愛華は今後、メガネをやめてコンタクトにすること。って、高校生にコンタクトに買い替えろって。今は安いのもありますけど、結構するんじゃないですか?」
「あっ、それなら大丈夫です! 前に買ったんです、コンタクト。だけど、目に異物入れるのが怖くて、ずっと机の中にしまったままになっているのがあるので。今度はチャレンジしてみます」
「そうですか。それじゃあ、メガネをコンタクトにしてもらって。え? それも?」
「え?」
「えっとですね。髪をおろして、くるくるふわふわにしてこい……だそうです」
「くるくるにふわふわ……ですか?」
「くるくるにふわふわだそうです。譲れないって言ってます。いや、これってば完全に白夜さんの趣味の押し付けだと思うんですけど……」
「趣味の押し付け……」
白猫はふんっと鼻を鳴らした。
きれいなブルーの色の目は不機嫌そのもので、完全に座っている。
『NO』はありえないという顔だ。
久能さんを見る。
彼は困ったように眉尻を下げていた。
ふうっと大きなため息をつくと遠慮しながらも念を押すように久能さんは言った。
「あとですね。リップはピンクのつやつや、ぷるぷるがマスト……だそうです」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる